上 下
218 / 697
3章

73 波及効果②

しおりを挟む
「レイヴン殿下はお忙しいようですね」

「ええ。昨日もお戻りになったのは随分遅くなってからだったわ」

 自然とそう答えるアリシアにジェーンは少し目を見開いたが、すぐに表情を元に戻した。
 驚いたことに気づかれない方が良いと思ったからだ。

「お戻りになるのを待っておられるのですね」

「ええ、待つようにしているわ。…待ちきれずに寝てしまうこともあるのだけど」

 そんなアリシアを見ていてジェーンは微笑ましく思う。
 少し前のアリシアなら、レイヴンのことなど気にせず先に寝ていたはずだ。


 最近レイヴンは夕食の後、国王の執務室に詰めている。
 執務室に集められた者たちで、女性の継承権を認めるに当たっての様々なことを話し合っているのだ。

 どこの家にも既に届け出られている後継者がいる。
 その後継者を変更するのに、いつから女性への変更が認められるのか。また、変更を望まない家でも変更しなければならないのか。

 女婿を迎えた家でも爵位を継ぐことを望まない女性もいる。
 大抵の女性はこれまで自身が爵位を継ぐことなど考えたことが無く、領主としての勉強もしていない。
 夫婦仲が上手くいっていて、2人の間に子どもも生まれていれば、後継者を変える必要などないと考える女性も少くないのだ。

 そういったことから、既に婚姻済みの家ではどちらが後継者になるのか話し合いで決められるようにした方が良いという者がいて、それではその話し合いに立ち会い、互いに納得した結果だと証明する為の第三者機関を立ち上げるべきだという者がいる。

 それでは今婚約中の者たちはどうなのか。
 婚約中といっても、まだ幼い者から今年中に婚姻予定の者たちまでいる。

 すべての事柄に対応するのは無理であっても、執務室に集った面々で可能な限りの想定をして対策を講じていく。
 最終の決定権をもっているのは国王だが、話し合いを主導するのはレイヴンである。
 その為、アリシアは久しぶりに1人で過ごす夜が続いているのだ。

 
 最近、アリシアとジェーンのお茶会はいつも夜の時間に行われている。
 ジェーンがそうなるように仕向けたからだ。

 忙しくなったレイヴンは夜の時間をアリシアと一緒に過ごすことができなくなった。それなのに昼間の休憩時間もジェーンに取られてしまうと、2人が一緒にいられる時が無くなってしまう。
 それなら昼間は2人で過ごせるようにすればいい。

 ジェーンはアリシアに、しばらくお茶会は夜の時間にして欲しいと頼んだ。
 アリシアは驚いていたけれど、ジェーンが「この機会にカナリー殿下とも仲良くなりたいのです」と言えば、すんなりと信じてくれていた。
 最近は王宮のあちらこちらで王太子夫妻の仲睦まじい姿が目撃されている。


「レオ兄様も最近とても忙しそうにされていますね」

「ええ、そうなの。お兄様は何をされているのかしら」

 アリシアは不思議そうに首を傾げた。
 レオナルドは国王の執務室には呼ばれていない。レイヴンの側近ではあるものの、まだ法の制定に携わる程の立場にはなっていないからだ。
 それなのに漏れ聞こえてくる様子はいつにも増して忙しそうである。



 レオナルドは議会でジェーンを攻撃した者たちの徹底した身辺調査を行っていた。
 だけどそれを知っているのは、レイヴンとアダムだけである。
 
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

処理中です...