上 下
325 / 697
番外編・処罰の後

8 処罰の後(5-③)

しおりを挟む
「娼婦…?」

「お金を貰って体を売る仕事の女性だよ」

「そんなっ!酷いわ!!」

 エミリーはカッとなって叫んだ。

 やっぱりロバートは意地悪だ。いつも嫌なことを言う。
 エミリーは色々間違えていたけれど、これは間違いじゃない。

 キッと睨みつけるエミリーに、ロバートは肩をすくめた。

「今更君を貶めて僕に何の得がある?僕が言ったことは唯の事実だ。それとも他に同じようなドレスを着ている人を見たことがあるのか?」

「それは…っ」

 エミリーは言葉を飲み込んだ。
 お茶会や夜会で会った人たちを思い出す。

 明るい色や大きな柄のついたドレスを着ている夫人や令嬢はいた。
 だけど明るい色に大きな柄のドレスを着た人はいなかった。

 舞踏会であれば大抵の人は胸元が大きく開いたドレスを着ている。
 だけど体の線がわかる程ぴったりしたドレスやスカートにスリットが入ったドレスを着ている人がいただろうか。
 
「…いたわ!シヴェラ伯爵夫人がお母様と似たドレスを着ているのを見たわ!」

 エミリーの顔がぱっと明るくなる。
 これでロバートも間違いを認めて謝ってくれると思ったのだ。
 だけどロバートはふっと笑っただけだった。

「今のシヴェラ伯爵夫人は後妻だ。前妻が亡くなった後、伯爵がすぐに馴染みの娼婦を身請けして後妻にしたのは有名な話だ。つまり君たちも同じ様に見られている」

「…っ!!」

 デミオンは前妻が亡くなってすぐにアンジュを後妻として迎え入れた。
 アンジュは娼館にいたわけではない。だけどずっと愛人として囲われていた。
 お金をもらって体を開いていた…と言えなくはない。

 ショックを受けるエミリーにロバートが溜息を吐いた。

「こうなるとお祖母様は間違われたという妃殿下の言葉に頷かざるを得ないな。君たち母娘は一度公爵家を見て高位貴族が何を好み、どんな考え方をするのか知るべきだったんだ」


 
 そこへ年配のメイドが現れ、ロバートへ頭を下げた。
 エミリーはこのメイドもほとんど知らない。
 これまでお世辞を言って取り入ろうとする使用人しか周りに置いていなかったから、それ以外の使用人がいるとは思ってもいなかった。

 ロバートが許可をして、メイドが顔を上げる。
 メイドはまるでエミリーが見えていないかのように振る舞っていた。

「お話し中に申し訳ありません。業者の者があちらの品も運び出して良いのか指示をいただきたいと申しております」

「あちらの品?」

「ジェーンお嬢様のウエディングドレスや嫁入り調度品です」

「ああ!」

 ロバートは合点がいったように頷いた。
 ジョッシュとエミリーをちらっと見てから視線をメイドへ戻す。

「あれはそのままエミリーが使う。1つも持ち出さない様に伝えてくれ」

「かしこまりました」

 メイドは指示を受けると素早く立ち去った。
 業者がロバートの指示を待っているのだ。
 その背中を見送っロバートは、エミリーとジョッシュへ視線を向けた。
 先ほどまではなかった侮蔑の色が滲んでいる。

「結婚式の支度についてだが、公爵閣下が援助金を出しておられたのはジェーンの為だ。花嫁が代わったのだから当然援助は打ち切られる。だがこれまで使った分の返金は求めないそうだ。ドレスも調度品もそのまま持って行ってくれ」

 ロバートの怒りが籠った視線にジョッシュは身震いをした。
 あのドレスや調度品にはアンジュの悪意が込められている。
「本当に愛しているのはエミリーなのだと示してやりなさい」と言われて喜んでいたかつての自分が信じられない。
 アンジュに上手く乗せられたジョッシュは、人前で恥を掻かされるところだったのだ。

 エミリーはジェーンの為に揃えられるドレスや調度品が羨ましくて仕方なかった。
 あの素敵なドレスを着てジョッシュの隣を歩くのが何故私じゃないのかと、何度も歯噛みしていた。

 ドレスも調度品もエミリーの好みに合わせて揃えられている。
 侯爵家に似つかわしくない調度品と娼婦の様なドレスだ。
 結婚式が終わったらすぐに奪ってやろうと思っていたのに、もう魅力を感じられない。

「別のドレスにすることは…?」

「作り直す金があるのか?」

 ロバートのきつい言葉に首をすくめる。
 ジョッシュの顔を窺ってみたが、そっと首を横に振られた。
 もう他に選択肢はないのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~

三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた! しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様! 一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと! 団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー! 氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

処理中です...