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第2部 4章
35 王領 メトワ①
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王城に着いたのは夕方だった。
アリシアが王領―メトワ―の城に仕える者たちと顔を合わせるのはこれが初めてである。
アリシアはレイヴンから出迎えに並んだ使用人の内、執事のトーマスと侍女頭のヘレン、メイド長のリアーナを紹介された。
「宜しくお願い致します、妃殿下」
紹介された彼らは其々 綺麗な動作で頭を下げる。しっかりと教育された者たちで、無礼なところはどこにもない。
それなのにアリシアは何故か居心地の悪さを感じていた。
「言うまでもないことだが、僕たちが滞在している間はアリシアが女主人だ。すべてのことをアリシアに報告し、アリシアの指示を仰いでくれ。また、アリシアの身の回りの世話はエレノアが中心になって行う」
「かしこまりました」
レイヴンの言葉に、玄関にいる使用人すべてが頭を下げて了解の意を告げる。
おかしなことなどどこにもない…はずだ。
「早速だけど、今日の夕食はどうなっているのかしら?」
アリシアが執事のトーマスに訊いた。
これまでは宿に泊まっていたので何もしなくても食事が用意されていた。
だけどここでは食事のメニューを考えるのも女主人の仕事となる。
「恐れながら、本日は夕刻の到着と伺っていましたので、夕食の支度は既に始めさせております」
その判断は正しい。
この時間からニューを決め、料理を始めていれば夕食の時間に間に合わなくなる。
「ありがとう。シェフには夕食時に会えるかしら?」
「はい。ご挨拶に伺うよう申し伝えます」
「あとは用意されている食材のリストを今日中に届けるよう伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
トーマスが再び頭を下げた。きっちりしていて申し分ない動きである。
玄関ホールを見渡してみても綺麗に整えられていて、ここに仕える者たちのしっかりした仕事ぶりがわかる。
それじゃあ私は、何が気に入らないのかしら?
自問してみても答えは見つからない。
「それじゃあそろそろ部屋へ行こうか」
レイヴンに促されて、アリシアは頷いた。
個人的な疑問は後回しにしなくてはならない。
歩き出したアリシアの背中に、頭を下げているはずの使用人たちの視線が絡みついてくるような気がしていた。
王城では別々の部屋が用意されていた。
いや、これが普通なのだが、レイヴンは残念そうな顔をしている。
レイヴンがアリシアを抱き寄せ唇を合わせるだけの口づけをすると、後方からざわめく声が聞こえた。
ついて来ている者がいるのだ。
王太子宮とは違ってここの者たちはレイヴンがアリシアを溺愛していると知らない。
レイヴンはアリシアが部屋へ入るまで見送ると、自分の部屋へ向かった。
「妃殿下、夕食までまだ時間があります。どうぞお休みくださいませ」
「ええ、そうね」
初めて宿に泊まったあの日から、アリシアは無理をすることを止めて宿に着くと晩餐まで仮眠を取ることにしていた。少し眠るだけでも随分と体が楽になる。
シェフは食事の支度があるので食材のリストが届くのは夕食後になるだろう。
それでも万が一食材のリストを届けに来たら受け取っておくよう伝えてアリシアは寝室へ移った。
アリシアに用意されていたのは女主人の部屋である。王太子宮と同じ様にレイヴンの部屋と主寝室で繋がっている。
アリシアが寝室へ入ると、レイヴンが中で待っていた。
「レイヴン様」
「アリシア!良かった、横になると思って待ってたんだ」
レイヴンはさっと立ち上がると、アリシアの傍まで来て横抱きに抱き上げる。そうしてベッドへと運ぶのがここのところの日課になっていた。
アリシアはベッドへ降ろされるといつもすぐに眠ってしまう。
「ずっと傍にいるからね」
レイヴンはそう言うと、アリシアの髪を撫でた。
疲れ切って眠るアリシアを見ていると胸が痛む。
部屋で夕食を摂った方が良い、という気持ちを捨てることができない。
だけどそれはアリシアの為にならない。
レイヴンはアリシアが感じている違和感の正体に気がついていた。
聡いアリシアもすぐに気がつくだろう。
レイヴンができることは、アリシアが王太子妃らしく振る舞えるよう支えることと、アリシアへの愛情を示すことだけだ。
「愛してるよ、アリシア」
眠っているアリシアからは何の反応も返ってこない。
