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3章

126 告白

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 アリシアが目を覚ますと、レイヴンがアリシアを見つめていた。
 レイヴンはいつも先に目を覚ますと、アリシアが起きるまで寝顔を見つめている。
 起きてすぐにレイヴンの顔を見ることには既に慣れていた。

 レイヴンも寝起きのはずなのに端正な顔はそんなことを感じさせない。
 あまり眠れずに寝不足のアリシアはぼんやりしたままその見慣れた顔を見ていた。
 レイヴンの顔には柔らかい笑顔が浮かんでいる。

「おはよう、アリシア」 

「…おはようございます」

 いつもの様にちゅっと音を立ててレイヴンがアリシアの額に口づける。
 愛おしそうにアリシアを見つめていたレイヴンの表情が曇った。

「アリシア、なんだか疲れているみたいだね?」

「…え?――……っ!!」

 ぼんやりしていたアリシアは、そこで昨日のことを思い出した。
 薄い膜が張ったようだった思考がクリアになる。
 途端に鼓動が跳ね上がった。
 
「アリシア?」

 ドキドキと胸の音が煩い。他の音が何も聞こえなくなる。
 目を見開いたまま絶句したアリシアに戸惑いながら、レイヴンが頬へ手を伸ばした。

「……っ!!」

 また叫びそうになる。
 アリシアは咄嗟に目を閉じ、叫び出しそうな衝動に耐えた。

「アリシア?!大丈夫?!」

 これまでにないアリシアの様子にレイヴンが焦った声を出す。
 青白かった顔が赤く染まるのをレイヴンは見逃していない。

「誰か!アリシアの具合が悪い!侍医を!!」

「!!」

 焦って侍医を呼ぶよう指示するレイヴンにアリシアは息を飲んだ。
 レイヴンはアリシアが怪我をしたり体調を崩すことを、そしてそれに気づかずにいることを何より恐れている。
 
「レ、レイヴン様、私はなんともありませんわ」

 アリシアのそんな小さな声は数人の侍女が駆け込んできた物音にかき消されていた。


 結局アリシアはレイヴンに抱きかかえられたまま侍医の診察を受けた。
 侍医たちもレイヴンがアリシアの体調に敏感なのは知っている。 
 不安を残さないよう丁寧に診察をした後、特に異常は無いので過労だろうと診断を下した。

 侍医たちが退出した後もレイヴンの顔は青褪めたままだ。

「レイヴン様?」

 声を掛けると、アリシアを抱き締めるレイヴンの腕に力が籠る。

「…アリシアに何かあったらどうしようかと思った」

 レイヴンの声が震えている。
 その声を聞いたアリシアは胸が締め付けられた。

 アリシアのおかしな態度のせいで大変なことになってしまった。
 寝不足ではあるけれど、体調が悪いわけではない。レイヴンを不安がらせるつもりはなかった。
 アリシアが感じていたあのどうしようもない、居たたまれない気持ちはこの騒ぎのせいですっかりと消えてしまっていた。かわりに申し訳なさが溢れてくる。

「申し訳ありませんでした」

 アリシアが謝るとレイヴンが大きく首を振った。

「アリシアが謝ることなんてないよ。過労だというから今日はこのままゆっくり休んだ方が良い」

 レイヴンが額に口づける。
 アリシアの様子が気になるからといってレイヴンが休むわけにはいかない。
 レイヴンは仕方なさそうにアリシアから体を離し、ベッドを降りる。
 部屋へ向かうレイヴンをアリシアは思わず呼び止めていた。

「レイヴン様」

 アリシアの呼びかけにレイヴンが心配そうに振り返る。
 そんな顔を見ていたら、ぽろりと言葉が滑り落ちていた。

「愛しています」

 瞬間、レイヴンの目が見開かれた。




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