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第2部 4章
68 宣告
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メトワでの最終日になった。
この日王城では朝から使用人たちの間でちょっとした騒ぎが起きていた。
レイヴンの纏う香りが変わったのである。
王都から離れたメトワの使用人たちでも、レイヴンが長年香水を変えていないことは知っていた。
それくらいレイヴンが使う香水は社交界で有名なのだ。
流行に敏感な貴族たちが同じものを使い続けることはほとんどない。新しいものを見つけて流行らせるのが社交界のステータスだ。
そんな中で国王や王太子が使うものは多くの貴族男性から注目されている。マルグリットやアリシアが女性の流行を作る存在なら、国王やレイヴンは男性の流行を作る存在なのだ。
レイヴンがあの香水を使い始めた時、同年代の令息はこぞって同じ香水を買い求めた。それまでもレイヴンが使うものは売れていたけれど、日によって変わるのでそこまで話題にならなかったのだ。
それが同じ香水を使い続けるようになった。シーズン中一度も変えることなく使い続けるのは、余程気に入っているということだ。
「王太子殿下のお気に入り」
その効果は凄い。
元々同年代に人気だったこの香りは、シーズンが終わる頃にはほとんどの家の令息に使われるようになっていた。
だから自分がその年代に入っていなくても、息子が、弟が、その香水を使っていたのを知っているのだ。
ただ貴族は季節によって香水を変える。成長する内に好みが変わることもある。
季節が変わり、年を重ねても香水を変えないレイヴンに怪訝な顔をしながらも、子息たちは次の流行へと移っていった。
そのレイヴンが香りを変えたのだ。
大きな理由があるはずである。
「殿下、香水を変えられたのですね」
そわそわする使用人の中、トーマスが用心深くレイヴンへ話し掛けた。
レイヴンは今、支度するアリシアを応接室で待っている。
トーマスにはレイヴンの信頼を失いつつある自覚があった。
だけどトーマスはこの城の執事である。自身の立場を保つ為にも、他の使用人の前では関係が良好であるように見せなければならない。
その為には他の者が触れづらい話題に敢て触れる必要があった。
殿下にとって嫌な話題ではありませんように、とトーマスは心の中で願う。
だけどレイヴンから返ってきた反応は、想像していたより随分と友好的なものだった。
「ああ!アリシアが一緒に選んでくれたんだ」
パッと顔を輝かせたレイヴンは上機嫌だ。
レイヴンとしては昨日から誰かに聞いて欲しくて仕方なったのである。
だけどトーマスにはその答えが引っかかった。
「……妃殿下が選ばれた香りなのですか?」
あれほどこだわっていた香りを変えさせたのはアリシアなのか。
それはレイヴンを支配したいという、最大限の我儘だろう。レイヴンはなぜ嬉しそうに従っているのか。
混乱するトーマスに気づかず、レイヴンは嬉しそうに続ける。
「一緒に選んだんだよ。調香師のところで、色んな香りを試しながら一緒に作ったんだ。アリシアに贈られた香水も嬉しかったけど、一緒に作り上げた香水はもっと嬉しいね」
昨日出掛けた街で買ったということだ。
それも既製品を買ったのではなく、調香師の元でレイヴンだけの香りを作り上げた。
いや、それよりも。
「……妃殿下に贈られた?」
「昨日まで使っていた香水だよ。アリシアが13の誕生日に贈ってくれたんだ」
「っ!!」
レイヴンがさらりと告げた事実にトーマスは衝撃を受けた。
レイヴンが使い続けたあの香水は、今ではどの家にも1つは常備されている定番の品になっている。
その香水を使っていたのは、アリシアに贈られたからなのか。
と、いうことは……。
「……君たちが誤解したのは、僕が素直になれずに長い間アリシアと良好な関係を築けなかったせいでもある。だから今回のことには目を瞑るつもりだ。だけど次に来た時、同じことがあれば黙ってない。この城の使用人を全員入れ替えることになっても容赦はしない」
レイヴンの言葉にトーマスはビクリと体を震わせた。
トーマスだけではなく、部屋で控えている使用人たちも揃って顔を強張らせている、
