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3章

144 蜜月②

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 そのまま休みの間中2人で過ごした。
 ほとんど寝室から出ることなく、食事は頃合いを見てエレノアに運ばせる。
 一緒に湯浴みをして互いを洗い合う。
 洗うだけで済まないことがほとんどだったが、同じ石鹸や香油を使って同じ香りに包まれた。

 そんな甘い時間は今日起きるまでだった。

 朝起きるとエレノアがアリシアを待っていた。
 休日は終わった。今日からはまたエレノアが朝の支度をするという。
 アリシアと離れたくないレイヴンは抵抗するが、エレノアは譲らない。

「殿下に妃殿下のお化粧や髪を結うことが出来ますか?ドレスは脱がすのではなく着せるのですよ。おかしな格好をしていて口さがないご夫人方に見られてしまえば陰で嗤われるのは妃殿下です。妃殿下の評判を落とすことをお望みですか?」

 キッと睨まれそう言われると、レイヴンも反論することができない。
 アリシアの化粧や髪を結うことができないのは自分でもわかっているし、アリシアの評判を落とすことを望むはずがない。

「レイヴン様、支度をして参りますわ。その後一緒に朝食をいただきましょう」

 アリシアを抱き締めたままのレイヴンをきゅっと抱き締め、宥める様にアリシアが言う。

 レイヴンにも執務がある。
 それはわかっている。

「…愛している、アリシア」

「私も愛してますわ」

 アリシアがふわっと笑う。
 深く口づけた後、レイヴンは渋々腕を離した。

 アリシアを待っている時間は随分長く感じた。
 支度を終えたアリシアが部屋へ入ってくると駆け寄って抱き締める。
 アリシアも微笑んで抱き締め返してくれる。
 これまでと同じようでいて、これまでのように一方的なものではない。
 それが言いようのない程嬉しい。

 そうしてレイヴンは休日の最後をぎりぎりまで楽しんだ。

 そして今に至るわけである。


 レイヴンが執務室へ向かった後、アリシアはエレノアに浴室へ連れ込まれ、数人がかりでマッサージやパックをされて全身を磨き上げられているようだ。
 夜のお手入れが数日出来ていないのはとんでもないことらしい。


「休日は楽しめたようですね」

 レオナルドが声を掛けるとレイヴンはハッと顔を上げた。
 
「レオ、来ていたのか」

 レオナルドは入室前に扉を叩いた。
 入れてくれた侍従もレオナルドの訪れを告げていた。
 それなのにレイヴンはレオナルドが来たことに気がついていなかったようだ。

 余程執務に集中していたのか、アリシアのことを思い出していたのか。
 恐らく後者だろうな、とレオナルドは思った。

 それでもペンを走らせる手が止まっていないのだから大したものである。

「楽しめた様で何よりですよ。骨を折ったかいがありました」

 レオナルドは持ってきた書類を机の上に置いた。
 ややこしい護衛の手配もそうだが、レイヴンが休んでいた日はできる範囲でレオナルドが代わりに執務をしていたのだ。
 レイヴンは机に置かれた書類を手に取り目を通す。
 レオナルドが処理した以上、不安はない。

「ありがとう、レオナルド。一昨日のことも、これまでのことも」

 レオナルドには厳しいことも言われたし、アリシアとの仲は全く取り持ってくれなかった。
 だけどレオナルドが本気になれば、レイヴンとの婚約を解消させることは容易いことだった。
 何せレイヴンは婚約者としての義務を全く果たしていなかったのだ。
 だけどレオナルドは婚約解消に動くことなく、レイヴンがアリシアへ気持ちを告げた後は最大限協力してくれている。

「一番大切なのはアリシアですが、あなたも義弟ですからね」

 レイヴンからの礼にレオナルドは仕方なさそうに笑った。



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