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3章

114 正殿での交流①

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 ジェーンの補講が始まると、アリシアの生活にも少し変化があった。

 まずはジェーンとのお茶会がまた夜の時間だけに戻った。
 体を休めることも必要なので補講は毎日行われるわけではない。
 だけどジェーンは、1人で部屋にいても気が焦ってしまって休むことができない。1人で教本を読んだりしているくらいなら、アリシアたちと話していた方が気が紛れて良いと言う。
 だから補講が無い日に合わせてお茶会をすることになったのだ。

 その代わりお茶会では作法に囚われずにのんびりとお喋りだけをすることにした。
 とはいえ、使われる言語は元の決まりのままアルスタ語である。
 補講と合わせてジェーンとノティスはほとんど毎日顔を合わせることになっているが、今のところ2人に不満はないようだ。

 不満があるのはレイヴンの方で、ジェーンの予定に合わせてお茶会が開かれる為、レイヴンが部屋にいてもお茶会が行われてしまう。
 レイヴンは噂のことがあってから直接ジェーンと顔を合わせないようにしているのでお茶会に参加することができない。「僕のことは気にしなくて良いよ」と言っていたけれど、その表情はとても淋しそうに見えた。

 ただレイヴンは、補講の手配も王家がするべきことだと思い至らなかったことを悔やんでいた。
 マルグリットが言う通り、団員の教育が間に合わないのは国としての問題である。使節団についてはレイヴンが任されているので、本来であれば報告書を読んでジェーンの状態を知っていたレイヴンが補講を受けるよう指示しなければいけなかった。
 これまで使節団に選ばれてきた者は、学園を卒業するまでの間に学も作法もそれなりのものを身につけていた。その上で志が高い者なので、研修期間で間に合わないことなどなかったのだ。

 だけどジェーンは実家で教育を受けることが出来ずに基本的な作法も身に着いていなかった。
 レイヴンはそれを知っていたのに特別な措置を取らず、研修だけで賄おうとした。そんな簡単なことではないとわかっていたはずなのに、何事にも真剣に取り組むジェーンなら大丈夫だろうと安易に考えていたのだ。
 レイヴンはあれから、ジェーンの希望を聞くまで補講の必要性に気づかなかったことを詫びる文を書いていた。

 
 またアリシアは、レイヴンと共に正殿の応接間へ度々顔を出すようになった。
 正殿へ行く時はいつもレイヴンが寄り添い、気遣ってくれている。
 いつ、何時に、という制約がない訪問なので、アリシアの気持ちが向かなければ途中で引き返しても良いと言ってくれているのだ。
 
 初めの頃、カナリーからはレイヴンがいない日に遊びに来て欲しいと言われていた。
 だけどアリシアがいつも緊張していることをレイヴンが話したのだろう。今はもう何も言わなくなった。
 カナリーの言葉は、1人で部屋にいるのは淋しいだろうという気遣いだ。それがわかっているから、不快だとは思っていない。
  
 あの日、マルグリットはアリシアたちとの話が終わると、子どもたちを近くへ呼んだ。
 幼いアイビスはほとんど話したことがない義姉に尻込みしていたけれど、部屋を辞す頃には可愛らしい声で「お義姉様」と呼んでくれるようになっていた。

 思えばレイヴンとは反対で、アリシアには兄しかいない。姉妹のように育ったジェーンも数か月先に生まれている。
 義姉あねと呼ばれる初めての経験にアリシアは、むず痒いような心地よさを感じていた。

 まだ手探りではあるけれど、これまで距離のあったカナリーたちと義姉弟としての関係を築き始めたのだ。



 
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