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3章

132 レイとシア③

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 カフェでの時間は楽しかった。

 店は全体的に木造で山小屋の様な作りになっている。
 各テーブルには赤と白の格子柄のテーブルクロスが掛かっており、明るく可愛らしい雰囲気だ。
 女性が好みそうな内装からもわかる通り、店内にいる客のほとんどが女性だった。

 女性ばかりの中でレイヴンは居心地が悪いかもしれない。

 そんなアリシアの心配は杞憂だった。
 通された2人掛けの小さなテーブルでは自然と距離が近くなる。

 すぐ傍にアリシアがいて、目の前には美味しい紅茶とケーキがある。
 レイヴンが何かを言うとアリシアは笑顔で答えてくれる。
 見つめ合って笑い合う2人は誰から見ても仲の良い恋人同士だ。
 憧れを形にした様な時間を過ごすレイヴンに周りを気にする暇などない。

「前は誰と食べたの?」

「え?」

 レイヴンはアリシアが以前食べたというチョコレートケーキを食べている。
 アリシアが気に入ったものは何でも知っておきたいレイヴンは、迷わずそれを選んだ。
 だけど本当はアリシアが言っていた「以前いただいた」相手というのがずっと気になっていたのだ。

 それを聞いたアリシアがおかしそうに笑う。

「以前いただいたのはマル…いえ、お義母様からよ。議会の日にレイの帰りを一緒に待ってくれたの」

 確かにその日のことはレイヴンも覚えていた。
 ジェーンが議会で話をした時だ。アリシアの不安が和らぐよう、マルグリットとノティスがアリシアを訪ねてくれていた。

 アリシアを気遣ってくれた母や異母弟に心から感謝している。
 だけど今はその気持ち以上に嬉しく思うことがあった。
 アリシアがマルグリットを義母と呼んだのはこれが初めてなのだ。

 それは人目を気にしたからだ。だけど最近はアリシアもマルグリットやカナリーたちの輪に馴染んできていると思う。
 その内マルグリットへ「お義母様」と呼び掛ける日が来るかもしれない。

「すごく嬉しいよ」

 レイヴンがそう言うと、アリシアはレイヴンの言いたいことがわかったのだろう。目元を染めて微笑んだ。


 カフェを出た後はまた手を繋いで歩いた。
 いつの間にか日が暮れて人通りが増えている。学園では授業が終わる時間なので、街へ出てきている者がいるかもしれない。彼らは貴族なのでレイヴンやアリシアの顔をしっかりと知っている。
 そろそろ王宮へ帰った方が良いのではと思い出した時、レイヴンがある店の前で足を止めた。
 中流階級向けの装飾品を扱うお店だった。

 中へ入ると首飾りや指輪、ブローチといった装飾品がガラスケースに並んでいる。
 店の中でも展示された場所によってはっきりと品の趣が違っていて、それほど良い品ではないものの上品な作りのものと、使われている石や金は上質だが、派手派手しくいかにも成金が好みそうなものがある。

 レイヴンは上品な作りのものが並べられた方へ歩いていった。

 使われている物の質はそれほど良いものではないが、デザインは優れたものが揃っている。
 並べられたそれらの品を見て歩くのは楽しかった。
 
 暫く店内を見ていたレイヴンが、ある商品をケースから出すよう店員へ声を掛ける。

「シア、これどうかな?」

 それはサファイアとエメラルドの小さな石が交互についたブレスレットだった。

「今日の記念になるものが欲しいんだ。学生の頃、婚約者と仲が良い者たちはお互いの色が入ったものをお揃いで身につけていただろう?僕は彼らがずっと羨ましかったんだ。僕もシアとお揃いのものを身につけていたい」

「え?!」

 アリシアは驚いてもう一度ブレスレットへ視線を向けた。
 確かにサファイアとエメラルドが使われていて、それはレイヴンとアリシアの瞳の色だ。
 あまり品質の良いものではないが、学生が普段使いにするならこれくらいのものだろう。

 2人はもう学生ではないけれど。
 
「つけていただけますか…?」

 アリシアが手を差し出すと、レイヴンはとても嬉しそうな笑顔を見せた。




 
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