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3章

58 夜の思い出※

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 部屋の中に2人の荒い息が響く。
 アリシアの上に圧し掛かってしまわない様に気をつけながら荒い呼吸を繰り返していたレイヴンは、ひと心地がつくとゆっくりとアリシアの中から自身を引き抜いた。

「ぅん…っ」

 抜かれていく感触にアリシアは身をよじるが、瞼がもう落ちかかっている。
 レイヴンはアリシアの体に触れない様に気をつけながら隣で横になると、片肘をついて体を起こし、アリシアの額に掛かった髪を優しく払う。

「レイヴン様…?」

「大丈夫。そのまま眠って良いよ」

 優しく言い聞かせてそのまま髪を撫でていると、襲ってくる眠気に耐え切れずアリシアの瞼が閉じていく。

 今日はアリシアにとって大変な1日だった。
 馴染みのないノティスやカナリーと会い、恐ろしい思いをして、その後も気丈に振る舞い続けたのだ。肉体以上に精神が疲弊しているはずである。

 レイヴンはアリシアの髪を撫で続ける。
 暫くすると穏やかな寝息が聞こえ始めた。

「愛しているよ、アリシア」

 レイヴンはアリシアの額に口づけてから体を起こした。

 一度精を放っただけではレイヴンの昂ぶりは治まっていない。
 アリシアが気がつけば「もう一度」と言っただろう。
 気づかれなくて良かった、とレイヴンは安堵の息をつく。

 だけど体の内に籠る熱はこのままでは治まりそうもない。
 アリシアを抱き締めて眠るのに、我慢できるとはとても思えなかった。

 仕方なくレイヴンは自身に手を伸ばす。
 先程放ったものとアリシアの愛液が混ざったもの、そして新たに零れて来た先走りで濡れている。
 レイヴンはゆるゆると右手を動かした。

「んっ」

 声を出すとアリシアが起きてしまうかもしれない。
 唇を噛んで漏れてしまう声を飲み込む。

 レイヴンが自分で慰めるのは初めてのことではない。
 結婚して2年経つが、夜のことはつい最近まで月に2・3度しかしていなかった。
 
 閨についてアリシアは「レイヴンに求められた時に応えるもの」と思っている。
 だからどんなに間遠でも怒らないし、毎日でも断らない。
 断られないとわかっているのに、少し前のレイヴンは中々言い出せずにいた。
 それなのに毎日同じベッドで寝ているのだから耐えられるはずがない。

 ひっそりと寝室を抜け出したレイヴンは、細心の注意を払って自室に戻り、浴室で自身を慰めた。
 浴室を選んだのは痕跡を流してしまえるからだ。
 
 寝室を整える侍女を通じて2人の閨事情は密かに知られている。
 月に数回しか夜のことが行われず、レイヴンが自分で慰めていると――子種を無駄にしていると知られたら、アリシアがどんなに素晴らしく振舞っていても王太子妃として失格だと言われてしまう。
 だからあれは絶対に知られてはいけないことだった。
 

「……ぅっ」

 刺激を続けていると息が弾む。
 堪えきれない声が漏れてしまう。
 ちらっとアリシアを窺うが、すっかり寝入っているようだ。

「………っ!」

 アリシアの顔を見ていると、屹立に触れる手の感触が蘇ってきてレイヴンは体を震わせた。

 一度だけ、アリシアが触ってくれたことがある。
 与えられた刺激よりも、「アリシアが触れてくれている」ということで、頭の中が沸騰したようになった。
 あのあと数日は事あるごとにあの感触を思い出してしまい、下半身に熱が溜まって大変な思いをしたのだ。
 
 己を扱く手が速くなる。
 自分の手の下に、アリシアの手の感触がする。
 そこだけでなく、あの時アリシアが触れてくれた胸や腹にその手の感触が蘇り、首筋や背中に唇の感触が蘇る。
 背中に押しつけられていた柔らかい胸の感触もする。

 アリシア!アリシアっ!!

 心の中でアリシアの名前を繰り返す。
 扱く速さが増していき、限界に近付いている。

 眠っているアリシアの白い手が見える。
 レイヴンは空いている左手をアリシアの手に伸ばした。
 手に触れると、アリシアがその指をきゅっと握った。
 
「…………っ!」

 気がついたら精を放っていた。
 噛みしめていた唇をほどき、はぁはぁと荒い息を繰り返す。

 アリシアは眠っていて何も気がついていない。
 レイヴンの指を握ったのも無意識のようだ。

 レイヴンはホッとして後始末をしようとするが、左手の指はまだアリシアに握られたままだ。

 折角アリシアが握ってくれているのに外したくない。
 だけどいつまでもこのままでいるわけにもいかない。
 しばらく葛藤した後、そっと指を引き抜いた。


 その後、素早く後始末をしたレイヴンはアリシアの隣で横たわった。
 アリシアの体を清めているとまた下半身に熱が集まってくるのを感じたが、素早く体を動かすことで雑念を追い払っていた。
 眠っているアリシアを抱き締めると、その柔らかい感触に追い払ったはずの熱が戻ってくる。
 レイヴンはその熱に気づかない振りをして、ぎゅっと目をつぶった。

 眠りに落ちるまでには長い時間が必要だった。
 




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