405 / 697
第2部 4章
29 憂鬱な理由
しおりを挟む
晩餐の支度を終えたレイヴンはゆったりソファに座っていた。
まだ少し時間に余裕がある。アリシアはもう少し寝ていられそうだ。
ベッドへ入ったアリシアはすぐに眠ってしまった。
本人が自覚するより疲れているのだ。できるだけ長く休ませておきたい。
ドレッシングルームではレイヴンと入れ替わりでエレノアが選んだドレスや装飾品を運び込んでいる。
2人で同じ客室を使うということはドレッシングルームや浴室も同じところを使うということだ。勿論その時だけ違う部屋のものを使うこともできるが、レイヴンにはそのつもりがない。
だからアリシアがこうして眠っているのも、ある意味では都合が良いと言えた。
「晩餐出なきゃ駄目かなあ…」
レイヴンが小さな声で呟いた。
答える声はない。
いつもであればレオナルドが呆れた顔をして、「ご自身のお役目をお忘れですか」と言うところだ。
だけどレオナルドはここにいない。レイヴンがいない間も業務が滞らないよう王都で代わりを務めているのだ。
レイヴンだってわかっている。
普段あまり交流のない貴族とこうして交流を持つことは、王家にとっても意味のあることだ。
不穏分子が潜んでいるかもしれないし、ルーファスのような有望な人物が隠れているかもしれない。
有望な人物を見つけ出し、支持勢力に組み込むことができれば大きな力となる。特に今は王女の王位継承権を認めさせる為にも、1人でも多くの味方が欲しいところだ。
だけど先程会ったミケーレ伯爵はそれほど有能な人物には見えなかった。
「少しの時間の辛抱ですよ。今年は妃殿下がいらっしゃるじゃないですか」
誰にも返事をもらえることなく溜息を吐くレイヴンを見兼ねたのか、控えていた侍従が口を開いた。
この侍従はフランクといって常にレイヴンに付き従っている。アリシアにとってのエレノアのような存在で、レオナルドがレイヴンの執務室を訪ねた時に取次をするのもこのフランクだ。
フランクはレイヴンが子どもの頃から侍従を務めているので、アリシアへの気持ちを昔から知っていた。そして毎年の視察にも同行して為、レイヴンが晩餐を嫌がる理由も理解している。
「そうだね、弁えてくれるといいんだけど」
晩餐では他者の邪魔が入ることなくレイヴンと交流を持つことができる。それはミケーレ伯爵だけではなく、伯爵の娘や親族にもいえることだ。
そしてそれがアリシアを視察に同行させたいと思う一番の理由でもあった。
レイヴンとアリシアが結婚してから既に2年半が過ぎている。
このまま3年目を迎えると、側妃を迎えるよう求められるようになる。
側妃を迎える一番の理由は子どもを作ることだ。
だから議会が推す令嬢は、結婚できる中で一番年の若い者――つまり、その年に学園を卒業する令嬢の中から選ばれる。側妃の座を狙って婚約者を決めていない令嬢が多いのもこの年齢だった。
議会に推薦してもらえない令嬢が側妃になる方法は1つしかない。
それはレイヴンに見初められることだ。
レイヴンに選ばれて望まれれば、年上だって側妃になることができる。以前キャロルが目に留めてもらおうと必死になっていたのも、年上のキャロルが議会に推されることは絶対にないからだ。
レイヴンが王宮にいる時は、誰にも邪魔をされずにレイヴンを独占することなどとてもできない。だけど視察の途次、宿にいる間は誰にも邪魔をされずにレイヴンを独占することができる。
これまでも毎年、宿で晩餐が開かれる度にその一族の娘がレイヴンの寵を得ようと待ち構えていた。
先ほどの出迎えの中にもミケーレ伯爵の娘らしき姿があった。一族と思しき娘もいた。
アリシアの姿を見た彼女たちが弁えてくれるのを祈るばかりである。
まだ少し時間に余裕がある。アリシアはもう少し寝ていられそうだ。
ベッドへ入ったアリシアはすぐに眠ってしまった。
本人が自覚するより疲れているのだ。できるだけ長く休ませておきたい。
ドレッシングルームではレイヴンと入れ替わりでエレノアが選んだドレスや装飾品を運び込んでいる。
2人で同じ客室を使うということはドレッシングルームや浴室も同じところを使うということだ。勿論その時だけ違う部屋のものを使うこともできるが、レイヴンにはそのつもりがない。
だからアリシアがこうして眠っているのも、ある意味では都合が良いと言えた。
「晩餐出なきゃ駄目かなあ…」
レイヴンが小さな声で呟いた。
答える声はない。
いつもであればレオナルドが呆れた顔をして、「ご自身のお役目をお忘れですか」と言うところだ。
だけどレオナルドはここにいない。レイヴンがいない間も業務が滞らないよう王都で代わりを務めているのだ。
レイヴンだってわかっている。
普段あまり交流のない貴族とこうして交流を持つことは、王家にとっても意味のあることだ。
不穏分子が潜んでいるかもしれないし、ルーファスのような有望な人物が隠れているかもしれない。
有望な人物を見つけ出し、支持勢力に組み込むことができれば大きな力となる。特に今は王女の王位継承権を認めさせる為にも、1人でも多くの味方が欲しいところだ。
だけど先程会ったミケーレ伯爵はそれほど有能な人物には見えなかった。
「少しの時間の辛抱ですよ。今年は妃殿下がいらっしゃるじゃないですか」
誰にも返事をもらえることなく溜息を吐くレイヴンを見兼ねたのか、控えていた侍従が口を開いた。
この侍従はフランクといって常にレイヴンに付き従っている。アリシアにとってのエレノアのような存在で、レオナルドがレイヴンの執務室を訪ねた時に取次をするのもこのフランクだ。
フランクはレイヴンが子どもの頃から侍従を務めているので、アリシアへの気持ちを昔から知っていた。そして毎年の視察にも同行して為、レイヴンが晩餐を嫌がる理由も理解している。
「そうだね、弁えてくれるといいんだけど」
晩餐では他者の邪魔が入ることなくレイヴンと交流を持つことができる。それはミケーレ伯爵だけではなく、伯爵の娘や親族にもいえることだ。
そしてそれがアリシアを視察に同行させたいと思う一番の理由でもあった。
レイヴンとアリシアが結婚してから既に2年半が過ぎている。
このまま3年目を迎えると、側妃を迎えるよう求められるようになる。
側妃を迎える一番の理由は子どもを作ることだ。
だから議会が推す令嬢は、結婚できる中で一番年の若い者――つまり、その年に学園を卒業する令嬢の中から選ばれる。側妃の座を狙って婚約者を決めていない令嬢が多いのもこの年齢だった。
議会に推薦してもらえない令嬢が側妃になる方法は1つしかない。
それはレイヴンに見初められることだ。
レイヴンに選ばれて望まれれば、年上だって側妃になることができる。以前キャロルが目に留めてもらおうと必死になっていたのも、年上のキャロルが議会に推されることは絶対にないからだ。
レイヴンが王宮にいる時は、誰にも邪魔をされずにレイヴンを独占することなどとてもできない。だけど視察の途次、宿にいる間は誰にも邪魔をされずにレイヴンを独占することができる。
これまでも毎年、宿で晩餐が開かれる度にその一族の娘がレイヴンの寵を得ようと待ち構えていた。
先ほどの出迎えの中にもミケーレ伯爵の娘らしき姿があった。一族と思しき娘もいた。
アリシアの姿を見た彼女たちが弁えてくれるのを祈るばかりである。
0
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる