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3章

155 レオナルドの婚約は②

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 条件だけを考えればこの縁談は伯爵家にとって悪いものではない。グーリッド伯爵は元々ルトビア公爵家と縁続きになることを願っていた。
 だけどディアナにとってはどんな理不尽な扱いをされても逆らうことが出来ない家との縁談だ。

「…アリシアはディアナ嬢をどう思う?キャロル嬢の妹だ。アリシアが嫌な思いをするならこの話を進めるつもりはない」

「…私はディアナ嬢を知らないから何とも言えないわ。ディアナ嬢に会えばキャロル嬢を思い出して嫌な気持ちになるかもしれない。だけど私はお兄様が選んだ方なら誰でも受け入れると決めているの」

 アリシアとディアナは年が離れているので結婚前に会うような機会はなかった。
 ディアナのデビュタントの時に王太子妃として挨拶を受けたのだろうが、大勢いる令嬢の中で特に記憶に残るような令嬢ではなかった。主要な家の令嬢は覚えているが、グーリッド伯爵家の娘はそこに含まれない。
 キャロルをレイヴンに近づけるのに忙しい伯爵は、その後ディアナに構っている余裕がなく、王家主催の舞踏会やお茶会にディアナを伴ったことがない。
 
 ディアナが公爵夫人となれば嫌でも貌を合わせることになる。
 その時レイヴンと言葉を交わすディアナを見て嫌な気持ちになるかもしれない。
 だけどそれを表に出さない自信はある。

「僕はアリシアが嫌なことをするつもりはないよ」

 レイヴンはレオナルドと同じことを言う。
 だけどディアナが公爵夫人になれば無視することはできない。王太子として節度ある態度で接することになる。

 ただ確実に言えることは、ディアナは初めからマイナスの気持ちで迎えられるということだ。


「それじゃあお義姉様はディアナ嬢に会ってみたらどうかしら。それでお義姉様が嫌だと思えばレオナルド殿は違う方を探せばいいわ」

 この話をなかったことにするのは簡単だ。
 正式な話をしているわけではないので、レオナルドが伯爵家を訪れるのを止めるだけでいい。

「でもどうやってディアナ嬢に会う?アリシアがディアナ嬢を王宮に招いたりすればそれだけで意味ありげな噂になる」

「…それじゃあ壮行会の舞踏会にディアナ嬢を招待しましょう。主な貴族は舞踏会に招いているので伯爵夫妻にも招待状が届いているはずですわ。それに加えて必ずディアナ嬢を連れてくるよう文を書きます」

 伯爵夫妻に届けられた招待状には家族を伴うことを許す旨が書かれている。
 だけど今のままでは夫妻がディアナ嬢を伴うとは限らない。

「わかった。それはアリシアに任せよう。舞踏会では僕も会うことになるけど、嫌だったら絶対に教えてね」

「勿論ですわ、レイヴン様」

 アリシアが笑顔を見せる。
 不安気な表情をしていたレイヴンはホッとしたようだ。

 本当に不安になるのはディアナだろう。王太子妃から直々の呼び出しである。
 アリシアは姉が悪意を向けた相手であり、どんな仕打ちを受けても逆らうことができない。
  
「お兄様もそれで良いかしら?」

「ああ、アリシアに任せるよ」

 これはレオナルドにとっても良い機会になるだろう。
 苦しい立場に立つディアナを見てどんな気持ちになるのか知ることができる。
 レオナルドの婚約者になれは苦しい立場が暫く続くのだ。



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