278 / 697
3章
132 レイとシア③
しおりを挟む
カフェでの時間は楽しかった。
店は全体的に木造で山小屋の様な作りになっている。
各テーブルには赤と白の格子柄のテーブルクロスが掛かっており、明るく可愛らしい雰囲気だ。
女性が好みそうな内装からもわかる通り、店内にいる客のほとんどが女性だった。
女性ばかりの中でレイヴンは居心地が悪いかもしれない。
そんなアリシアの心配は杞憂だった。
通された2人掛けの小さなテーブルでは自然と距離が近くなる。
すぐ傍にアリシアがいて、目の前には美味しい紅茶とケーキがある。
レイヴンが何かを言うとアリシアは笑顔で答えてくれる。
見つめ合って笑い合う2人は誰から見ても仲の良い恋人同士だ。
憧れを形にした様な時間を過ごすレイヴンに周りを気にする暇などない。
「前は誰と食べたの?」
「え?」
レイヴンはアリシアが以前食べたというチョコレートケーキを食べている。
アリシアが気に入ったものは何でも知っておきたいレイヴンは、迷わずそれを選んだ。
だけど本当はアリシアが言っていた「以前いただいた」相手というのがずっと気になっていたのだ。
それを聞いたアリシアがおかしそうに笑う。
「以前いただいたのはマル…いえ、お義母様からよ。議会の日にレイの帰りを一緒に待ってくれたの」
確かにその日のことはレイヴンも覚えていた。
ジェーンが議会で話をした時だ。アリシアの不安が和らぐよう、マルグリットとノティスがアリシアを訪ねてくれていた。
アリシアを気遣ってくれた母や異母弟に心から感謝している。
だけど今はその気持ち以上に嬉しく思うことがあった。
アリシアがマルグリットを義母と呼んだのはこれが初めてなのだ。
それは人目を気にしたからだ。だけど最近はアリシアもマルグリットやカナリーたちの輪に馴染んできていると思う。
その内マルグリットへ「お義母様」と呼び掛ける日が来るかもしれない。
「すごく嬉しいよ」
レイヴンがそう言うと、アリシアはレイヴンの言いたいことがわかったのだろう。目元を染めて微笑んだ。
カフェを出た後はまた手を繋いで歩いた。
いつの間にか日が暮れて人通りが増えている。学園では授業が終わる時間なので、街へ出てきている者がいるかもしれない。彼らは貴族なのでレイヴンやアリシアの顔をしっかりと知っている。
そろそろ王宮へ帰った方が良いのではと思い出した時、レイヴンがある店の前で足を止めた。
中流階級向けの装飾品を扱うお店だった。
中へ入ると首飾りや指輪、ブローチといった装飾品がガラスケースに並んでいる。
店の中でも展示された場所によってはっきりと品の趣が違っていて、それほど良い品ではないものの上品な作りのものと、使われている石や金は上質だが、派手派手しくいかにも成金が好みそうなものがある。
レイヴンは上品な作りのものが並べられた方へ歩いていった。
使われている物の質はそれほど良いものではないが、デザインは優れたものが揃っている。
並べられたそれらの品を見て歩くのは楽しかった。
暫く店内を見ていたレイヴンが、ある商品をケースから出すよう店員へ声を掛ける。
「シア、これどうかな?」
それはサファイアとエメラルドの小さな石が交互についたブレスレットだった。
「今日の記念になるものが欲しいんだ。学生の頃、婚約者と仲が良い者たちはお互いの色が入ったものをお揃いで身につけていただろう?僕は彼らがずっと羨ましかったんだ。僕もシアとお揃いのものを身につけていたい」
「え?!」
アリシアは驚いてもう一度ブレスレットへ視線を向けた。
確かにサファイアとエメラルドが使われていて、それはレイヴンとアリシアの瞳の色だ。
あまり品質の良いものではないが、学生が普段使いにするならこれくらいのものだろう。
2人はもう学生ではないけれど。
「つけていただけますか…?」
アリシアが手を差し出すと、レイヴンはとても嬉しそうな笑顔を見せた。
店は全体的に木造で山小屋の様な作りになっている。
各テーブルには赤と白の格子柄のテーブルクロスが掛かっており、明るく可愛らしい雰囲気だ。
女性が好みそうな内装からもわかる通り、店内にいる客のほとんどが女性だった。
女性ばかりの中でレイヴンは居心地が悪いかもしれない。
そんなアリシアの心配は杞憂だった。
通された2人掛けの小さなテーブルでは自然と距離が近くなる。
すぐ傍にアリシアがいて、目の前には美味しい紅茶とケーキがある。
