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番外編・処罰の後
28 処罰の後(17)
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あっという間に月日は経ち、結婚式の前日になった。
エミリーはこの日、邸にいる使用人たちに1人ずつお礼を伝えた。
この邸に残っているのはサンドラとジェーンに心を寄せる、エミリーを憎んでいる人たちだ。
それなのにこの3か月間、エミリーの世話をしてくれていた。
初めは淡々と業務をこなしているだけだった。
だけど詫び状を書くのを手伝ってくれるようになってからは、掃除や洗濯、料理の仕方を習うエミリーに、その時々で声を掛けてくれたのだ。
掃除をする上でのちょっとしたコツや、洗濯物の綺麗なたたみ方、黄身を潰さないで卵を焼く方法。色んなことを教えてくれた。
そのお陰でエミリーは、ある程度のことなら1人でできるようになった。
エミリーは今、邸を出る準備をしている。
明日邸を出たら二度と戻らない。
持って行くもの、処分してもらうもの、それをより分けてバッグへ詰めるのもエミリーの仕事だ。
使い掛けの化粧品やトリートメント、香油などを詰めていく。
今使っているものが無くなれば、新しいものを自分で買わなくてはならない。これはとても高価なものなので、買うことは出来ないだろうとマーサに言われていた。
これより質の悪いものでも買う為には働いて稼がなくてはならない。
ジョッシュは兄の商会で働くことになった。だけど経営が厳しいのであまり給金は貰えないと言われている。
エミリーは自分にできそうなことをマーサに相談してみた。
その時のことを思い出す。
「私にもできそうな仕事を教えて欲しい」
そう言ったエミリーに、マーサは困ったような表情をした。
通常、貴族の子女が家を出て働く時は、高位貴族の家で女中や侍女となる。
高い身分の令嬢や、学園を優秀な成績で卒業した令嬢なら家庭教師になるのが一般的で、侯爵令嬢のエミリーは当然こちらに含まれる。
だけどエミリーの成績は壊滅的で、とても家庭教師が務まるとは思えない。
素行不良の噂が立ったエミリーを侍女や女中として雇おうという家もないだろう。
エミリーが貴族の邸で勤めるのは難しい。
「エミリー様は貴族に戻ることを考えず、市井で暮らされるのがよろしいかと思います」
マーサの言葉にエミリーは頷いた。
ロバートから聞いているのか、マーサは処罰の日に言われたことに詳しい。
結婚して家を出てもジョッシュやエミリーが貴族の出であることは変わらない。
努力をして爵位を得れば社交界に戻ることもできる。その時の為に結婚と同時に登城の差止めを解除して欲しい。
アリシアはそう国王へ進言し、国王がそれを受け入れた。
今後叙爵されればジョッシュもエミリーも社交界へ戻ることができる。
だけどもし本当に社交界に戻ったらどうなるのか、エミリーにも想像ができるようになっていた。
これまで礼儀を知らず、傍若無人に生きてきた。社交界ですっかり嫌われ、友人は1人もいない。
そこに義姉の婚約者を寝取ったという噂が広がった。それを証明するように国王が2人の結婚を認め、義姉が式を挙げるはずだった日に、同じ場所で式を挙げる。参列者はほとんどいない。
両親は国王から罰を受け、邸敷地内での蟄居謹慎を命じられている。
社交界に戻っても待っているのは侮蔑や軽蔑の目だ。また嘲笑や悪口に晒される日々が戻ってくる。
いや、これまでよりも格段に悪意に満ちた場所になる。
そして社交界に戻るのなら今度こそ本当に教養や礼儀作法を身につけなければならない。
悪意を向ける者たちを黙らせることができるだけのものを身につけられるとはとても思えなかった。
「エミリー様は字を読むことも書くこともお出来になります。それは市井では重宝される能力です」
学園での成績は壊滅的なエミリーだが、流石に字を書いたり読んだりすることはできる。
それは詫び状を自筆で書いていたのでマーサもわかっていいあ。
「計算はどれくらいお出来になりますか?計算ができる者も市井では重宝されます」
エミリーがかつての成績表を見せるとマーサは渋い顔をした。
マーサも元々は子爵家の令嬢なので学園を卒業している。子爵令嬢から見ても散々な成績らしい。
学園の授業は理解できないことばかりで全然面白くなかった。
退屈で、眠たくて、何故ここに座っていないといけないのかと不満ばかりを感じていが、本当は大切な時間だったのだ。
マーサが溜息を吐く。
「基礎を学んでいないのですから、わからなくて当然です」
マーサが言うには、学園に通う生徒は入学前に家庭教師について基礎的な知識を身につけているらしい。
エミリーは家庭教師を皆追い出してしまった。
「これから少しでも勉強をしましょう。計算や社会情勢を見る能力を身につけていれば、これからの生活できっと役に立ちます」
