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3章

163 壮行会・夜の部②

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 挨拶に訪れる貴族の中には叔父のライアンと従兄のルーファスもいた。それぞれ夫人をエスコートしている。
 2人と会うのはレイヴンとアリシアの結婚式以来だ。

「お久しぶりですね、モルガン伯爵、ルーファス殿。お2人が王都にいらっしゃるとは知りませんでしたわ」

 ライアンが最近王都にいるという話はレイヴンから聞いていたが、ルーファスまで来ているとは思わなかった。
 この舞踏会はほとんどの貴族が出席するとはいえ、それは王都にいる者だけだ。ルーファスが出席するということは、王都に出て来ていたのだろう。

 アリシアはそう思っていたのだが、どうやらそれは違うようだ。

「お久しぶりでござます、妃殿下。今回の舞踏会は王太子殿下より『ジェーン嬢の晴れの日だから是非』と直々に招待状と文をいただいたのですよ」

「え?」

 アリシアがレイヴンの顔を見る。
 レイヴンはきまりが悪そうに眉を下げた。

「ライアン殿やルーファス殿と話をしてみたくてね」

 その顔を見て考える。
 以前アリシアはレイヴンに、モルガン伯爵家の次期当主であるルーファスのことをどれくらい知っているか尋ねた。
 レイヴンの答えは「ほとんど知らない」だった。
 そのことを気にしているのだろうか。
 確かにあまり領地から出ないルーファスを王都へ呼ぶには今日の舞踏会が良い口実になる。

「モルガン伯爵、ルーファス殿、良ければ明日王宮へ来ていただけませんか。少し話をさせて下さい」

「かしこまりました」

「さて、何のお話か興味がございますな」

 ルーファスが恭しく礼をする隣でライアンが不敵な笑みを見せる。
 その顔は厄介な事案にあたる時のアダムの顔によく似ていた。
 立ち去る2人の背中を見ながらレイヴンが呟く。

「やっぱり兄弟だね…」

 同じことを感じていたアリシアは頷いた。
 

 暫くすると挨拶に来る貴族の波も落ち着いてくる。
 アリシアがフロアへ視線を向けると、ジェーンとレオナルドが大勢の貴族たちに囲まれていた。

 貴族たちはこれまでのことがなかったかの様に笑顔でジェーンに話し掛けている。
 手のひらを返すような振る舞いに思うところはあるが、これが貴族というものだ。
 ジェーンは本当の意味で社交界の一員になれたのだ。

 王族席ではノティスが1人で佇んでいる。
 相変わらずノティスへ挨拶に来る貴族はいない。レオナルドとジェーンも目立つことは憚ったようだ。
 ただ、ノティスが忌避される理由の1つにレイヴンへの忖度がある。

 ノティスの生母は、レイヴンよりノティスが王太子に相応しいと吹聴し、ノティスもレイヴンに不遜な態度を取っていた。
 そんなノティスをレイヴンは疎ましく思っているはずだ。

 そう思っている貴族は多い。
 実際にこれまでレイヴンやアリシアが公の場でノティスと話したことはなかった。
 だけどそれが間違いだとわかればノティスと親交を持とうとする貴族も出てくるはずだ。

 それがノティスを取り込もうとする邪な思いを持つ者であったとしても。
 
「ノティス殿下」

 アリシアが話し掛けるとノティスが驚いたような顔をした。
 公の場で話し掛けられるとは思っていなかったようだ。
 同時に王族席を囲んでいた貴族たちからどよめきが起こる。
 アリシアは貴族たちが囁き合う声に気がつかない振りをした。

「ジェーンが明日出立すればしばらく会えなくなりますわ。声を掛けないのですか?」

 身分が下の者が自ら声を掛けられるのは挨拶の時だけだ。
 特別に話し掛ける許可を与えられた者もいるが、ノティスとジェーンはそんな関係ではない。
 特に人目につくことを避けた今の状況ではジェーンから声を掛けることはない。

「わたしが話し掛けると迷惑でしょう」

「まさか。ジェーンも兄も迷惑になど思いませんわ」

 人目につかない為にジェーンもレオナルドも挨拶を憚った。
 だけどノティスから話し掛けられれば応えるしかない。 
 何事にも本音と建前があるものだ。

「それにきっと、状況が変わりますわ」

 アリシアとノティスが友好的に話しているのを見ている者は多い。
 しばらくは様子見が続くだろうが、王太子夫妻と確執がないとわかればノティスの見方も変わってくる。
 
「どうしたの?」

 レイヴンが話し掛けてくる。
 こちらも様子を見ていたようだ。

「ノティス殿下にジェーンへ言葉をいただくようお願いしていたのですわ」

「ああ、それは良いね」

 レイヴンがノティスへ笑顔を見せる。
 またざわめきが広がった。



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