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第2部 4章
14 団欒②
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アリシアはオレリアのもの言いたげな視線に気がついていた。
それは今日だけのことではなく、デミオンに怪我を負わされたと知られてからずっとである。
オレリアはアリシアが怪我をしていることを知らずに、痛みによって粗相をしたアリシアを叱っていた。
それを今でも気に病んでいるのだ
だけどアリシアはあの時怪我を人に知られるわけにはいかなかった。
あの時オレリアに言った言葉は本心で、アリシアは𠮟られたことで怪我に気づかれていないと安心していたのだ。
だからもう気にしないで欲しいし、どちらかといえば忘れて欲しいと思っている。
だけどそんな話もできていない。
オレリアと顔を合わせるのはいつも舞踏会など人目の多いところであり、込み入った話ができるような状況ではないのだ。
オレリアは基本的に王都にいるものの、王太子妃になったアリシアと気軽に会うことはできない。
王太子宮へアリシアに会いに来る為には予め訪問の許可を求める文を出し、アリシアが許可を出せば中へ入ることができる。
レオナルドが自由にアリシアへ会いに来ているのは、側近であるレオナルドにレイヴンが自由に出入りする許可を与えているからだ。
アリシアは嫁いだ時にアダムやオレリアには許可を与えて良いと言われている。
だけど王太子妃に相応しいと認められることに固執していたアリシアは、肉親だからと特権を与えるのは平等性に欠けると思い、許可を出していなかった。
だけど今は以前に比べてアリシアの考え方も柔軟になってきている。
せめてアダムとオレリアには許可を出しても良いのではないかと考え始めていた。
アリシアは今も色々と両親に助けてもらっているし、頼りにもしている。
「ジェーンの支度を綺麗に整えて下さり、ありがとうございました」
アリシアはオレリアへ礼を言った。
スピーチの時の装いも舞踏会でも、ジェーンの支度を整えたのはルトビア公爵家である。それだけではなく、アルスタへ持参するドレスや装飾品もすべて公爵家が用意している。
それは侯爵家への援助の一部でもあり、アダムとオレリアがジェーンへ向ける気持ちでもある。
アリシアは2人の気持ちに疑いがない。だから安心して2人に任せることができた。
だけどオレリアは悲し気な表情になると頭を横に振った。
「私たちは当然のことをしただけよ。これまで私たちがジェーンにしてあげられたことはあまりにも少なかったもの」
「お義姉様方はできる限りのことをされていましたわ。あの頃はあれが精一杯だったのです」
「そうですわ。ジェーンの境遇は気の毒でしたけれど、継承権を守る為にはああするしかなかったのです。継承権を守り切ったからこそジェーンは次期当主として認められることができたのではありませんか」
アシュリーとサラがオレリアの言葉を否定する。
モルガン伯爵家もジェーンのことは気に掛けていた。
だけどデミオンは侯爵家より身分の低い伯爵家の者たちを完全に見下していて、何を言っても聞き入れられることはなかったのだ。
本当に気に掛けるだけで何も出来なかったのはモルガン伯爵家の方だった。
「私もお2人の言う通りだと思いますわ。お父様にもお母様にも感謝しています。そして、ジェーンが爵位を継承できるよう法の改定を示唆して下さった国王陛下や、改定の為に尽力して下さったレイヴン様にも感謝しています。そのおかげであんなに素晴らしいジェーンの姿を見ることができたのですもの」
アリシアがそう言うと、皆が顔を綻ばせる。
これまでのジェーンを知っているからこそ余計に昨日のジェーンが素晴らしく、また誇らしく感じるのだ。
それからしばらくはまた皆でジェーンの素晴らしさを称え合い、笑い合った。
そうして楽しく過ごす内にレイヴンの従者が来てエレノアに何かを耳打ちする。
「どうやら殿方の話は終わったようですわね」
アリシアがそう言うと、誰もが自然と立ち上がった。
「それでは戻りましょうか。殿下はアリシア様と離れていると心配で仕方ないようですものね」
サラに揶揄うように言われて、またアリシアが頬を染める。
