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3章
99 新たな道へ②
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「レオナルド殿、少しよろしいか」
「これはオットー侯爵。お久しぶりですね」
声を掛けられ、振り返ったレオナルドはにこやかに微笑んだ。
レオナルドが社交の場でこの笑顔を崩すことは無い。
オットー侯爵とは面識があるくらいで親しいわけではないが、人情に厚く面倒見が良い人物として知られている。
「実は貴殿に紹介して欲しいと頼まれましてな」
軽く挨拶を交わした後、オットー侯爵が後ろを振り返る。
それを合図に控えていた若い男女が進み出て来て礼を取った。
「グーリッド伯爵家の長男、エディ・グーリッドと申します。この度は妹がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「グーリッド伯爵家の次女、ディアナ・グーリッドと申します。姉が大変失礼なことを致しました。申し訳ありません」
キャロルの兄妹である。
「エディ殿、お久しぶりですね」
レオナルドが声を掛けると、エディは下げていた頭を上げた。
初対面のような挨拶だが、レオナルドはエディと子どもの頃に何度か会ったことがある
ただエディはキャロルやレオナルドより5歳年長であり、学園を卒業するのと同時に領地へと戻っていた。
それ以来一度も王都へ出てきていなかったので、最後に顔を合わせてから10年は経っている。
「覚えておいででしたか」
父親のグーリッド伯爵は王宮に執務室を持っているが、あまり重宝されているわけではなく、5歳も離れていれば公爵家の長男と深い関りが持てるわけもない。
先程の挨拶は忘れられていた場合を考慮してのものだった。
エディは領地へ送られてきたキャロルの侍女から事の顛末を聞かされると、慌てて領地から王都へ出て来た。
次期伯爵として妹の不始末を詫びなければならない。
だが何度公爵邸へ使いをやっても不在だとして訪問を断られてしまう。
忙しくしていたレオナルドは本当に不在にしていたのだが、それを知らないエディはレオナルドの怒りが強く、面会を拒否されているのだと受け取っていた。
それならばレオナルドが出席する夜会で詫びるしかないと、間を取り持ってもらえそうな伝手を探してここまで来たのだ。
オットー侯爵はエディから見て母の姉の嫁ぎ先の弟が迎えた妻の兄である。
侯爵もルトビア公爵家とグーリッド伯爵家の諍いに巻き込まれたくはない。それでも遠い縁を頼りにレオナルドへ紹介して欲しいと頭を下げに来たエディを、人の良い侯爵は見捨てることが出来なかったのだ。
「既に終わったことですのでご姉弟にまで謝っていただく必要はありませんよ」
レオナルドはにこやかな表情を崩さないまま告げた。
キャロルとは正式に婚約していたわけではないので慰謝料も発生していない。
形としてはレオナルドが愚弄されて恥をかかされたことになるが、そうなることをわかっていて利用したところもあるのでこれ以上のことを求めるつもりもなかった。
「そういう訳には参りません。姉がしたことは人として最低なことですわ。妹として恥ずかしく思っております」
レオナルドはエディの隣で目を伏せている少女へ視線を向けた。
このディアナという少女とは本当に初対面である。
年が離れた令嬢であっても公爵家との縁を望んで夜会や舞踏会でレオナルドの周りを囲む者はいる。
レオナルドも常識の範囲でそんな令嬢たちとダンスを踊ることはあった。だけどこれまでレオナルドを囲んでいた令嬢の中にディアナの姿を見たことは無い。
「ディアナ嬢と仰いましたか。失礼ですがおいくつですか?」
レオナルドの問い掛けにディアナは怪訝な表情を見せるが、すぐに元の表情へと戻す。
何かを言えるような立場ではないと弁えているのだ。
「今年で16になります」
「では今年学園に入学されたのですね」
それにしてはキャロルよりも分別がありそうだ。
年の離れた末っ子は往々にして甘やかされるものだが、ディアナは甘やかされて育ったようには見えない。
エディも学生の頃から悪い噂はなく、今は領地経営に実直に取り組んでいる。
グーリッド伯爵夫妻も娘を王太子の側妃にしようという欲を見せたが、それは貴族として普通のことである。
ここで紹介を受けたのは悪くないかもしれない。
