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3章

143 蜜月①

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 休みが明けてレオナルドがレイヴンの執務室を訪れると、幸せを体現した様なレイヴンがいた。
 笑みを浮かべた顔はほんのりと赤く色づき、ペンを走らせる手の動きは速い。
 今朝までの幸せを思い出しながら、一刻も早く仕事を終えて帰ろうとしているのが窺える。

 レオナルドは王太子宮に間者を忍ばせているわけではない。
 それでも街から帰った夜から2日半、2人が寝室に籠っていたのを知っていた。
 最も迷惑を被ったのがエレノアであることも。



 互いの思い違いが解消してから何度も交わったせいでレイヴンが目覚めたのは昼前だった。
 腕の中ではアリシアが眠っている。
 その穏やかな寝顔を見ていると自然と頬が緩み、幸せな気持ちが込み上げてくる。

 暫くすると扉を叩く音がした。
 レイヴンが入室を許可すると、エレノアが前夜の食事の片づけと今日の軽食を用意する為に入って来た。
 カーテンを閉め切っているので部屋の中は薄暗いが、エレノアは気にならない様子でてきぱきと用事を済ませていく。
 その間レイヴンは肩までしっかりシーツを被っていた。
 エレノアがレイヴンの肌を見たと知ったアリシアが妬いていたからだ。

 エレノアに妬くアリシアは可愛かった。
 だけど辛い思いはさせたくない。

 エレノアが一礼して部屋を出ていくまでレイヴンはアリシアをぎゅっと抱き締めていた。

 アリシアが目覚めたのはそれから一刻程経ってからだった。
 何度も軽く口づけ合い、微笑み合う。

 アリシアを愛している。
 アリシアからも同じ気持ちが伝わってくる。
 想いが通じた幸せを噛みしめながら抱き合っていた。

 食事の時も離れたくない思いが強くて横抱きにしてテーブルまで移動した。
 アリシアも恥ずかしそうにしながらも大人しくレイヴンに抱かれていた。
 

 食事が終わると、アリシアが湯浴みをしたいという。
 1人で浴室へ行くということだ。

 アリシアが離れていく。
 そう思うと強い焦燥感に襲われた。 

「嫌だ、アリシア。行かないで」

「レイヴン様」

 強く抱き締めるとアリシアが困ったような顔をした。
 それでも抱き締め返してくれる。

「部屋へ戻って湯浴みをするだけですわ。湯浴みを終えたら戻ります。そうしたらまた一緒に過ごしましょう」

「嫌だよ、アリシア。離れたくない」

 昨日からずっと一緒にいた。
 やっと気持ちが通じたのだ。少しも離れていたくない。

「私も…離れるのは寂しいですわ。ですが湯浴みをしないわけには…」

 確かにレイヴンも一昨日から湯浴みをしていない。
 交わった後体は拭いているけれど、湯浴みをしてさっぱりしたい気持ちはある。
 だけどアリシアと離れることは考えられなかった。

 アリシアもレイヴンと離れるのは寂しいと思ってくれている。
 そして湯浴みはレイヴンもしなければならない。

「一緒に湯浴みをしようか」

「…えっ?!」

「アリシアの好きな石鹸や香油を教えて。僕が洗ってあげる」

「…それは、」

 アリシアの目を見つめてにっこり笑うと、アリシアは真っ赤になって俯いた。
 だけどアリシアと離れずに湯浴みをするにはそれしかない。

 レイヴンがアリシアを抱き上げて部屋へ入るとエレノアが驚いて飛んできた。
 レイヴンは気にすることなく浴室へ向かう。

「これから湯浴みをする。アリシアが使っているものを用意してくれ」

 レイヴンがそう告げると、エレノアはもっと驚いた。
 
「妃殿下の、お手伝いを」

「必要ない。僕がする」

 浴室ではレイヴンも脱ぐのだからエレノアを入れるつもりはない。
 
 エレノアは暫くじっとしていたが、レイヴンが本気だと察したようでアリシアへ視線を向けた。
 アリシアは赤くなってレイヴンの胸に顔を埋めている。
 だけど嫌がっている様子はない。

 エレノアは息を吐いて入浴の準備を始めた。
 レイヴンにいつもアリシアがしているお手入れができるとは思っていない。
 最低限の準備を終えると一礼して浴室から退室した。

 暫くするとアリシアの甘い声が聞こえてきたが、エレノアは聞こえない振りを決め込んだ。



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