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3章

120 2人きりのお茶会

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「おめでとう、ジェーン!ようやく願いが叶ったわね」

「はい、ありがとうございます」

 アリシアの祝福の言葉にジェーンが笑顔を見せる。
 後継者変更の手続きをしたことでジェーンが侯爵家の跡取りだと正式に認められた。
 国王やレイヴンがそうなるように動いているのは知っていたけれど、これでジェーンは安心して国を離れることができる。
 ただ爵位を継承するのがいつになるのかはまだ決まっていない。
 これまではジェーンの夫が当主の座を継ぐことになっていたので爵位の継承は結婚後とされていた。ジェーンが跡を継ぐなら結婚するまで待つ必要はない。

 デミオンは既に名前だけの当主である。
 本当ならすぐにでも引退させたいところだが、ジェーンは1年アナトリアを離れることになっている。爵位を継承したばかりの当主が長期間家を離れるのは良いことではない。
 だからジェーンが女侯爵となるのは少なくともアルスタから戻ってからになる。


 今日はアリシアとジェーンのお茶会だ。
 このお茶会も今日を含めて残り2回となった。
 ただ今日のお茶会にはカナリーとノティスが来ていない。旅立つ前にじっくり話ができるようにと2人が気を遣ってくれたのだ。
 最後の時はカナリーとノティスだけではなく、レイヴンやレオナルドも招待しようとアリシアは決めていた。

「あなたとこうして話をするのも久しぶりね」

「そうですわね。お2人の心遣いに感謝致しませんと」

 カナリーとノティスがいるお茶会もそれはそれで楽しいのだが、やはり気心が知れた2人だけのものとは違って2人だけの思い出話をすることは出来ない。

 久しぶりに2人きりで交わされる会話は無軌道に色んな所へ話題が飛ぶ。
 まだサンドラが生きていた頃のことからアンジュとエミリーが来てからの侯爵家のこと、ジェーンの花園とあの家のこと。

 花園や家があった敷地はルトビア公爵家のものになった。
 それと同時に下働きのハンナやハンナの夫で庭師のダンが侯爵家を辞め、ルトビア公爵家で雇われることになっていた。
 ジェーンは知らなかったようで目を丸くしている。
 
「あなたが知らないとは思わなかったわ。あの庭園は珍しい花を集めているでしょう?公爵家の庭師だけでは世話をするのが難しかったみたいなの。それでお兄様が声を掛けたそうよ。ロイ兄様も2人が侯爵家に残ることを希望すればそのまま残すつもりだったみたいだけど、2人は侯爵家が大変なのをわかっているから少しでも負担を減らせるようにと公爵家に移ることを決めたそうよ」

「そうなのですね…」

 2人は侯爵家の功労者である。
 あの庭園や家は邸に居場所のないジェーンの逃げ場になっていた。
 食事を抜かれても、あの家へ行けばハンナが美味しいものを食べさせてくれる。花の世話に集中すれば、辛い現実を忘れることができた。
 邸にあったサンドラの遺品は捨てられてしまったけれど、サンドラと作っていた思い出の庭園は美しい姿を保ったままだ。
 
 公爵家の庭師でも世話をしきれない花をジェーンが1人で世話をしていたわけではない。ダンが密かに協力して世話をしていたのだ。
 彼は平民だが裕福な家の出らしく、字を読むことができる。
 サンドラやジェーンの為にと植物の栽培について書かれた書物を読み漁り、どんな花にも対応できる知識を身につけていた。


 ロバートは財政難の侯爵家を再建する為に大半の使用人を解雇した。
 それはデミオンやアンジュが雇った者たちで、ハンナやハンナの夫は含まれない。
 ただ庭園のある区画を公爵家へ売却したことで、管理をしていたハンナの仕事が無くなっていた。

 ロバートは侯爵家に残ることを望むのなら本邸の方でできる仕事を割り当てると言ったけれど、ハンナはそれを望まなかった。
 侯爵家の財政難は使用人でも知っている。
 平民の下働きの給金など微々たるものかもしれないが、それでも減らせるものなら減らした方が良いとハンナ自身が言ったそうだ。
 ハンナは今、公爵家の使用人としてジェーンの庭園と家の管理をしている。
 ダンもジェーンの庭園が気になっていたところにレオナルドから公爵家で雇いたいという話しが来たので、夫婦揃って勤め先を変えることになった。

「2人があなたを思っているのは間違いないわ。庭園を買い戻せる時が来たら、また2人を侯爵家で雇い直せば良いのよ」

 アリシアがそう言うと、ジェーンは何か強い感情を飲み込むようにして頷いた。
 




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