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3章

162 壮行会・夜の部①

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 舞踏会が華々しく始まった。
 開会の宣言の前に、国王が団員たちを壇上へ上げて紹介をする。
 国王に名を呼ばれた団員たちは皆誇らしそうな顔をしていた。

 その中には当然ジェーンの姿もあった。
 レモン色のドレスを着たジェーンはこれまでのことが嘘の様に堂々と顔を上げている。
 優雅な動きで壇上へ上がるジェーンに貴族たちの目は釘付けになっていた。
 
 国王が舞踏会の開始を告げると音楽が流れ出す。
 国王と王妃がファーストダンスを踊った後はレイヴンとアリシアが躍る番だ。
 2人がダンスフロアに進み出ると貴族たちから感嘆の声が上がった。

「お2人が幸せそうでなによりですわ」

 見つめ合って踊る2人からは互いを想う気持ちが滲み出ていた。
 ジェーンと並んで2人を見ているレオナルドにも笑顔が浮かんでいる。

 今日ジェーンをエスコートしてくれたのはレオナルドだ。
 ロバートが家を出た後はずっとレオナルドがエスコートしてくれていた。
 そのレオナルドにももうすぐ婚約者ができるかもしれない。そうしたらこんな風には過ごせなくなる。
 ジェーンはこの舞踏会を楽しもうと決めていた。

「そうだね、全ての問題が片付いたわけではないけど、まずは一安心かな」

 レオナルドが言う不安は子どものことだ。アリシアにはまだ懐妊の兆候がない。
 婚姻を結んで3年経っても子どもが生まれなければ周りから側妃を迎えるよう求められる。
 それを思えば無駄にした2年は大きい。

「…お2人の幸せが続くよう願っていますわ」

 ジェーンが呟くとレオナルドは頷いた。



 ダンスを終えたレイヴンとアリシアが席へ戻ると貴族たちが挨拶に訪れる。
 グーリッド伯爵夫妻とディアナが現れたのは挨拶が始まってすぐのことだった。
 ディアナは兄のエディにエスコートされている。
 レイヴンはさり気なくアリシアの腰に腕をまわして力を込めた。

 両親と兄に続いてディアナもカテーシーをした。
 伯爵令嬢としてしっかり教育を受けている。そう思えば、キャロルのカテーシーも美しいものだった。

「グーリッド伯爵家の次女、ディアナと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 レイヴンが許可をしてディアナが顔を上げる。
 不安そうではあるものの、何故呼ばれたのか理解しているようだ。
 意志の強そうな目でアリシアを見返していた。

 自分の役割を理解し、受け入れている。
 そんな目がアリシアは嫌いではない。

 アリシアは笑顔を見せた。
 
「来てくれて嬉しいわ。今日は楽しんで頂戴ね」

「…っ!ありがとうございます」

 アリシアが見せたのは王太子妃としての笑顔だ。好意も嫌悪もこの笑顔の中に隠すことができる。
 ディアナはそれにちゃんと気がついたようだ。

 この場で込み入った話をすることはできない。
 ディアナは挨拶を終えると両親や兄と共に離れて行った。

「…大丈夫?」

 レイヴンがアリシアの耳元で囁く。
 大勢の貴族に注目されている今は誰に聞かれているかわからない。
 アリシアは小さく頷くと、レイヴンを安心させるように少し笑った。
 
 

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