それでもじんわりした幸せが胸に広がってくる。
レイヴンはアリシアが目覚めるまで髪を撫で続けていた。
アリシアが王領―メトワ―の城に仕える者たちと顔を合わせるのはこれが初めてである。
アリシアはレイヴンから出迎えに並んだ使用人の内、執事のトーマスと侍女頭のヘレン、メイド長のリアーナを紹介された。
「宜しくお願い致します、妃殿下」
紹介された彼らは其々 綺麗な動作で頭を下げる。しっかりと教育された者たちで、無礼なところはどこにもない。
それなのにアリシアは何故か居心地の悪さを感じていた。
「言うまでもないことだが、僕たちが滞在している間はアリシアが女主人だ。すべてのことをアリシアに報告し、アリシアの指示を仰いでくれ。また、アリシアの身の回りの世話はエレノアが中心になって行う」
「かしこまりました」
レイヴンの言葉に、玄関にいる使用人すべてが頭を下げて了解の意を告げる。
おかしなことなどどこにもない…はずだ。
「早速だけど、今日の夕食はどうなっているのかしら?」
アリシアが執事のトーマスに訊いた。
これまでは宿に泊まっていたので何もしなくても食事が用意されていた。
だけどここでは食事のメニューを考えるのも女主人の仕事となる。
「恐れながら、本日は夕刻の到着と伺っていましたので、夕食の支度は既に始めさせております」
その判断は正しい。
この時間からニューを決め、料理を始めていれば夕食の時間に間に合わなくなる。
「ありがとう。シェフには夕食時に会えるかしら?」
「はい。ご挨拶に伺うよう申し伝えます」
「あとは用意されている食材のリストを今日中に届けるよう伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
トーマスが再び頭を下げた。きっちりしていて申し分ない動きである。
玄関ホールを見渡してみても綺麗に整えられていて、ここに仕える者たちのしっかりした仕事ぶりがわかる。
それじゃあ私は、何が気に入らないのかしら?
自問してみても答えは見つからない。
「それじゃあそろそろ部屋へ行こうか」
レイヴンに促されて、アリシアは頷いた。
個人的な疑問は後回しにしなくてはならない。
歩き出したアリシアの背中に、頭を下げているはずの使用人たちの視線が絡みついてくるような気がしていた。
王城では別々の部屋が用意されていた。
いや、これが普通なのだが、レイヴンは残念そうな顔をしている。
レイヴンがアリシアを抱き寄せ唇を合わせるだけの口づけをすると、後方からざわめく声が聞こえた。
ついて来ている者がいるのだ。
王太子宮とは違ってここの者たちはレイヴンがアリシアを溺愛していると知らない。
レイヴンはアリシアが部屋へ入るまで見送ると、自分の部屋へ向かった。
「妃殿下、夕食までまだ時間があります。どうぞお休みくださいませ」
「ええ、そうね」
初めて宿に泊まったあの日から、アリシアは無理をすることを止めて宿に着くと晩餐まで仮眠を取ることにしていた。少し眠るだけでも随分と体が楽になる。
シェフは食事の支度があるので食材のリストが届くのは夕食後になるだろう。
それでも万が一食材のリストを届けに来たら受け取っておくよう伝えてアリシアは寝室へ移った。
アリシアに用意されていたのは女主人の部屋である。王太子宮と同じ様にレイヴンの部屋と主寝室で繋がっている。
アリシアが寝室へ入ると、レイヴンが中で待っていた。
「レイヴン様」
「アリシア!良かった、横になると思って待ってたんだ」
レイヴンはさっと立ち上がると、アリシアの傍まで来て横抱きに抱き上げる。そうしてベッドへと運ぶのがここのところの日課になっていた。
アリシアはベッドへ降ろされるといつもすぐに眠ってしまう。
「ずっと傍にいるからね」
レイヴンはそう言うと、アリシアの髪を撫でた。
疲れ切って眠るアリシアを見ていると胸が痛む。
部屋で夕食を摂った方が良い、という気持ちを捨てることができない。
だけどそれはアリシアの為にならない。
レイヴンはアリシアが感じている違和感の正体に気がついていた。
聡いアリシアもすぐに気がつくだろう。
レイヴンができることは、アリシアが王太子妃らしく振る舞えるよう支えることと、アリシアへの愛情を示すことだけだ。
「愛してるよ、アリシア」
眠っているアリシアからは何の反応も返ってこない。
それでもじんわりした幸せが胸に広がってくる。
レイヴンはアリシアが目覚めるまで髪を撫で続けていた。
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