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第2部 4章
60 王立病院②
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「妃殿下が作って下さった学校にも感謝しているのですよ」
そう言われてアリシアはハッとした。
話が本題に入ったのだ。
ナイジェルが昨日アリシアへ告げた問題点は、アリシアも当初からわかっていたことだ。
まずは学校自体の費用が高い。3年制でもかなりの出費になる。
だから3年制と6年制に分けたのは、地方の医者不足に対応する為だけではなく、学費を払えずに医療の道を諦める者を減らす為でもあった。6年は無理でも3年間ならなんとか学費を払える、という者は少なからずいる。
それでも3年間の学費は高く、裕福層でなければ難しいというのはアリシアも理解していた。
次に学校が王都にしかない、という点である。
王都出身の者ならいいが、地方の者であれば学校へ通う為に王都へ出て来なければならない。
一部学生の為の寮を用意しているけれど、それも無料なわけではなく、学生は学費の他に生活費も必要だった。
その為、学校に通いながら休日に仕事をしている者もいる。
アリシアはそんな者たちの為に、医学生が王立病院で手伝いをする時は通常より高額の報酬を支払うよう定めた。
王立病院の平民医師の病棟は相変わらず大混雑な為、学生の手伝いでも重宝しているようである。
「ありがとうございます。妃殿下が色々と策を講じて下さっていることは聞き及んでおります」
ナイジェルが頭を下げる。
ただアリシアが講じた策は今の学生を助ける為のものであり、学費を払えなかったり王都まで出てこれない者を助ける為のものではなかった。
ナイジェルが求めているのは、そこなのである。
「……医師が弟子を取ることの有用性を否定するつもりはないのよ。ただそれは、師となる医師の腕と良識に委ねる部分が大きいでしょう」
診療所を開いている医師が弟子を取って育てる。
アリシアもそれを考えたことがないわけではない。
それなら弟子は学費も掛からず、実家の傍で働きながら医術を学ぶことができる。
例えは、アリシアがデミオンに鞭で打たれた時に密かに治療してくれたダンテは、アダムの寄付で診療所を入院設備のある病院に建て替えた。今では複数の医師が24時間体制で治療に当たっている。
ダンテのような医師であれば、弟子をとっても立派な医師へ育てるだろう。
だけど世の中にはダンテのような医師ばかりではない。
アナトリアでも医学校のない時代には医者が弟子を取って後継者を育てていた。その名残は各地にある。
ただそれは既に民間療法と呼ばれるものになっていて、正式な医術として認められていない。
そしてその中には、中毒性の高い薬を治療に用いていたり、毒性のある植物を治療の為だと言って患者に飲ませる者がいたりするのだ。
民間療法に頼るのは大抵が医者に掛かれない貧しい人たちである。
その為、なにか起きても問題化しづらく見過ごされることが多い。問題がわかった時には惨憺たる状況になっていて、踏み込んだ警邏兵が直視できないような惨状が広がっているという。
そんなこともあって、医者を称する者が弟子を取ることに難色を示す者は多い。
それを正式に認めさせる為には議会の承認を得て、国王の許可を得る必要がある。
アリシアにとってはメトワに新しい学校を建てることの方がまだ容易だった。
「……学校が王都に1つあれば十分だと思っているわけではないわ。いずれ王領にも建てることができればと思っているのよ。だけどまだ私の取り組みは何の成果も出していないの。今の段階で次のことは考えられないのよ」
「妃殿下の仰ることは良くわかります。わたしもすぐに何かが変わるとは思っていません。ただこんな意見もあったと、心に留めてくだされば」
アリシアは頷いた。
ナイジェルは平民として生きてきた。
もしかしたら友人の中に、学校の費用を賄えずに医療の道を諦めた者がいるのかもしれない。
そう言われてアリシアはハッとした。
話が本題に入ったのだ。
ナイジェルが昨日アリシアへ告げた問題点は、アリシアも当初からわかっていたことだ。
まずは学校自体の費用が高い。3年制でもかなりの出費になる。
だから3年制と6年制に分けたのは、地方の医者不足に対応する為だけではなく、学費を払えずに医療の道を諦める者を減らす為でもあった。6年は無理でも3年間ならなんとか学費を払える、という者は少なからずいる。
それでも3年間の学費は高く、裕福層でなければ難しいというのはアリシアも理解していた。
次に学校が王都にしかない、という点である。
王都出身の者ならいいが、地方の者であれば学校へ通う為に王都へ出て来なければならない。
一部学生の為の寮を用意しているけれど、それも無料なわけではなく、学生は学費の他に生活費も必要だった。
その為、学校に通いながら休日に仕事をしている者もいる。
アリシアはそんな者たちの為に、医学生が王立病院で手伝いをする時は通常より高額の報酬を支払うよう定めた。
王立病院の平民医師の病棟は相変わらず大混雑な為、学生の手伝いでも重宝しているようである。
「ありがとうございます。妃殿下が色々と策を講じて下さっていることは聞き及んでおります」
ナイジェルが頭を下げる。
ただアリシアが講じた策は今の学生を助ける為のものであり、学費を払えなかったり王都まで出てこれない者を助ける為のものではなかった。
ナイジェルが求めているのは、そこなのである。
「……医師が弟子を取ることの有用性を否定するつもりはないのよ。ただそれは、師となる医師の腕と良識に委ねる部分が大きいでしょう」
診療所を開いている医師が弟子を取って育てる。
アリシアもそれを考えたことがないわけではない。
それなら弟子は学費も掛からず、実家の傍で働きながら医術を学ぶことができる。
例えは、アリシアがデミオンに鞭で打たれた時に密かに治療してくれたダンテは、アダムの寄付で診療所を入院設備のある病院に建て替えた。今では複数の医師が24時間体制で治療に当たっている。
ダンテのような医師であれば、弟子をとっても立派な医師へ育てるだろう。
だけど世の中にはダンテのような医師ばかりではない。
アナトリアでも医学校のない時代には医者が弟子を取って後継者を育てていた。その名残は各地にある。
ただそれは既に民間療法と呼ばれるものになっていて、正式な医術として認められていない。
そしてその中には、中毒性の高い薬を治療に用いていたり、毒性のある植物を治療の為だと言って患者に飲ませる者がいたりするのだ。
民間療法に頼るのは大抵が医者に掛かれない貧しい人たちである。
その為、なにか起きても問題化しづらく見過ごされることが多い。問題がわかった時には惨憺たる状況になっていて、踏み込んだ警邏兵が直視できないような惨状が広がっているという。
そんなこともあって、医者を称する者が弟子を取ることに難色を示す者は多い。
それを正式に認めさせる為には議会の承認を得て、国王の許可を得る必要がある。
アリシアにとってはメトワに新しい学校を建てることの方がまだ容易だった。
「……学校が王都に1つあれば十分だと思っているわけではないわ。いずれ王領にも建てることができればと思っているのよ。だけどまだ私の取り組みは何の成果も出していないの。今の段階で次のことは考えられないのよ」
「妃殿下の仰ることは良くわかります。わたしもすぐに何かが変わるとは思っていません。ただこんな意見もあったと、心に留めてくだされば」
アリシアは頷いた。
ナイジェルは平民として生きてきた。
もしかしたら友人の中に、学校の費用を賄えずに医療の道を諦めた者がいるのかもしれない。
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