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3章

161 舞踏会へ

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 閉会まで見届けたレイヴンとアリシアが急いで王宮へ戻ると、エレノアたち侍女が待ち構えていた。
 舞踏会が始まるまであと数刻しかない。すぐに舞踏会の準備が始まった。

 エレノアはアリシアの赤くなった目元に一瞬表情を動かしたが、今日はジェーンの晴の日だ。こうなることは予想できていたようで、すぐに冷たい布が当てられる。
 浴室で磨かれるアリシアはされるがままだ。

 思えばエレノアとの関係も変わって来た。
 王太子妃として相応しいと認められるよう、常に人目を気にしていたアリシアは、王太子宮でも感情を殺して生きていた。泣いているところを見られるなんて考えられないことだった。

 だけど今は違う。

 公務以外の時には泣いても怒っても良い。
 それを侍女に見られても構わない。

 レイヴンに言われたことだけではなく、そんなことで彼女たちは離れていかないと、いつの間にか信じられるようになっていた。
 アリシアは彼女たちを信頼しているのだ。

 
 レイヴンが迎えに来る頃にはすっかり支度が整っていた。
 今日の主役はあくまで使節団の団員である。
 アリシアは王太子妃として威厳を保ちながらも、目立ち過ぎないよう考えられた装いをしている。

「アリシア、凄く綺麗だ」

 レイヴンが感嘆の声を上げる。
 そう言って笑うレイヴンもアリシアには輝いて見える。
 レイヴンの見目が麗しいのは昔から変わらない。それなのに眩しく思うようになったのは、アリシアの気持ちが変ったからだ。

 ドレスが皴にならないよう気をつけながら、レイヴンがアリシアの背中に腕をまわす。
 アリシアもレイヴンをぎゅっと抱き締めた。
 
――他の人の目に触れさせたくない。

 2人は声に出さずに同じことを考えていた。



 舞踏会の会場となる大広間では既に入場が始まっていた。レイヴンとアリシアが大広間へ入るのは最後から2番目になる。
 大広間へ続く廊下を進むと、先に入場するカナリーが既に並んでいた。

「お兄様、お義姉様」

 レイヴンたちに気付くとカナリーは気まずそうな顔を見せた。
 エスコートしているのは婚約者のサディアスだ。
 サディアスはリベラ侯爵家の嫡男で、カナリーは学園を卒業した後、降嫁することになっている。いずれは侯爵夫人になるのだ。

「先にノティスが入場致しましたわ」

「そうですか」

 アリシアはそう答えたが、内心では驚いていた。
 この舞踏会は国としての公式行事である。
 マルグリットが主催する舞踏会とは違って、通常では正式にデビュタントを終えたと言えないノティスが出席することはできない。
 それでも出席を認められたのは、国王の意志が働いた結果だろう。


 カナリーたちが入場した頃国王と王妃が姿を現した。
 2人の挨拶を受けたマルグリットが笑顔を見せる。

「今日もまた、随分と仲睦まじいところを見せていたみたいね?」

 有料席での様子を揶揄われているのだ。

 実際のところ、民衆の中には舞台上のジェーンよりも有料席の王太子夫妻が気になっている者たちもいた。
 彼らが目にしたのは仲睦まじく寄り添う2人の姿だ。
 2人の様子は彼らの口からじわじわ広がり、今では王都に住むほとんどの者が知っていた。



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