「まあ、お可愛らしい」とまたアシュリーが笑った。オレリアも楽しそうに笑っている。
楽しい午後のひと時だった。
それは今日だけのことではなく、デミオンに怪我を負わされたと知られてからずっとである。
オレリアはアリシアが怪我をしていることを知らずに、痛みによって粗相をしたアリシアを叱っていた。
それを今でも気に病んでいるのだ
だけどアリシアはあの時怪我を人に知られるわけにはいかなかった。
あの時オレリアに言った言葉は本心で、アリシアは𠮟られたことで怪我に気づかれていないと安心していたのだ。
だからもう気にしないで欲しいし、どちらかといえば忘れて欲しいと思っている。
だけどそんな話もできていない。
オレリアと顔を合わせるのはいつも舞踏会など人目の多いところであり、込み入った話ができるような状況ではないのだ。
オレリアは基本的に王都にいるものの、王太子妃になったアリシアと気軽に会うことはできない。
王太子宮へアリシアに会いに来る為には予め訪問の許可を求める文を出し、アリシアが許可を出せば中へ入ることができる。
レオナルドが自由にアリシアへ会いに来ているのは、側近であるレオナルドにレイヴンが自由に出入りする許可を与えているからだ。
アリシアは嫁いだ時にアダムやオレリアには許可を与えて良いと言われている。
だけど王太子妃に相応しいと認められることに固執していたアリシアは、肉親だからと特権を与えるのは平等性に欠けると思い、許可を出していなかった。
だけど今は以前に比べてアリシアの考え方も柔軟になってきている。
せめてアダムとオレリアには許可を出しても良いのではないかと考え始めていた。
アリシアは今も色々と両親に助けてもらっているし、頼りにもしている。
「ジェーンの支度を綺麗に整えて下さり、ありがとうございました」
アリシアはオレリアへ礼を言った。
スピーチの時の装いも舞踏会でも、ジェーンの支度を整えたのはルトビア公爵家である。それだけではなく、アルスタへ持参するドレスや装飾品もすべて公爵家が用意している。
それは侯爵家への援助の一部でもあり、アダムとオレリアがジェーンへ向ける気持ちでもある。
アリシアは2人の気持ちに疑いがない。だから安心して2人に任せることができた。
だけどオレリアは悲し気な表情になると頭を横に振った。
「私たちは当然のことをしただけよ。これまで私たちがジェーンにしてあげられたことはあまりにも少なかったもの」
「お義姉様方はできる限りのことをされていましたわ。あの頃はあれが精一杯だったのです」
「そうですわ。ジェーンの境遇は気の毒でしたけれど、継承権を守る為にはああするしかなかったのです。継承権を守り切ったからこそジェーンは次期当主として認められることができたのではありませんか」
アシュリーとサラがオレリアの言葉を否定する。
モルガン伯爵家もジェーンのことは気に掛けていた。
だけどデミオンは侯爵家より身分の低い伯爵家の者たちを完全に見下していて、何を言っても聞き入れられることはなかったのだ。
本当に気に掛けるだけで何も出来なかったのはモルガン伯爵家の方だった。
「私もお2人の言う通りだと思いますわ。お父様にもお母様にも感謝しています。そして、ジェーンが爵位を継承できるよう法の改定を示唆して下さった国王陛下や、改定の為に尽力して下さったレイヴン様にも感謝しています。そのおかげであんなに素晴らしいジェーンの姿を見ることができたのですもの」
アリシアがそう言うと、皆が顔を綻ばせる。
これまでのジェーンを知っているからこそ余計に昨日のジェーンが素晴らしく、また誇らしく感じるのだ。
それからしばらくはまた皆でジェーンの素晴らしさを称え合い、笑い合った。
そうして楽しく過ごす内にレイヴンの従者が来てエレノアに何かを耳打ちする。
「どうやら殿方の話は終わったようですわね」
アリシアがそう言うと、誰もが自然と立ち上がった。
「それでは戻りましょうか。殿下はアリシア様と離れていると心配で仕方ないようですものね」
サラに揶揄うように言われて、またアリシアが頬を染める。
「まあ、お可愛らしい」とまたアシュリーが笑った。オレリアも楽しそうに笑っている。
楽しい午後のひと時だった。
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