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3章

65 待ち時間③

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「確かに、犠牲…なのかもしれません」

 アリシアは沈痛な面持ちでそう言った。

 ジェーンは元々作法が身に着いておらず粗相が多い為、社交界での評判が悪い。
 それに加えて両親が国王から処罰を受け、敷地内で蟄居謹慎となっている。
 ジョッシュとのことも表面上は使節団へ加入する為の婚約解消だが、実際には義妹に寝取られたことによるものなのは周知の事実だ。
 歳も既に21になっていて、アルスタから戻ってからの婚姻となると、結婚する時には早くても22歳になっている。大抵の令嬢が学園卒業直後の19歳で結婚することを思えば嫁き遅れと言われてもおかしくない。
 キャンベル侯爵家の財政が火の車であることも、他の家の情勢に目を配っている者なら当然知っているだろう。
 更に今はレイヴンの情婦だという噂が大々的に流れている。

 それに加えての今回のことである。
 ジェーンの体に痣や傷痕があることは知れ渡っていて、それだけでも敬遠される要因となるのに、それを自ら人前で晒すのだ。
 そこにどんな意図があろうと、人の口に上るのはジェーンの体にある傷痕と人前で肌を晒したというその事実だけである。
 そして一度地に落ちた評判は生涯付き纏う。

 アリシアは大きく溜息を吐いた。
 
 以前レイヴンからこの話を聞いた時は、ノティスにばかり利があるように思える話だった。
 だけど今はジェーンと婚約することでノティスまで醜聞に巻き込まれることになる。

 ノティスは決して日の当たる場所にいる王子ではない。
 それがこれほど評判を落とした令嬢と婚約するとなれば、人々は「国王が・・・ジェーンの働きに報いることを口実に、幽閉した側妃が残した扱いに困る息子を押し付けた」と言うことだろう。
 
 それにジェーンと結婚をすればルトビア公爵家の後ろ盾を得られることは確かだが、ジェーンは女性の継承権が認められることを願っている。
 その願いが叶えば、侯爵位を継ぐのはジェーンだ。
 本来公爵位を与えられるはずのノティスが侯爵位さえ継げなくなることを、国王はどう考えているのだろうか。


「そうね。ジェーン嬢に纏わる様々なことは私にも想像できるわ。そんな状況でノティスを婚約者にすることは、ノティスに犠牲を強いることなのかもしれないわね。だけど、ノティス本人が、それを望んでいたらどうかしら?」

「え?」

「ノティスは少なくともジェーン嬢とレイヴンの噂が間違いであると知っているし、年齢のことも、ノティスと結婚するには1年どころか4年待たなければならないのよ。それを承知で望むのだから織り込み済みでしょう。過去に得た悪評は仕方がないけれど、ジェーン嬢はこれまで作法を身につける為の機会を得られなかっただけで、機会を得たからにはこれから必死で努力をするでしょう。ジェーン嬢が努力を怠らない令嬢だということは、私たちにもわかっているのよ。侯爵家の財政もこれから立て直す為に奮闘するのよね。当面は苦労することになるでしょうけれど、それもノティスは理解しているわ」

「ですが、ジェーンは…」

 言葉に詰まったアリシアはノティスへ視線を動かした。
 ノティスの婚約について話しているのに、まだ一言も言葉を発していない。

「ノティス殿下は、この婚約を望んでおられるのですか?」

 アリシアはノティスへ問い掛けた。


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