使用人たちがアリシアに見せた態度をレイヴンは許していない。
その宣告だった。
この日王城では朝から使用人たちの間でちょっとした騒ぎが起きていた。
レイヴンの纏う香りが変わったのである。
王都から離れたメトワの使用人たちでも、レイヴンが長年香水を変えていないことは知っていた。
それくらいレイヴンが使う香水は社交界で有名なのだ。
流行に敏感な貴族たちが同じものを使い続けることはほとんどない。新しいものを見つけて流行らせるのが社交界のステータスだ。
そんな中で国王や王太子が使うものは多くの貴族男性から注目されている。マルグリットやアリシアが女性の流行を作る存在なら、国王やレイヴンは男性の流行を作る存在なのだ。
レイヴンがあの香水を使い始めた時、同年代の令息はこぞって同じ香水を買い求めた。それまでもレイヴンが使うものは売れていたけれど、日によって変わるのでそこまで話題にならなかったのだ。
それが同じ香水を使い続けるようになった。シーズン中一度も変えることなく使い続けるのは、余程気に入っているということだ。
「王太子殿下のお気に入り」
その効果は凄い。
元々同年代に人気だったこの香りは、シーズンが終わる頃にはほとんどの家の令息に使われるようになっていた。
だから自分がその年代に入っていなくても、息子が、弟が、その香水を使っていたのを知っているのだ。
ただ貴族は季節によって香水を変える。成長する内に好みが変わることもある。
季節が変わり、年を重ねても香水を変えないレイヴンに怪訝な顔をしながらも、子息たちは次の流行へと移っていった。
そのレイヴンが香りを変えたのだ。
大きな理由があるはずである。
「殿下、香水を変えられたのですね」
そわそわする使用人の中、トーマスが用心深くレイヴンへ話し掛けた。
レイヴンは今、支度するアリシアを応接室で待っている。
トーマスにはレイヴンの信頼を失いつつある自覚があった。
だけどトーマスはこの城の執事である。自身の立場を保つ為にも、他の使用人の前では関係が良好であるように見せなければならない。
その為には他の者が触れづらい話題に敢て触れる必要があった。
殿下にとって嫌な話題ではありませんように、とトーマスは心の中で願う。
だけどレイヴンから返ってきた反応は、想像していたより随分と友好的なものだった。
「ああ!アリシアが一緒に選んでくれたんだ」
パッと顔を輝かせたレイヴンは上機嫌だ。
レイヴンとしては昨日から誰かに聞いて欲しくて仕方なったのである。
だけどトーマスにはその答えが引っかかった。
「……妃殿下が選ばれた香りなのですか?」
あれほどこだわっていた香りを変えさせたのはアリシアなのか。
それはレイヴンを支配したいという、最大限の我儘だろう。レイヴンはなぜ嬉しそうに従っているのか。
混乱するトーマスに気づかず、レイヴンは嬉しそうに続ける。
「一緒に選んだんだよ。調香師のところで、色んな香りを試しながら一緒に作ったんだ。アリシアに贈られた香水も嬉しかったけど、一緒に作り上げた香水はもっと嬉しいね」
昨日出掛けた街で買ったということだ。
それも既製品を買ったのではなく、調香師の元でレイヴンだけの香りを作り上げた。
いや、それよりも。
「……妃殿下に贈られた?」
「昨日まで使っていた香水だよ。アリシアが13の誕生日に贈ってくれたんだ」
「っ!!」
レイヴンがさらりと告げた事実にトーマスは衝撃を受けた。
レイヴンが使い続けたあの香水は、今ではどの家にも1つは常備されている定番の品になっている。
その香水を使っていたのは、アリシアに贈られたからなのか。
と、いうことは……。
「……君たちが誤解したのは、僕が素直になれずに長い間アリシアと良好な関係を築けなかったせいでもある。だから今回のことには目を瞑るつもりだ。だけど次に来た時、同じことがあれば黙ってない。この城の使用人を全員入れ替えることになっても容赦はしない」
レイヴンの言葉にトーマスはビクリと体を震わせた。
トーマスだけではなく、部屋で控えている使用人たちも揃って顔を強張らせている、
使用人たちがアリシアに見せた態度をレイヴンは許していない。
その宣告だった。
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