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番外編・処罰の後
22 処罰の後(12-②)
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マーサたちにはその光景に見覚えがあった。
サンドラが亡くなり葬儀が済むと、すぐにデミオンが侯爵邸に戻って来た。
デミオンを出迎えたジェーンは母を顧みなかった父を恨みながらも、これまでほとんど接点のなかった父とこれからは一緒に暮らせるのだと喜びも感じていた。
幼いジェーンはアンジュやエミリーの存在に心を痛めながらも、ひとりぼっちになってしまった邸に義母と義妹を迎えることができるのだと、ひとりぼっちではなくなるのだと前向きに捉えようとしていたのだ。
だけどデミオンもアンジュも出迎えに出たジェーンに一言も声を掛けなかった。
ジェーンに一瞥もくれず楽しそうに邸の奥へと進む親子3人の姿に、取り残されたジェーンは呆然とする。
父親が邸にいなくてもサンドラやルトビア前公爵夫人の庇護を受けるジェーンはそれまで丁重に扱われていた。
誰かの悪意に晒されるのも存在を無視されるのも初めての経験だった。
何がいけないのかわからないジェーンは、彼らが侯爵夫人の部屋で――それまでサンドラの部屋だった場所で――
落ち着いた頃を見計らい、改めて挨拶へ向かう。
扉が開かれ、笑顔を見せようとした途端、アンジュの金切り声が響いた。
「ここはもう私の部屋よ!私が侯爵夫人よ!!何か文句があるっていうの?!」
ジェーンは作りかけの笑顔のまま固まった。
母が死んだからとすぐに乗り込んでくる愛人に好意なんて持つはずがない。
父を独占していた母子に恨みがないわけがない。
それでもジェーンは上手くやっていこうと思っていた。
親しくなりたいと挨拶に来ただけで文句を言いに来たわけじゃない。
固まったまま動けないジェーンにデミオンの怒声が響く。
ジェーンはびくっと体を震わせ、デミオンの方を向いた。
「アンジュがわたしの妻だ!やっと正式な夫婦になれたんだ!!おまえの母親がいたせいで苦しんでいたのに、まだ文句があるというのか?!そんなにアンジュを苦しめたいのか!!」
デミオンが憎々し気な顔でジェーンを睨んで怒鳴っている。
大人の男性に怒鳴られるのは初めてのことだ。自然と体が震えてくる。
「私は、そんな…」
「言い訳は良い!!さっさと出ていけっ!!」
「…っ!」
震えながら弱弱しく首を振るジェーンにデミオンが更に怒鳴りつける。その隣ではアンジュが射殺すような目で睨んでいるし、両親の怒鳴り声に怯えたエミリーが激しく泣いている。
まるで地獄絵図のようだった。
「出て行けと言ってるだろう!いつまでそこにいるつもりだ!」
「……ごめんなさい」
ジェーンは弱弱しく呟くと扉を閉めた。
とぼとぼと自分の部屋へ帰っていく。
その後ろ姿を、アンジュの金切り声に驚いて様子を見に来たマーサたち侍女が見ていた。
この時と、事情は違えど同じことが起こっている。
初めから愛情を掛けられていなかったジェーンでも強いショックを受けていた。可愛がられていたはずのエミリーはもっと強い衝撃を受けたはずだ。
エミリーの後姿を見送ったマーサたちは納得していた。
要するにデミオンはエミリーを可愛がっているように見せているだけで、親としての愛を向けているわけではないのだ。
エミリーに向けられていたのは、デミオンの都合が良い時だけの、機嫌が良い時だけの見せかけの愛情である。
だからエミリーの気持ちなんて考えない。都合が悪くなればジェーンと同じ扱いになる。
エミリーが教育を受けていないのも同じことだ。
教育を受けていないエミリーは、社交界で爪弾きにされる理由もわからないまま間違えた道を突き進んでしまった。
