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3章

159 壮行会・昼の部②

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 端の席で人目を避けていたカナリーは、アリシアの視線に汗を拭った。
 いつもとは化粧の仕方や髪形を変えて来ているが、レイヴンの目を誤魔化すことは出来なかったようだ。
 王太子夫妻の視線を避けるカナリーに、隣に座ったディアナは不安そうな顔を見せていた。

 カナリーはディアナを誘ったことを悪いことだとは思っていない。それでもディアナと親しく接するカナリーに、アリシアが何を感じるのかはわからない。
 できればアリシアには知られたくないと思っていたのだ。

 カナリーがディアナに声を掛けたのはお茶会の2日後だ。
 学年の違うディアナへ直接声を掛ければまたおかしな噂になるかもしれない。
 用心の為、カナリーは信頼のおける友人にディアナを人気のない空き教室へ呼び出して貰っていた。

 カナリーからの呼び出しにディアナは恐縮しながらやって来た。
 親交のない王女に呼び出されたのだから恐れを見せるのは当然である。
 カナリーはその時初めてディアナと言葉を交わした。

 やはり舞踏会には参加する予定でなかったらしく、昨日突然届けられたアリシアからの文に家族揃って右往左往していたそうだ。
 新しくドレスを仕立てる時間もないので、馴染みの店で既製品のドレスを購入することにしたという。

 そんな大変な時に連れ出すのは申し訳ないと思う。
 それでも舞台に上がるジェーンを見ておくべきだと思ったのだ。
 初めはカナリーの誘いに戸惑いを見せていたディアナだったが、王女の誘いを断ることはできない。
 結局こうして広場に来ることを選んでいた。



 アリシアたちが席について暫くすると壮行会が始まった。
 初めに宰相であるアダムが開会の挨拶をする。
 アダムが有料席にいないのは主催者側にいる為だ。姿はないが、レオナルドも恙なく会を進行させる為に裏方で走り回っているだろう。

 アダムに続いて外務大臣が話を始めた頃には詰めかけた民衆も静かになっていた。
 上手側にアダムが座っている。その隣は外務大臣の席で、2人の後列には使節団の団員が全員揃っている。唯一の女性団員であるジェーンの姿はアリシアのところからでもよく見えた。

 外務大臣に名を呼ばれた団長が返事をして立ち上がる。
 演説を行わなくても団長に任じられるのは名誉なことだ。堂々とした団長の姿からはその誇らしさを感じることができる。
 外務大臣から正式な任命書を手渡された団長は大きな拍手を受けていた。

 団長が席に戻ると同時に大きな歓声が上がった。
 下手から国王が壇上へ上がったのだ。
 国王は少し前から舞台下で待機していた。それなのに舞台へ上がるまで民衆に気づかれなかったのは、それだけ舞台上の外務大臣の動きが秀逸だったということである。

 アリシアは立場上国王の演説を聞く機会が多い。
 それでも毎回その話術の巧みさに驚かされる。

 国王が話しているのは、前回送った使節団が成し遂げた成果と使節団を送る意義、隣国との友好関係を保つことの重要性とそれによって齎される利益など、国民の生活に直接関係することだ。だけど貴族の様な高度な教育を受けていない民衆がどれだけ理解できているのかわからない。
 それでも言葉巧みに語られるそれらの話を、硬い話に慣れていない民衆も飽きることなく最後まで聞き入っていた。

 国王が話を終えると再び大きな歓声が上がる。
 演説の間は笑顔を見せなかった国王も笑顔で手を振り、応えている。
 ひとしきり歓声に応えた後、国王が静まるよう身振りで示すと一瞬で静寂が訪れた。
 これもまた国王の求心力の賜物といえた。

 民衆が静まるのを見届けた国王は下手側に設えられた席へと座る。
 代わりに立ち上がったのはジェーンである。
 ジェーンはしっかりした足取りで演台へと向かった。




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