324 / 697
番外編・処罰の後
7 処罰の後(5-②)
しおりを挟む
「君が欲しがらない様にと質素で粗末な服を着て、使用人に食事を運んでもらえず食事を摂れない時もある。婚約者は同じ邸の中で義妹と不貞を働き、義母の機嫌が悪いと殴られる。…どこが羨ましかったんだ?」
「それは…っ」
気に入らないところは沢山あった。
ルトビア公爵家の祖母や他の親戚たちは、ジェーンばかり可愛がってエミリーのことは少しも可愛がってくれない。
アンジュは両親に「愛人になるなら」と縁を切られたと聞いている。お茶会で会った時もエミリーのことなんか見えない振りをして、話し掛けてもくれなかった。
本当に愛し合っているのはお父様とお母様なのに、お義姉様の母親がいたからお母様は愛人になるしかなかった。
それに…。
「愛人の娘だから…」
「何?」
「私はいつも皆に嫌われて…っ!友達ができないのは、愛人の娘だったからだって思って…!お義姉様やお義姉様の母親がいなければ、最初からお母様がお父様の正妻だったのに…」
話している内に涙が出てきた。
ずっとそう思っていたのに、それが間違いだったと知ってしまったから。
全然優しくない、大嫌いな従姉のアリシア。
アリシアが言っていた。
お祖母様はお父様に、お義姉様の母親と結婚するかどうか選ばせた。
結婚することを選んだのはお父様だった。
お祖母様はお父様に、結婚するならお母様と別れるよう言っていた。その約束をお父様が破ったからお祖母様は怒っていたのだ。
それに愛人になることを選んだのはお母様だった。
お父様が別の人と結婚すると決めた時に別れることもできた。それなのに別れず、愛人になると決めたのはお母様なのだ。
そしてエミリーが嫌われていたのは、愛人の娘だからじゃなかった。
貴族であれは当然知っているはずの礼儀やマナーを知らずに失礼なことをしていたから嫌われたのだ。
お義姉様やお義姉様の母親が悪いことなんて、何もなかった。
「…まあ、今更君とジェーンのことをどうこう言っても仕方がない。君たちが顔を合わせることは二度とないんだ。ただ君は自分の間違いを知った。ジェーンの気持ちを知ることもできた。それをどう考えるのかは君次第だ。…こんなことを言うのは僕の機嫌が良いからかな」
ロバートがふっと笑った。
「今日は思いがけず良いことがあったから、僕は機嫌が良い」
そう言ってロバートはクレールと目を見合わせる。
ずっと硬い顔をしていたクレールも少し表情を和らげていた。
だけどロバートはすぐに表情を引き締める。
「この家にあるものはすべて侯爵家の財産だ。故意に傷つけようなどと決して思わないでくれ」
「故意に傷つけるな」というのは、癇癪を起して物を投げたりするな、ということだろうか。
ついさっき部屋で暴れたことを思い出す。
マーサがロバートへ報告したのかもしれない。
エミリーは恐る恐る頷いた。
それを確認したロバートが口を開く。
「話を戻すが、侯爵家は財政難なんだ。調度品は売って金に換える。侯爵家には似つかわしくない品でも下級貴族には人気があるからそれなりの資金になる」
サンドラがいた頃に使われていた侯爵家に代々伝わる由緒ある品や、侯爵家に合った洗練された上品な品は、派手で品のない悪趣味なものに変えられている。
ジェーンはこれらの品に愛着がないし、置いていても侯爵家の評判を下げるだけのものだ。
それでも生活の為に最低限のものは必要であり、侯爵家としての体面もある。
新しいものを買うような余裕は無いのですべてを売り払うわけにはいかないが、幸いなことに暫く客人を招くこともないので可能な限り売って資金に変えることにしていた。
「侯爵家には似つかわしくない…?ハーヴィーは皆の憧れの品だってお母様が言っていたわ」
エミリーが怪訝な顔をする。
新しい調度品が届く度にハーヴィーは皆の憧れの品だと言ってアンジュは嬉しそうに笑っていた。
ハーヴィーの品を買える家を、皆羨ましがっていると言っていたのだ。
「アンジュは男爵家の出身だからね。それ程裕福ではない男爵家にとっては憧れの品だろう」
侯爵邸に今ある調度品の大半はハーヴィーの品だ。
ハーヴィーはリトマインと並ぶ高級家具のメーカーだが、リトマインとは違ってデザインが派手で品がない。
男爵や子爵の中でも成り上がり貴族が財力を示すアイテムとして好んで使っているが、周りに財力を誇示する必要のない高位貴族が選ぶことはない。高位貴族が使っていれば、むしろ成金趣味と嗤われて恥を掻くことになる。
アンジュの実家である男爵家は新興貴族ではなく、それ程裕福な家でもない。
邸に並ぶ調度品はそれ程高級なものではなかったのだろう。
だから同じ男爵家でも裕福な家に並ぶハーヴィーの品に憧れていたのだ。
パッとした華があって人目を引くものなので男爵家なら1つや2つあっても良い。
「ついでだから教えておくが、君やアンジュが好んで着ているドレスも高位貴族が着るようなものではない。いや、下位貴族であってもあんなに派手で露出の多いドレスは着ない。娼婦が着るようなドレスだ」
「それは…っ」
気に入らないところは沢山あった。
ルトビア公爵家の祖母や他の親戚たちは、ジェーンばかり可愛がってエミリーのことは少しも可愛がってくれない。
アンジュは両親に「愛人になるなら」と縁を切られたと聞いている。お茶会で会った時もエミリーのことなんか見えない振りをして、話し掛けてもくれなかった。
