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番外編・処罰の後
6 処罰の後(5-①)
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「あの…先程調度品を運び出しているのを見ましたが、何をされているのですか?」
ジョッシュがおずおずと訊いた。
今も男たちの声があちらこちらから聞こえ、何かを運ぶような音がしている。
エミリーはハッとしてロバートを怒鳴りつけた。
「そうよ!私の家の物をどこへ持って行くつもりなの?!」
エミリーの剣幕にもロバートは肩をすくめただけだ。
「僕はジェーンから侯爵家当主としての権限を委任されていてね。破綻寸前のこの家の財政を立て直さなければならない。調度品は資金の足しにする為に古物商へ売るんだよ」
「そんな…酷いわ!!お父様やお母様が大切にしているものを勝手に売るなんて!!」
エミリーの言葉にロバートが纏う雰囲気が変わる。
エミリーへ向ける視線には強い怒りが込められていた。
「酷い?君たちがジェーンにしていたことだろう?ジェーンの母や祖父母が大切にしていたものを勝手に捨てたのは誰だ?ジェーンの持ち物を奪ったのは?それに処分するのは邸の共用部に置かれていた物だけでデミオン殿やアンジュの部屋、君の部屋のものには触れていない。感謝して欲しいくらいだ」
本当は調度品よりもアンジュやエミリーが買い漁った宝石類を売り払った方が高い値がつく。
だけど個人の持ち物を勝手に処分するのは、アンジュやエミリーがしていたことと同じことだ。
ジェーンもロバートも、アンジュたちと同じところへ堕ちるつもりはない。
処分するのは侯爵家としての持ち物だけ。
侯爵家で使う調度品は当主の権限で決めることができる。
「私たちがしていたこと…?」
「そうだろう?君たちがこの家に来た時はこんなに派手で悪趣味な調度品はなかったはずだ。幼すぎて覚えていないか?サンドラ叔母様が生きておられた頃は、侯爵家に相応しい洗練された上品な品が使われていた。僕たちははっきり覚えている。それを勝手に処分したのは君の両親だ。そして君はジェーンの持ち物を何でも奪い、ボロボロにして捨てていた」
そんなことを言われても、エミリーは邸に来た頃使われていた調度品なんて覚えていない。
だけどジェーンの物を何でも奪っていたのは覚えている。つい最近まで続けていたのだから。
「だってそれはお義姉様が、欲しいと言ったのに、くれなかったから…」
愛人の子として育ち、侯爵邸に来るまであまり良い物を与えられなかったエミリーには、ジェーンが持っている物が良い物に見えて羨ましかった。
何でも持っているくせに、欲しいと言ってもジェーンは譲ってくれなかった。
だけどエミリーが泣き喚いたら、父も母もエミリーの味方をしてくれる。
ジェーンの物はエミリーの物になった。
ジェーンは泣いていたけれど、そんなことエミリーには気にならなかった。
両親がいつも味方をしてくれる、そのことが嬉しくて、本当はいらない物でも欲しいというようになっていた。
そしてそれがいつの間にか当然のことになったのだ。
「ジェーンにとっては亡くなった母親が買ってくれた物なのだから当然だろう。君の母親は死んだわけじゃない。処罰が終われば帰ってくる。それでも両親が大切にしているものを売られるのが辛いと思うのなら、君たちがジェーンにしていたことがどういうことかなのかわかったはずだ」
言われたことの意味を理解していく内に、エミリーは青褪めていた。
ジェーンが嫌と言ったのは、意地悪ではなく、母親との思い出があったからだ。
ジェーンが泣いていたのは、物だけではなく、母親との思い出も奪われたから……。
ジェーンは意地悪をしていたわけではなく、意地悪をしていたのはやっぱりエミリーだった。
「ただ僕は侯爵邸に来る前の君たちの暮らしを知らないが、伯母上が亡くなる数年前まで前侯爵夫人も生きてらした。お祖母様の目もあるし、デミオン殿が持ち出せた金銭はそれ程多くないだろう。君たちがそれ程裕福な暮らしをしていたとは思わない」
入り婿になった男に囲われるのだから、それは愛人になると決めた時に飲み込んでおくべきことだ。
娘の夫の愛人を、妻の親が快く思うわけがない。
だけどそれはアンジュが飲み込んでおくべき事情で、幼いエミリーがわからないのは仕方がないのかもしれない。
だが、それでも。