そう言ってマーサはどこからか子どもが使う教科書を手に入れてきた。
それからの約2ヶ月、エミリーは初めて真剣に勉強したのだ。
エミリーはこの日、邸にいる使用人たちに1人ずつお礼を伝えた。
この邸に残っているのはサンドラとジェーンに心を寄せる、エミリーを憎んでいる人たちだ。
それなのにこの3か月間、エミリーの世話をしてくれていた。
初めは淡々と業務をこなしているだけだった。
だけど詫び状を書くのを手伝ってくれるようになってからは、掃除や洗濯、料理の仕方を習うエミリーに、その時々で声を掛けてくれたのだ。
掃除をする上でのちょっとしたコツや、洗濯物の綺麗なたたみ方、黄身を潰さないで卵を焼く方法。色んなことを教えてくれた。
そのお陰でエミリーは、ある程度のことなら1人でできるようになった。
エミリーは今、邸を出る準備をしている。
明日邸を出たら二度と戻らない。
持って行くもの、処分してもらうもの、それをより分けてバッグへ詰めるのもエミリーの仕事だ。
使い掛けの化粧品やトリートメント、香油などを詰めていく。
今使っているものが無くなれば、新しいものを自分で買わなくてはならない。これはとても高価なものなので、買うことは出来ないだろうとマーサに言われていた。
これより質の悪いものでも買う為には働いて稼がなくてはならない。
ジョッシュは兄の商会で働くことになった。だけど経営が厳しいのであまり給金は貰えないと言われている。
エミリーは自分にできそうなことをマーサに相談してみた。
その時のことを思い出す。
「私にもできそうな仕事を教えて欲しい」
そう言ったエミリーに、マーサは困ったような表情をした。
通常、貴族の子女が家を出て働く時は、高位貴族の家で女中や侍女となる。
高い身分の令嬢や、学園を優秀な成績で卒業した令嬢なら家庭教師になるのが一般的で、侯爵令嬢のエミリーは当然こちらに含まれる。
だけどエミリーの成績は壊滅的で、とても家庭教師が務まるとは思えない。
素行不良の噂が立ったエミリーを侍女や女中として雇おうという家もないだろう。
エミリーが貴族の邸で勤めるのは難しい。
「エミリー様は貴族に戻ることを考えず、市井で暮らされるのがよろしいかと思います」
マーサの言葉にエミリーは頷いた。
ロバートから聞いているのか、マーサは処罰の日に言われたことに詳しい。
結婚して家を出てもジョッシュやエミリーが貴族の出であることは変わらない。
努力をして爵位を得れば社交界に戻ることもできる。その時の為に結婚と同時に登城の差止めを解除して欲しい。
アリシアはそう国王へ進言し、国王がそれを受け入れた。
今後叙爵されればジョッシュもエミリーも社交界へ戻ることができる。
だけどもし本当に社交界に戻ったらどうなるのか、エミリーにも想像ができるようになっていた。
これまで礼儀を知らず、傍若無人に生きてきた。社交界ですっかり嫌われ、友人は1人もいない。
そこに義姉の婚約者を寝取ったという噂が広がった。それを証明するように国王が2人の結婚を認め、義姉が式を挙げるはずだった日に、同じ場所で式を挙げる。参列者はほとんどいない。
両親は国王から罰を受け、邸敷地内での蟄居謹慎を命じられている。
社交界に戻っても待っているのは侮蔑や軽蔑の目だ。また嘲笑や悪口に晒される日々が戻ってくる。
いや、これまでよりも格段に悪意に満ちた場所になる。
そして社交界に戻るのなら今度こそ本当に教養や礼儀作法を身につけなければならない。
悪意を向ける者たちを黙らせることができるだけのものを身につけられるとはとても思えなかった。
「エミリー様は字を読むことも書くこともお出来になります。それは市井では重宝される能力です」
学園での成績は壊滅的なエミリーだが、流石に字を書いたり読んだりすることはできる。
それは詫び状を自筆で書いていたのでマーサもわかっていいあ。
「計算はどれくらいお出来になりますか?計算ができる者も市井では重宝されます」
エミリーがかつての成績表を見せるとマーサは渋い顔をした。
マーサも元々は子爵家の令嬢なので学園を卒業している。子爵令嬢から見ても散々な成績らしい。
学園の授業は理解できないことばかりで全然面白くなかった。
退屈で、眠たくて、何故ここに座っていないといけないのかと不満ばかりを感じていが、本当は大切な時間だったのだ。
マーサが溜息を吐く。
「基礎を学んでいないのですから、わからなくて当然です」
マーサが言うには、学園に通う生徒は入学前に家庭教師について基礎的な知識を身につけているらしい。
エミリーは家庭教師を皆追い出してしまった。
「これから少しでも勉強をしましょう。計算や社会情勢を見る能力を身につけていれば、これからの生活できっと役に立ちます」
そう言ってマーサはどこからか子どもが使う教科書を手に入れてきた。
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