本当に愛し合っているのはお父様とお母様なのに、お義姉様の母親がいたからお母様は愛人になるしかなかった。
それに…。
「愛人の娘だから…」
「何?」
「私はいつも皆に嫌われて…っ!友達ができないのは、愛人の娘だったからだって思って…!お義姉様やお義姉様の母親がいなければ、最初からお母様がお父様の正妻だったのに…」
話している内に涙が出てきた。
ずっとそう思っていたのに、それが間違いだったと知ってしまったから。
全然優しくない、大嫌いな従姉のアリシア。
アリシアが言っていた。
お祖母様はお父様に、お義姉様の母親と結婚するかどうか選ばせた。
結婚することを選んだのはお父様だった。
お祖母様はお父様に、結婚するならお母様と別れるよう言っていた。その約束をお父様が破ったからお祖母様は怒っていたのだ。
それに愛人になることを選んだのはお母様だった。
お父様が別の人と結婚すると決めた時に別れることもできた。それなのに別れず、愛人になると決めたのはお母様なのだ。
そしてエミリーが嫌われていたのは、愛人の娘だからじゃなかった。
貴族であれは当然知っているはずの礼儀やマナーを知らずに失礼なことをしていたから嫌われたのだ。
お義姉様やお義姉様の母親が悪いことなんて、何もなかった。
「…まあ、今更君とジェーンのことをどうこう言っても仕方がない。君たちが顔を合わせることは二度とないんだ。ただ君は自分の間違いを知った。ジェーンの気持ちを知ることもできた。それをどう考えるのかは君次第だ。…こんなことを言うのは僕の機嫌が良いからかな」
ロバートがふっと笑った。
「今日は思いがけず良いことがあったから、僕は機嫌が良い」
そう言ってロバートはクレールと目を見合わせる。
ずっと硬い顔をしていたクレールも少し表情を和らげていた。
だけどロバートはすぐに表情を引き締める。
「この家にあるものはすべて侯爵家の財産だ。故意に傷つけようなどと決して思わないでくれ」
「故意に傷つけるな」というのは、癇癪を起して物を投げたりするな、ということだろうか。
ついさっき部屋で暴れたことを思い出す。
マーサがロバートへ報告したのかもしれない。
エミリーは恐る恐る頷いた。
それを確認したロバートが口を開く。
「話を戻すが、侯爵家は財政難なんだ。調度品は売って金に換える。侯爵家には似つかわしくない品でも下級貴族には人気があるからそれなりの資金になる」
サンドラがいた頃に使われていた侯爵家に代々伝わる由緒ある品や、侯爵家に合った洗練された上品な品は、派手で品のない悪趣味なものに変えられている。
ジェーンはこれらの品に愛着がないし、置いていても侯爵家の評判を下げるだけのものだ。
それでも生活の為に最低限のものは必要であり、侯爵家としての体面もある。
新しいものを買うような余裕は無いのですべてを売り払うわけにはいかないが、幸いなことに暫く客人を招くこともないので可能な限り売って資金に変えることにしていた。
「侯爵家には似つかわしくない…?ハーヴィーは皆の憧れの品だってお母様が言っていたわ」
エミリーが怪訝な顔をする。
新しい調度品が届く度にハーヴィーは皆の憧れの品だと言ってアンジュは嬉しそうに笑っていた。
ハーヴィーの品を買える家を、皆羨ましがっていると言っていたのだ。
「アンジュは男爵家の出身だからね。それ程裕福ではない男爵家にとっては憧れの品だろう」
侯爵邸に今ある調度品の大半はハーヴィーの品だ。
ハーヴィーはリトマインと並ぶ高級家具のメーカーだが、リトマインとは違ってデザインが派手で品がない。
男爵や子爵の中でも成り上がり貴族が財力を示すアイテムとして好んで使っているが、周りに財力を誇示する必要のない高位貴族が選ぶことはない。高位貴族が使っていれば、むしろ成金趣味と嗤われて恥を掻くことになる。
アンジュの実家である男爵家は新興貴族ではなく、それ程裕福な家でもない。
邸に並ぶ調度品はそれ程高級なものではなかったのだろう。
だから同じ男爵家でも裕福な家に並ぶハーヴィーの品に憧れていたのだ。
パッとした華があって人目を引くものなので男爵家なら1つや2つあっても良い。
「ついでだから教えておくが、君やアンジュが好んで着ているドレスも高位貴族が着るようなものではない。いや、下位貴族であってもあんなに派手で露出の多いドレスは着ない。娼婦が着るようなドレスだ」
0
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。
あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか?
月曜:人懐っこい
火曜:積極的
水曜:年上
木曜:優しい
金曜:俺様
土曜:年下、可愛い、あざとい
日曜:セクシー
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
男子校的教師と生徒の恋愛事情
蒼月さわ
BL
男子校教師副島一成は、入学して一ヶ月しか経っていない教え子の桐枝伝馬から告白される。
それに対する返答はストレートパンチだった……
男子校を舞台に、個性的な教師や生徒たちがわちゃわちゃと入り乱れ、毎日が賑やかに展開する。
その中で、告白し告白された伝馬と一成はどうなっていくのか。
体育系の猪突猛進な生徒×男前な三白眼の教師。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる