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番外編・処罰の後

18 処罰の後(11-①)

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 詫び状や招待状を送るのに守るべき期限があること。
 その期限に間に合わせる為には使用人の協力が不可欠であること。
 詫び状と招待状を送っても出席者はほとんどいないと予測されること。
 出席者がどれだけ少なくても王命により教会や会場を変更することはできないこと。
 2人が詫び状と招待状の作成を止めればクレールが手配をすること。
 その場合は式の前日まで自室で謹慎すること。
 
 マーサの話を聞き終えたエミリーとジョッシュは蒼白になっていた。

 そんな2人を見ながら、マーサは淡々と話を進める。
 2人に対する怒りや嫌悪、そして同情の気持ちが表れないよう努めていた。
 
「――以上のことを踏まえたうえで、あなたは選ぶことができます。使用人に協力を頼み、期限に間に合わせるか、ぎりぎりまで2人で手配し、残りをクレールに委ねるか、そして――今すぐ作業を放棄して自室で謹慎するか、です」

「……っ」

 ジョッシュが何かを言い掛け、言葉にしないまま止める。

 ジョッシュは期限があることを知っていた。間に合わせる為には使用人の協力が必要なことも知っていた。
 だけどこの邸の使用人がエミリーを嫌っていることも知っている。
 だから言い出すことができずに必死で書いていたのだ。

「3つの内どれを選ぶのか、それはエミリー様の自由です。今すぐ止めて自室に籠っても構いません。ですが…私としては、最後までやり通すべきだと思っています」
 
「それは…使用人に頭を下げろ、ということ?」

「はい。その通りです」

 表情を変えることなく頷くマーサに、エミリーは目の前が暗くなる。

 面倒を見てくれるようになってから、マーサは優しくしてくれていた。
 エミリーに取り入ろうとして、エミリーがどんなことをしても肯定し、大袈裟に褒め称えていた以前の侍女たちとは違う。
 マーサはあまり褒めてくれない。
 新しいことを教えてくれた後は、いつも静かにエミリーがしていることをじっと見ている。
 だけど教えられたことが1人でできるようになった時は、優しい笑みを浮かべて「頑張りましたね」と言ってくれる。
 それが嬉しくてエミリーは頑張っていたのだ。

 エミリーはマーサに許されたのだと思っていた。
 だけどそれは間違いだったのだ。

 頭を下げてまわっても、相手にしてくれる者はいないだろう。邪険に追い払われたり嘲笑われたりして、惨めな思いをするだけだ。
 これはエミリーへの罰である。
 マーサはジェーンを虐めていたエミリーに罰を与えたいのだ。

「…明らかに敵意を持つ相手に頭を下げてまわるのは辛いことでしょう。これが罰であることは間違いありません。ですが、自分がしたことの責任を取るのは、人として当然のことでもあります。あなたは義姉の婚約者と不貞を行い、キャンベル侯爵家の評判を貶めました。その後始末を人にさせるのですか?」

「……っ!!」

 エミリーは息を飲んだ。
 そんな厳しいことを言われたのは初めてだ。

 そんなエミリーから視線を外し、マーサはジョッシュへ視線を向ける。

「このことに関しては、カルヴィエ伯爵令息にも言いたいことがございます。何故カルヴィエ伯爵家の招待客まで侯爵家が対応しなければならないのですか?以前はジェーンお蝶様がすべて手配されました。それは何故ですか?カルヴィエ伯爵家の招待客なのですから、カルヴィエ伯爵家で手配をして下さい」

 確かに以前の結婚はキャンベル侯爵家の惣領姫と次期当主として行われるものだったので、侯爵家が主体になるのは当然だ。
 だけど伯爵家側にも招待客はいる。
 伯爵家として招くはずの縁戚やジョッシュの友人までジェーンが招待状を手配していた。

「既にお分かりの通り、侯爵家には人手が足りません。伯爵家として出される詫び状と招待状は伯爵家で手配してください」

「………わかった」

 マーサに責められ、項垂れたジョッシュが頷いた。



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