レオナルドは密かに頷いた。
「これはオットー侯爵。お久しぶりですね」
声を掛けられ、振り返ったレオナルドはにこやかに微笑んだ。
レオナルドが社交の場でこの笑顔を崩すことは無い。
オットー侯爵とは面識があるくらいで親しいわけではないが、人情に厚く面倒見が良い人物として知られている。
「実は貴殿に紹介して欲しいと頼まれましてな」
軽く挨拶を交わした後、オットー侯爵が後ろを振り返る。
それを合図に控えていた若い男女が進み出て来て礼を取った。
「グーリッド伯爵家の長男、エディ・グーリッドと申します。この度は妹がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「グーリッド伯爵家の次女、ディアナ・グーリッドと申します。姉が大変失礼なことを致しました。申し訳ありません」
キャロルの兄妹である。
「エディ殿、お久しぶりですね」
レオナルドが声を掛けると、エディは下げていた頭を上げた。
初対面のような挨拶だが、レオナルドはエディと子どもの頃に何度か会ったことがある
ただエディはキャロルやレオナルドより5歳年長であり、学園を卒業するのと同時に領地へと戻っていた。
それ以来一度も王都へ出てきていなかったので、最後に顔を合わせてから10年は経っている。
「覚えておいででしたか」
父親のグーリッド伯爵は王宮に執務室を持っているが、あまり重宝されているわけではなく、5歳も離れていれば公爵家の長男と深い関りが持てるわけもない。
先程の挨拶は忘れられていた場合を考慮してのものだった。
エディは領地へ送られてきたキャロルの侍女から事の顛末を聞かされると、慌てて領地から王都へ出て来た。
次期伯爵として妹の不始末を詫びなければならない。
だが何度公爵邸へ使いをやっても不在だとして訪問を断られてしまう。
忙しくしていたレオナルドは本当に不在にしていたのだが、それを知らないエディはレオナルドの怒りが強く、面会を拒否されているのだと受け取っていた。
それならばレオナルドが出席する夜会で詫びるしかないと、間を取り持ってもらえそうな伝手を探してここまで来たのだ。
オットー侯爵はエディから見て母の姉の嫁ぎ先の弟が迎えた妻の兄である。
侯爵もルトビア公爵家とグーリッド伯爵家の諍いに巻き込まれたくはない。それでも遠い縁を頼りにレオナルドへ紹介して欲しいと頭を下げに来たエディを、人の良い侯爵は見捨てることが出来なかったのだ。
「既に終わったことですのでご姉弟にまで謝っていただく必要はありませんよ」
レオナルドはにこやかな表情を崩さないまま告げた。
キャロルとは正式に婚約していたわけではないので慰謝料も発生していない。
形としてはレオナルドが愚弄されて恥をかかされたことになるが、そうなることをわかっていて利用したところもあるのでこれ以上のことを求めるつもりもなかった。
「そういう訳には参りません。姉がしたことは人として最低なことですわ。妹として恥ずかしく思っております」
レオナルドはエディの隣で目を伏せている少女へ視線を向けた。
このディアナという少女とは本当に初対面である。
年が離れた令嬢であっても公爵家との縁を望んで夜会や舞踏会でレオナルドの周りを囲む者はいる。
レオナルドも常識の範囲でそんな令嬢たちとダンスを踊ることはあった。だけどこれまでレオナルドを囲んでいた令嬢の中にディアナの姿を見たことは無い。
「ディアナ嬢と仰いましたか。失礼ですがおいくつですか?」
レオナルドの問い掛けにディアナは怪訝な表情を見せるが、すぐに元の表情へと戻す。
何かを言えるような立場ではないと弁えているのだ。
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「では今年学園に入学されたのですね」
それにしてはキャロルよりも分別がありそうだ。
年の離れた末っ子は往々にして甘やかされるものだが、ディアナは甘やかされて育ったようには見えない。
エディも学生の頃から悪い噂はなく、今は領地経営に実直に取り組んでいる。
グーリッド伯爵夫妻も娘を王太子の側妃にしようという欲を見せたが、それは貴族として普通のことである。
ここで紹介を受けたのは悪くないかもしれない。
レオナルドは密かに頷いた。
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