「侯爵邸に来たばかりの君が、ジェーンを羨ましく思う気持ちはわからなくもない。だけどそれは侯爵邸に来てすぐのことだ。それを何故今も続けている?まだジェーンの暮らしが羨ましいのか?」
ジョッシュがおずおずと訊いた。
今も男たちの声があちらこちらから聞こえ、何かを運ぶような音がしている。
エミリーはハッとしてロバートを怒鳴りつけた。
「そうよ!私の家の物をどこへ持って行くつもりなの?!」
エミリーの剣幕にもロバートは肩をすくめただけだ。
「僕はジェーンから侯爵家当主としての権限を委任されていてね。破綻寸前のこの家の財政を立て直さなければならない。調度品は資金の足しにする為に古物商へ売るんだよ」
「そんな…酷いわ!!お父様やお母様が大切にしているものを勝手に売るなんて!!」
エミリーの言葉にロバートが纏う雰囲気が変わる。
エミリーへ向ける視線には強い怒りが込められていた。
「酷い?君たちがジェーンにしていたことだろう?ジェーンの母や祖父母が大切にしていたものを勝手に捨てたのは誰だ?ジェーンの持ち物を奪ったのは?それに処分するのは邸の共用部に置かれていた物だけでデミオン殿やアンジュの部屋、君の部屋のものには触れていない。感謝して欲しいくらいだ」
本当は調度品よりもアンジュやエミリーが買い漁った宝石類を売り払った方が高い値がつく。
だけど個人の持ち物を勝手に処分するのは、アンジュやエミリーがしていたことと同じことだ。
ジェーンもロバートも、アンジュたちと同じところへ堕ちるつもりはない。
処分するのは侯爵家としての持ち物だけ。
侯爵家で使う調度品は当主の権限で決めることができる。
「私たちがしていたこと…?」
「そうだろう?君たちがこの家に来た時はこんなに派手で悪趣味な調度品はなかったはずだ。幼すぎて覚えていないか?サンドラ叔母様が生きておられた頃は、侯爵家に相応しい洗練された上品な品が使われていた。僕たちははっきり覚えている。それを勝手に処分したのは君の両親だ。そして君はジェーンの持ち物を何でも奪い、ボロボロにして捨てていた」
そんなことを言われても、エミリーは邸に来た頃使われていた調度品なんて覚えていない。
だけどジェーンの物を何でも奪っていたのは覚えている。つい最近まで続けていたのだから。
「だってそれはお義姉様が、欲しいと言ったのに、くれなかったから…」
愛人の子として育ち、侯爵邸に来るまであまり良い物を与えられなかったエミリーには、ジェーンが持っている物が良い物に見えて羨ましかった。
何でも持っているくせに、欲しいと言ってもジェーンは譲ってくれなかった。
だけどエミリーが泣き喚いたら、父も母もエミリーの味方をしてくれる。
ジェーンの物はエミリーの物になった。
ジェーンは泣いていたけれど、そんなことエミリーには気にならなかった。
両親がいつも味方をしてくれる、そのことが嬉しくて、本当はいらない物でも欲しいというようになっていた。
そしてそれがいつの間にか当然のことになったのだ。
「ジェーンにとっては亡くなった母親が買ってくれた物なのだから当然だろう。君の母親は死んだわけじゃない。処罰が終われば帰ってくる。それでも両親が大切にしているものを売られるのが辛いと思うのなら、君たちがジェーンにしていたことがどういうことかなのかわかったはずだ」
言われたことの意味を理解していく内に、エミリーは青褪めていた。
ジェーンが嫌と言ったのは、意地悪ではなく、母親との思い出があったからだ。
ジェーンが泣いていたのは、物だけではなく、母親との思い出も奪われたから……。
ジェーンは意地悪をしていたわけではなく、意地悪をしていたのはやっぱりエミリーだった。
「ただ僕は侯爵邸に来る前の君たちの暮らしを知らないが、伯母上が亡くなる数年前まで前侯爵夫人も生きてらした。お祖母様の目もあるし、デミオン殿が持ち出せた金銭はそれ程多くないだろう。君たちがそれ程裕福な暮らしをしていたとは思わない」
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娘の夫の愛人を、妻の親が快く思うわけがない。
だけどそれはアンジュが飲み込んでおくべき事情で、幼いエミリーがわからないのは仕方がないのかもしれない。
だが、それでも。
「侯爵邸に来たばかりの君が、ジェーンを羨ましく思う気持ちはわからなくもない。だけどそれは侯爵邸に来てすぐのことだ。それを何故今も続けている?まだジェーンの暮らしが羨ましいのか?」
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