上 下
234 / 697
3章

88 無自覚な妬心③

しおりを挟む
「ごめんね、アリシア」

「…え?」

 レイヴンはキャロルのことを隠してはいなかった。
 だけどアリシアに話してもいない。
 それはアリシアの反応が怖かったからだ。

 かつてレイヴンがジェーンを想っていると言われていた時、アリシアはそれを信じていた。
 信じていて、何とも思っていなかった。
 それはアリシアがレイヴンに少しも好意を持っていないからだ。

 今回はキャロルからの一方的な想いである。
 それでもレイヴンに好意を寄せて近づく女の存在を、「少しも気にならない」と言われたらと思うと怖かったのだ。

 あの頃とは違って今では毎日の様に「愛している」と伝えている。
 アリシアも以前に比べれば随分と自然な態度で接してくれるようになった。
 関係は改善されていると思う。
 それでもレイヴンに対する好意は無いのだと、思い知らされることを恐れていた。

 アリシアが気にしてくれた。
 そう思うとじわじわと喜びが湧いてくる。 
 だけどアリシアに不安な思いをさせたかったわけではない。

「ちゃんと話しておくべきだった。グーリッド伯爵令嬢は確かに毎日の様に姿を見せていたよ。だけどそれだけだ。彼女はあくまでレオの婚約者候補として王宮に来ていた。僕とは関係のない人だ」

「…レイヴン様から伯爵令嬢へ声を掛けることはなかったと聞いています」

 レイヴンは頷く。

「グーリッド伯爵令嬢がレオと関係を築こうとしているなら、僕も彼女をレオの婚約者候補としてきちんと扱っていたよ。だけど彼女は初めから僕への好意を隠してなかったし、レオと関係を築こうともしていなかった。彼女の狙いは僕の側妃になることだ。それがわかったから相手にしなかった」

 レイヴンにとってレオナルドは部下の1人だ。だけど友人でもある。
 まだ候補だとしても、いずれ友人の妻となるかもしれない女性であれば丁重に扱っていた。
 だけどキャロルは、その友人を利用してレイヴンに近づこうとしていた。
 そんな女を相手にするはずがない。

「僕はあの令嬢に嫌悪感しか持っていない。あの令嬢のことはレオに任せているけど、最近は姿を見せなくなっているし、もうアリシアを煩わせることはないと思う」

「…そうですか」

 レイヴンはまたアリシアの髪を撫でる。
 いつの間にかアリシアの表情から憂いの色が消えていてホッとする。
 そうするとまた喜びか返ってくる。

「愛しているよ、アリシア」

 レイヴンはアリシアにそっと口づける。

「グーリッド伯爵令嬢のことをアリシアが気にする必要はないよ。アリシアが僕のものなのと同じ様に、僕はアリシアのものだからね」

 レイヴンの言葉にアリシアは驚いたような顔をするけれど、本当のことだ。

 レイヴンはアリシアへ何度も口づける。
 唇を十分に味わいながら、ゆっくりと体をベッドへと押し倒していく。

「愛している、アリシア」

 アリシアの耳元でレイヴンが囁く。
 いつかアリシアが「愛している」と答えてくれるようにと願いながら。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

王太子殿下の子を授かりましたが隠していました

しゃーりん
恋愛
夫を亡くしたディアンヌは王太子殿下の閨指導係に選ばれ、関係を持った結果、妊娠した。 しかし、それを隠したまますぐに次の結婚をしたため、再婚夫の子供だと認識されていた。 それから10年、王太子殿下は隣国王女と結婚して娘が一人いた。 その王女殿下の8歳の誕生日パーティーで誰もが驚いた。 ディアンヌの息子が王太子殿下にそっくりだったから。 王女しかいない状況で見つかった王太子殿下の隠し子が後継者に望まれるというお話です。

結婚して後悔したので、人生を変えます。

杉本凪咲
恋愛
結婚初日。 夫は私を使用人のように扱うと宣言した。 さらに、彼は不貞までしているみたいで……

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

小さな小さな花うさぎさん達に誘われて、異世界で今度こそ楽しく生きます!もふもふも来た!

ひより のどか
ファンタジー
気がついたら何かに追いかけられていた。必死に逃げる私を助けてくれたのは、お花?違う⋯小さな小さなうさぎさんたち? 突然森の中に放り出された女の子が、かわいいうさぎさん達や、妖精さんたちに助けられて成長していくお話。どんな出会いが待っているのか⋯? ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ 『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の、のどかです。初めて全く違うお話を書いてみることにしました。もう一作、『転生初日に~』の、おばあちゃんこと、凛さん(人間バージョン)を主役にしたお話『転生したおばあちゃん。同じ世界にいる孫のため、若返って冒険者になります!』も始めました。 よろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

処理中です...