上 下
253 / 697
3章

107 それぞれの胸の内①

しおりを挟む
「決められたことを守る…か」

 ライアンからすれば、建国当初からの法を変えようとしているレイヴンはとんでもないのかもしれない。
 レイヴンはそう考えるが、ライアンは女性に継承権を与えることには反対していない。ジェーンが侯爵家を継ぐことが出来ることを喜んでいるという。
 サンドラやジェーンを見ていて、きちんと教育さえ受ければ女性であっても当主としての能力を身につけることができると理解しているのだ。

 それに王家に関していえば長子相続が絶対ではない。
 王太子として選ばれるのに第一王子が有力なのは間違いないが、子の生母、生母の実家が持つ勢力、本人の能力と性格などを総合して考え、最も相応しい者が選ばれる。
 もしレイヴンが迎えた側妃が第一王子を生んだとしても、アリシアが第二王子を生めば正妃であるアリシアとルトビア公爵家の勢力を考慮して第二王子が王太子となる可能性が高かった。
 だからアリシアが生んだ子を世継ぎにしたいだけなら王女の継承権など認める必要はないのだ。

 レイヴンにとって重要なのは、側妃を娶らずに済むこと、それだけである。
 ルトビア公爵家の子息として教育を受け、高い能力を持つライアンには、どれだけ建て前の言葉を並べてもその浅はかな胸の内を見抜かれているのかもしれない。

「一度会って話してみないといけないな…」

「ライアン叔父様とですか?」

 レイヴンが頷くと、アリシアは申し訳なさそうに眉を下げる。

「叔父様は大抵領地にいらっしゃいますから、中々難しいかもしれません」

「え?王都にいると聞いたけど」

 つい最近レオナルドが話をしてきている。レオナルドに伯爵領まで行っている時間は無い。
 だけどアリシアはライアンが王都にいるとは思ってもいなかったらしい。

「叔父様が王都にいらっしゃるのですか?それは何故…。ロイ兄様は王都にいないはずですし…」

「ロバートがどうかしたの?」

 レイヴンが問い掛けるとアリシアはハッとした顔をする。
 ロバートの名前は無意識に出た独り言だったようだ。
 アリシアはそのまま暫く無言でいたが、少し考えた後気まずそうに話し出した。

「…先程ライアン叔父様が、早々にルーファス兄様を跡継ぎと定めたことで揉め事が起きずに済んだと話しましたけれど、それでもやはりルーファス兄様はロイ兄様を称賛する声を気にしていました。ルーファス兄様自身が、ご自分よりロイ兄様の方が跡継ぎとして相応しいと感じていたからです。ロイ兄様もまた、それをずっと感じていて、ご自身に伯爵家を継ぐ意志がないことを示す為に、領地経営に関わる勉強はしませんでした。お祖母様はロイ兄様も入り婿になる可能性があるからと、お兄様とジェーンが領地経営を学ぶ時に一緒に公爵家の領地へ連れて行こうとしましたが、ロイ兄様はそれを拒否しました。そして在学中に商会を立ち上げ、卒業と同時に家を出られました。ロイ兄様には商才もあったようで、すぐに外国に支店を構えるようになったのはレイヴン様もご存知だと思います」

「それじゃあロバートがあまり国内にいないのは…」

「ルーファス兄様の為に、ご自身は国内にいない方が良いと思ったからですわ。ロイ兄様は国を離れる前、ジェーンのことをとても気にしていました。こんな状態のジェーンを置いて国外へ出るのは見捨てたと言われても仕方がないと、どうか自分の分もジェーンを守ってやって欲しいと、お兄様に頭を下げておられました」

 レイヴンは言葉を失った。

 嫡男ではない以上、学園を卒業した後は家を出て独立しなければならない。
 そして自分の力で立ち上げた商会が上手くいき、国外にまで支店を構えることができたのは誇るべきことである。
 だけどジェーンの事情を深く知るロバートにとって、それは苦渋の決断だったのだ。

「ロイ兄様の事情はジェーンも勿論知っています。ジェーンはロイ兄様に見捨てられたなどとは思っていません。ロイ兄様がいつもジェーンを気に掛けていることはジェーンも知っていますし、ご自身の兄弟や家のことを優先するのは当然のことだと思っています。…ですからキャンベル侯爵家当主の権限をロイ兄様へ委譲したことを、ジェーンは心苦しく思っているはずです」

「え…?」

「ロイ兄様は、領地経営に関して学んでいないと言いましたでしょう?ですが今、ロイ兄様は侯爵領を立て直すために必死に励んでおられますわ。1年もあれば領地経営に必要な知識を身につけてしまわれるでしょう」

「…っ!」

「それにロイ兄様は子爵位を賜りました。これからはアナトリアの貴族として、ルーファス兄様と比べられることも増えるでしょう」





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。 あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか? 月曜:人懐っこい 火曜:積極的 水曜:年上 木曜:優しい 金曜:俺様 土曜:年下、可愛い、あざとい 日曜:セクシー ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

高嶺の花

鳫葉あん
BL
若く端正な恋人に童貞処女だとバレたくなかった受けが自己開発して経験ありますアピして面倒なことになった話。または年上の恋人に切り捨てられそうになった青年がキレて調教した話。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す

夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。 それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。 しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。 リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。 そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。 何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。 その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。 果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。 これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。 ※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。

あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。

櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。 でも成長した今の俺に、その面影はない。 そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……? あなたへの初恋は、この胸に秘めます。 だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。 ※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。 ※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。 ※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。

男子校的教師と生徒の恋愛事情

蒼月さわ
BL
男子校教師副島一成は、入学して一ヶ月しか経っていない教え子の桐枝伝馬から告白される。 それに対する返答はストレートパンチだった…… 男子校を舞台に、個性的な教師や生徒たちがわちゃわちゃと入り乱れ、毎日が賑やかに展開する。 その中で、告白し告白された伝馬と一成はどうなっていくのか。 体育系の猪突猛進な生徒×男前な三白眼の教師。

処理中です...