レイヴンが何かを言うとアリシアは笑顔で答えてくれる。
見つめ合って笑い合う2人は誰から見ても仲の良い恋人同士だ。
憧れを形にした様な時間を過ごすレイヴンに周りを気にする暇などない。
「前は誰と食べたの?」
「え?」
レイヴンはアリシアが以前食べたというチョコレートケーキを食べている。
アリシアが気に入ったものは何でも知っておきたいレイヴンは、迷わずそれを選んだ。
だけど本当はアリシアが言っていた「以前いただいた」相手というのがずっと気になっていたのだ。
それを聞いたアリシアがおかしそうに笑う。
「以前いただいたのはマル…いえ、お義母様からよ。議会の日にレイの帰りを一緒に待ってくれたの」
確かにその日のことはレイヴンも覚えていた。
ジェーンが議会で話をした時だ。アリシアの不安が和らぐよう、マルグリットとノティスがアリシアを訪ねてくれていた。
アリシアを気遣ってくれた母や異母弟に心から感謝している。
だけど今はその気持ち以上に嬉しく思うことがあった。
アリシアがマルグリットを義母と呼んだのはこれが初めてなのだ。
それは人目を気にしたからだ。だけど最近はアリシアもマルグリットやカナリーたちの輪に馴染んできていると思う。
その内マルグリットへ「お義母様」と呼び掛ける日が来るかもしれない。
「すごく嬉しいよ」
レイヴンがそう言うと、アリシアはレイヴンの言いたいことがわかったのだろう。目元を染めて微笑んだ。
カフェを出た後はまた手を繋いで歩いた。
いつの間にか日が暮れて人通りが増えている。学園では授業が終わる時間なので、街へ出てきている者がいるかもしれない。彼らは貴族なのでレイヴンやアリシアの顔をしっかりと知っている。
そろそろ王宮へ帰った方が良いのではと思い出した時、レイヴンがある店の前で足を止めた。
中流階級向けの装飾品を扱うお店だった。
中へ入ると首飾りや指輪、ブローチといった装飾品がガラスケースに並んでいる。
店の中でも展示された場所によってはっきりと品の趣が違っていて、それほど良い品ではないものの上品な作りのものと、使われている石や金は上質だが、派手派手しくいかにも成金が好みそうなものがある。
レイヴンは上品な作りのものが並べられた方へ歩いていった。
使われている物の質はそれほど良いものではないが、デザインは優れたものが揃っている。
並べられたそれらの品を見て歩くのは楽しかった。
暫く店内を見ていたレイヴンが、ある商品をケースから出すよう店員へ声を掛ける。
「シア、これどうかな?」
それはサファイアとエメラルドの小さな石が交互についたブレスレットだった。
「今日の記念になるものが欲しいんだ。学生の頃、婚約者と仲が良い者たちはお互いの色が入ったものをお揃いで身につけていただろう?僕は彼らがずっと羨ましかったんだ。僕もシアとお揃いのものを身につけていたい」
「え?!」
アリシアは驚いてもう一度ブレスレットへ視線を向けた。
確かにサファイアとエメラルドが使われていて、それはレイヴンとアリシアの瞳の色だ。
あまり品質の良いものではないが、学生が普段使いにするならこれくらいのものだろう。
2人はもう学生ではないけれど。
「つけていただけますか…?」
アリシアが手を差し出すと、レイヴンはとても嬉しそうな笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。
あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか?
月曜:人懐っこい
火曜:積極的
水曜:年上
木曜:優しい
金曜:俺様
土曜:年下、可愛い、あざとい
日曜:セクシー
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
男子校的教師と生徒の恋愛事情
蒼月さわ
BL
男子校教師副島一成は、入学して一ヶ月しか経っていない教え子の桐枝伝馬から告白される。
それに対する返答はストレートパンチだった……
男子校を舞台に、個性的な教師や生徒たちがわちゃわちゃと入り乱れ、毎日が賑やかに展開する。
その中で、告白し告白された伝馬と一成はどうなっていくのか。
体育系の猪突猛進な生徒×男前な三白眼の教師。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる