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3章
154 レオナルドの婚約は①
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「ところでお兄様。本当はお兄様からお話があるまで待とうと思っていたのだけど、グーリッド伯爵令嬢とはどうなっているのかしら」
アリシアがそう言うと、皆が動きを止めた。
そろそろとレオナルドを窺っている。
皆同じことが気になっていたのだ。
だけど縁談は家のことであり、簡単に口出し出来ることではない。
アリシアも公爵家を離れた今、報告があるまで待とうと思っていた。だけど初めて話を聞いた時から随分と日が経ってしまっていた。
「お兄様が伯爵邸を度々訪ねていることは知っているわ。だけどお兄様にその気がないのであれば、もうお止めになった方がよろしいですわ。これ以上回数を重ねると伯爵令嬢の疵になってしまうもの」
本来ルトビア公爵家とグーリッド伯爵家に繋がりはない。
それなのに伯爵邸を度々訪ねるレオナルドのことは既に噂になっている。
ディアナがレオナルドの婚約者に選ばれるのではないかと言われているが、一部の者はキャロルがレイヴンとレオナルドの怒りを買ったことを知っているので、どうするつもりなのかと好奇の目を向けていた。
婚約者ではない未婚の男女が何度も会っていれば、そこで何かあったと思われる。
それが真実ではなくても真実の様に語られるのだ。
もしそれで婚約が成立しなくてもレオナルドにはそれほど傷がつかない。
男性優位の社交界では男性が女性を弄んで捨てても少し眉を顰められるだけで、そんな男に引っかかるのが悪いと女性の方が責められる。
特にレオナルドの様に身分の高い男が下位の令嬢を捨てたとしても、少しの間好奇の噂に晒されるくらいで実質的な被害はない。
だけどディアナ違う。
レオナルドに捨てられた傷物令嬢と言われて嗤われ、社交界から爪弾きにされてしまう。
そんな醜聞のある令嬢に婚約を申し込む者はいない。
「それは僕もわかっているよ。だけど正直なところ迷っているんだ」
アリシアは驚いた。
レオナルドが決断を躊躇うなんて珍しい。
「お兄様が迷うのは何故?」
「…そうだね、ディアナ嬢をグーリッド伯爵家の犠牲にするのが忍びないから、かな」
貴族の婚約は大抵の場合幼い頃に結ばれる。だけど学園に入学する年になっても婚約者が決まっていない者もいる。
その理由は様々だが、ディアナの場合は姉のキャロルに婚約者がいないからだった。
姉を差し置いて妹が先に婚約するのは外聞が悪い。
そう言ってディアナに来る婚約の話を伯爵が断っていたのだ。
キャロルが婚約者を持たなかったのはレイヴンの側妃になることを狙っていたからだ。
側妃は望んだからといって必ずなれるものではない。条件の良い相手程早くに婚約者が決まっていく。
それなのに側妃に選ばれるかもわからない姉の為に、ディアナの将来は後回しにされていた。
側妃の座を諦めた後も、キャロルの婚約が決まってからディアナの婚約者を探す。それが伯爵の考えだった。
以前のことがあり、キャロルが社交界に戻ってくることはなくなった。もうキャロルの婚約を気にする必要はない。
だけどそこで待っていたのはキャロルの尻拭いの為の縁談だ。
「僕の婚約者はどうしても短期間で公爵夫人としての教育を受けなければならない。その為には僕たちに借りがあって何があっても逃げることができないグーリッド伯爵令嬢は最適だと思っていた。だけどこれまでキャロル嬢の為に後まわしにされていたディアナ嬢を、キャロル嬢の失態を盾に都合よく娶るは躊躇われてね」
「そうですか…」
実際のところ、キャロルには無礼を働かれたが、その責任をディアナに取らせようというつもりはなかった。
ただ一度婚約を決めてしまえば取り換えることが出来ない為、逃げ出す恐れのない婚約者を選ぶ必要があった。
それにはルトビア公爵家に負い目を感じているグーリッド伯爵家の令嬢が都合が良い。
そうして目をつけられたのがディアナだ。
レオナルドが躊躇うのはディアナに好感を持ったからである。
初めて顔を合わせた頃の気持ちのままなら迷いなく婚約を申し入れていた。
恋愛感情ではなくても好意を持てる相手だからこそ、家と姉の犠牲にすることを躊躇うのだ。
アリシアがそう言うと、皆が動きを止めた。
そろそろとレオナルドを窺っている。
皆同じことが気になっていたのだ。
だけど縁談は家のことであり、簡単に口出し出来ることではない。
アリシアも公爵家を離れた今、報告があるまで待とうと思っていた。だけど初めて話を聞いた時から随分と日が経ってしまっていた。
「お兄様が伯爵邸を度々訪ねていることは知っているわ。だけどお兄様にその気がないのであれば、もうお止めになった方がよろしいですわ。これ以上回数を重ねると伯爵令嬢の疵になってしまうもの」
本来ルトビア公爵家とグーリッド伯爵家に繋がりはない。
それなのに伯爵邸を度々訪ねるレオナルドのことは既に噂になっている。
ディアナがレオナルドの婚約者に選ばれるのではないかと言われているが、一部の者はキャロルがレイヴンとレオナルドの怒りを買ったことを知っているので、どうするつもりなのかと好奇の目を向けていた。
婚約者ではない未婚の男女が何度も会っていれば、そこで何かあったと思われる。
それが真実ではなくても真実の様に語られるのだ。
もしそれで婚約が成立しなくてもレオナルドにはそれほど傷がつかない。
男性優位の社交界では男性が女性を弄んで捨てても少し眉を顰められるだけで、そんな男に引っかかるのが悪いと女性の方が責められる。
特にレオナルドの様に身分の高い男が下位の令嬢を捨てたとしても、少しの間好奇の噂に晒されるくらいで実質的な被害はない。
だけどディアナ違う。
レオナルドに捨てられた傷物令嬢と言われて嗤われ、社交界から爪弾きにされてしまう。
そんな醜聞のある令嬢に婚約を申し込む者はいない。
「それは僕もわかっているよ。だけど正直なところ迷っているんだ」
アリシアは驚いた。
レオナルドが決断を躊躇うなんて珍しい。
「お兄様が迷うのは何故?」
「…そうだね、ディアナ嬢をグーリッド伯爵家の犠牲にするのが忍びないから、かな」
貴族の婚約は大抵の場合幼い頃に結ばれる。だけど学園に入学する年になっても婚約者が決まっていない者もいる。
その理由は様々だが、ディアナの場合は姉のキャロルに婚約者がいないからだった。
姉を差し置いて妹が先に婚約するのは外聞が悪い。
そう言ってディアナに来る婚約の話を伯爵が断っていたのだ。
キャロルが婚約者を持たなかったのはレイヴンの側妃になることを狙っていたからだ。
側妃は望んだからといって必ずなれるものではない。条件の良い相手程早くに婚約者が決まっていく。
それなのに側妃に選ばれるかもわからない姉の為に、ディアナの将来は後回しにされていた。
側妃の座を諦めた後も、キャロルの婚約が決まってからディアナの婚約者を探す。それが伯爵の考えだった。
以前のことがあり、キャロルが社交界に戻ってくることはなくなった。もうキャロルの婚約を気にする必要はない。
だけどそこで待っていたのはキャロルの尻拭いの為の縁談だ。
「僕の婚約者はどうしても短期間で公爵夫人としての教育を受けなければならない。その為には僕たちに借りがあって何があっても逃げることができないグーリッド伯爵令嬢は最適だと思っていた。だけどこれまでキャロル嬢の為に後まわしにされていたディアナ嬢を、キャロル嬢の失態を盾に都合よく娶るは躊躇われてね」
「そうですか…」
実際のところ、キャロルには無礼を働かれたが、その責任をディアナに取らせようというつもりはなかった。
ただ一度婚約を決めてしまえば取り換えることが出来ない為、逃げ出す恐れのない婚約者を選ぶ必要があった。
それにはルトビア公爵家に負い目を感じているグーリッド伯爵家の令嬢が都合が良い。
そうして目をつけられたのがディアナだ。
レオナルドが躊躇うのはディアナに好感を持ったからである。
初めて顔を合わせた頃の気持ちのままなら迷いなく婚約を申し入れていた。
恋愛感情ではなくても好意を持てる相手だからこそ、家と姉の犠牲にすることを躊躇うのだ。
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