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第2部 4章

10 協力要請①

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「王族というのも大変なものですな」

 ライアンが放った一言にピリッとした緊張が走った。
 レイヴンが今日ライアンとルーファスを呼んだのは、親交を深めることだけが目的ではないのだ。そしてライアンはその目的を理解している。

 レイヴンがアリシアへ視線を向けると、アリシアはすっと立ち上がった。

「殿方は何やら大切な話があるようですわね。私たちは庭園でお茶でもいただきましょうか」

「ええ、そうね。殿下がアリシアの為に整えたという庭園を是非見せて頂きたいわ」

 オレリアも立ち上がる。アシュリーとサラがそれに続いた。

「それではレイヴン様。私たちは暫く庭園に参ります」

 レイヴンは頷くと立ち上がってアリシアの頬へ軽く口づける。
 アリシアを軽く抱き締めると、そっと腕を離した。

「気をつけて行っておいで。久しぶりに会う方たちだ。ゆっくりお話しすると良い」

 アリシアは微笑んで頷くと、優雅にカテーシーをして扉へ向かった。アリシアの傍へ来ていたオレリアたちもアリシアに続く。
 
「殿下がアリシア様の為に庭園を整えたのですか?それは楽しみですわ」
「ええ、本当に。さぞ素晴らしいお庭なのでしょうね」

 口々にさざめき合う女性たちの声が扉の向こうへ消えると、ライアンが口を開いた。

「妃殿下には内密のお話ですか」

「ああ、アリシアには話していない」

 振り返ったレイヴンが頷く。
 その顔から先ほどアリシアへ向けていた甘い笑顔は消えていた。
 視線を向けられたルーファスが自然と背筋を伸ばす。

「ルーファス殿はライアン殿から聞いているかもしれないが、僕は側妃を娶りたくない。だから王女の王位継承権を認めさせたいと思っている」

「…は?」

 困惑した表情を見せるルーファスにレイヴンは引き締めていた表情を緩めた。

 レオナルドがライアンにこの話をして協力を求めた時、ライアンは良い反応を返さなかった。
 王女の王位継承権を認めることでアリシアの子が王位を継ぐ可能性が高まり、ルトビア公爵家が外戚の地位を手に入れる可能性も高まる。そうすればアダムと兄弟であるライアンの地位も高まり、中央で権力を振るうことができる、と言ってみても無駄だった。
 ルトビア公爵家と距離を取り、モルガン伯爵家の当主であることを何より大切にしているライアンに、公爵家の縁戚として中央での権力を得ることなど興味のないことなのだ。

 そんなライアンに取り繕った言い訳を聞かせても意味がないと悟ったレイヴンは、本心をさらけ出すことにした。
 アダムにはこの件で表に出ないように言われているが、モルガン伯爵家に限ってはそんなことを言っていられない。

 王女の王位継承権を望んでいるのはレオナルドではなく、レイヴンだ。
 そしてレイヴンがそれを望むのは、「アリシアしか欲しくない」という、自分の欲を叶える為である。

「もうすぐアリシアと結婚して3年が経つ。それまでにアリシアが懐妊しなければ、側妃を迎えるよう求められるだろう。実際に父上が最初の側妃を娶ったのは、母上が結婚して3年経っても懐妊しなかったからだ。だけど僕は側妃を娶りたくない」

 ここでレイヴンは一息つくと、ルーファスからライアンへ視線を移した。
 ライアンが厳しい目で見返している。

「これからアリシアが懐妊しても、それが王子とは限らない。王女であれば、また側妃を、という声が上がる。だけど王女の王位継承権が認められれば、アリシアは世継ぎを生んだことになる」

「つまりわたしに協力を持ち掛けてきたのはレオナルドでしたが、王女の王位継承権を望んでいるのは兄上やレオナルドではなく殿下ということですね?」

「その通りだ」

 レイヴンはしっかりと頷いた。
 


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