形は違えどジェーンもエミリーもデミオンに人生を狂わされた被害者だ。
サンドラが亡くなり葬儀が済むと、すぐにデミオンが侯爵邸に戻って来た。
デミオンを出迎えたジェーンは母を顧みなかった父を恨みながらも、これまでほとんど接点のなかった父とこれからは一緒に暮らせるのだと喜びも感じていた。
幼いジェーンはアンジュやエミリーの存在に心を痛めながらも、ひとりぼっちになってしまった邸に義母と義妹を迎えることができるのだと、ひとりぼっちではなくなるのだと前向きに捉えようとしていたのだ。
だけどデミオンもアンジュも出迎えに出たジェーンに一言も声を掛けなかった。
ジェーンに一瞥もくれず楽しそうに邸の奥へと進む親子3人の姿に、取り残されたジェーンは呆然とする。
父親が邸にいなくてもサンドラやルトビア前公爵夫人の庇護を受けるジェーンはそれまで丁重に扱われていた。
誰かの悪意に晒されるのも存在を無視されるのも初めての経験だった。
何がいけないのかわからないジェーンは、彼らが侯爵夫人の部屋で――それまでサンドラの部屋だった場所で――
落ち着いた頃を見計らい、改めて挨拶へ向かう。
扉が開かれ、笑顔を見せようとした途端、アンジュの金切り声が響いた。
「ここはもう私の部屋よ!私が侯爵夫人よ!!何か文句があるっていうの?!」
ジェーンは作りかけの笑顔のまま固まった。
母が死んだからとすぐに乗り込んでくる愛人に好意なんて持つはずがない。
父を独占していた母子に恨みがないわけがない。
それでもジェーンは上手くやっていこうと思っていた。
親しくなりたいと挨拶に来ただけで文句を言いに来たわけじゃない。
固まったまま動けないジェーンにデミオンの怒声が響く。
ジェーンはびくっと体を震わせ、デミオンの方を向いた。
「アンジュがわたしの妻だ!やっと正式な夫婦になれたんだ!!おまえの母親がいたせいで苦しんでいたのに、まだ文句があるというのか?!そんなにアンジュを苦しめたいのか!!」
デミオンが憎々し気な顔でジェーンを睨んで怒鳴っている。
大人の男性に怒鳴られるのは初めてのことだ。自然と体が震えてくる。
「私は、そんな…」
「言い訳は良い!!さっさと出ていけっ!!」
「…っ!」
震えながら弱弱しく首を振るジェーンにデミオンが更に怒鳴りつける。その隣ではアンジュが射殺すような目で睨んでいるし、両親の怒鳴り声に怯えたエミリーが激しく泣いている。
まるで地獄絵図のようだった。
「出て行けと言ってるだろう!いつまでそこにいるつもりだ!」
「……ごめんなさい」
ジェーンは弱弱しく呟くと扉を閉めた。
とぼとぼと自分の部屋へ帰っていく。
その後ろ姿を、アンジュの金切り声に驚いて様子を見に来たマーサたち侍女が見ていた。
この時と、事情は違えど同じことが起こっている。
初めから愛情を掛けられていなかったジェーンでも強いショックを受けていた。可愛がられていたはずのエミリーはもっと強い衝撃を受けたはずだ。
エミリーの後姿を見送ったマーサたちは納得していた。
要するにデミオンはエミリーを可愛がっているように見せているだけで、親としての愛を向けているわけではないのだ。
エミリーに向けられていたのは、デミオンの都合が良い時だけの、機嫌が良い時だけの見せかけの愛情である。
だからエミリーの気持ちなんて考えない。都合が悪くなればジェーンと同じ扱いになる。
エミリーが教育を受けていないのも同じことだ。
教育を受けていないエミリーは、社交界で爪弾きにされる理由もわからないまま間違えた道を突き進んでしまった。
形は違えどジェーンもエミリーもデミオンに人生を狂わされた被害者だ。
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