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3章
53 方針の決定②
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「皆、聞いて欲しい」
雑談もひとしきり落ち着いた頃、レイヴンが通る声で呼びかけた。
真剣な声と顔つきに誰もが表情を引き締める。
「今、流れている噂を皆知っていると思う。この噂は僕の軽率な行動が元になっている。不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ない」
レイヴンが言う噂が何についてのことなのか、誰もが理解していた。
自然にアリシアとジェーンへ視線が移る。
「一連の噂に関しては私にも責任があります。学生時代、殿下の想い人が私である、という噂を知っていました。その時点で殿下と距離を取るべきでした。反省しております」
ジェーンが胸に手を当て、頭を下げた。
過去のサンドラと国王のことを知った今では猶更そう思う。
サンドラは、当時王太子だった国王に一方的に想われていたというが、婚約者であるマルグリットに憚り、学園では身を顰めるようにして過ごしていたという。
サンドラとマルグリットは学友だが、それ以上の関係はない。それでもそれだけの気遣いを見せていた。
ジェーンにとってアリシアは大切な従妹である。
大切に思っているし、大切にされている。
それなのにその婚約者と噂されても、事実ではないからと、何もしなかった。
例え学園で1人になったとしても、距離を取るべきだったのだ。
「それなら私にも責任があるわ。そんな噂がたったのは私とレイヴン様の仲が上手くいっていないと思われていたからよ。私がもっとレイヴン様と親密に見えるように振舞えば良かったのよ」
学園に入学する前から、公の場で粗相をするジェーンをアリシアが庇っていることは知られていた。
アリシアとレイヴンが親密な関係を築いていると思われていたなら、レイヴンがジェーンに親切にしていても、婚約者の身内を気遣っているのだと言われただけだろう。
「だったらやっぱりお兄様のせいじゃない」
黙って話を聞いていたカナリーが呆れた顔をする。
「お兄様が早くに謝って、お義姉様に好きだと伝えていればこんなことにならなかったのよ」
カナリーの言葉にレオナルドが笑う。
「カナリー殿下の仰る通りですね。わたしは殿下に、早くアリシアへ気持ちを伝えるようにと忠告していたはずですよ」
確かにレオナルドには、アリシアへ気持ちを伝えるようにと何度も言われていた。
レイヴンはレオナルドからの忠告も聞いていなかったのだから言い返すことができない。
「とはいえ、過去のことを今更悔やんでいても仕方がありません。重要なのはこれからのことです。殿下が話したいのもこれからのことでしょう」
表情を引き締め直したレオナルドにレイヴンが頷いた。
「殿下へは話したことですが、わたしは最近の噂はレイヴン殿下とアリシアの仲を引き裂く目的で流されていると考えています」
「私もそう思うわ。噂の内容に一貫性がないのだもの。レイヴン様とジェーンの仲を騒ぎ立てて、私を怒らせたいのでしょうね」
レイヴンが隣に座るアリシアへ不安そうな顔を向ける。
アリシアはそんなレイヴンにふふっと笑うと、「怒っておりませんわ」と言った。
深く頷いたレオナルドがアリシアへ問いかける。
「それで、アリシアはどうするつもりでいる?」
「私は何もせずに普段通り過ごすつもりよ。それだけでこの噂を流した者たちの目論見を外すことができるもの」
レオナルドはにっこり笑うと満足そうに頷いた。
「全く同意見だよ。誰も何もせずに普段通り過ごすだけでいい。レイヴン殿下はこれまで通りアリシアを寵愛し、アリシアとジェーンはこれまで通り仲の良い従姉妹として過ごす。今度こそ『王太子に寵愛される正妃』と『正妃と仲の良い従姉』になれば良いんだ」
雑談もひとしきり落ち着いた頃、レイヴンが通る声で呼びかけた。
真剣な声と顔つきに誰もが表情を引き締める。
「今、流れている噂を皆知っていると思う。この噂は僕の軽率な行動が元になっている。不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ない」
レイヴンが言う噂が何についてのことなのか、誰もが理解していた。
自然にアリシアとジェーンへ視線が移る。
「一連の噂に関しては私にも責任があります。学生時代、殿下の想い人が私である、という噂を知っていました。その時点で殿下と距離を取るべきでした。反省しております」
ジェーンが胸に手を当て、頭を下げた。
過去のサンドラと国王のことを知った今では猶更そう思う。
サンドラは、当時王太子だった国王に一方的に想われていたというが、婚約者であるマルグリットに憚り、学園では身を顰めるようにして過ごしていたという。
サンドラとマルグリットは学友だが、それ以上の関係はない。それでもそれだけの気遣いを見せていた。
ジェーンにとってアリシアは大切な従妹である。
大切に思っているし、大切にされている。
それなのにその婚約者と噂されても、事実ではないからと、何もしなかった。
例え学園で1人になったとしても、距離を取るべきだったのだ。
「それなら私にも責任があるわ。そんな噂がたったのは私とレイヴン様の仲が上手くいっていないと思われていたからよ。私がもっとレイヴン様と親密に見えるように振舞えば良かったのよ」
学園に入学する前から、公の場で粗相をするジェーンをアリシアが庇っていることは知られていた。
アリシアとレイヴンが親密な関係を築いていると思われていたなら、レイヴンがジェーンに親切にしていても、婚約者の身内を気遣っているのだと言われただけだろう。
「だったらやっぱりお兄様のせいじゃない」
黙って話を聞いていたカナリーが呆れた顔をする。
「お兄様が早くに謝って、お義姉様に好きだと伝えていればこんなことにならなかったのよ」
カナリーの言葉にレオナルドが笑う。
「カナリー殿下の仰る通りですね。わたしは殿下に、早くアリシアへ気持ちを伝えるようにと忠告していたはずですよ」
確かにレオナルドには、アリシアへ気持ちを伝えるようにと何度も言われていた。
レイヴンはレオナルドからの忠告も聞いていなかったのだから言い返すことができない。
「とはいえ、過去のことを今更悔やんでいても仕方がありません。重要なのはこれからのことです。殿下が話したいのもこれからのことでしょう」
表情を引き締め直したレオナルドにレイヴンが頷いた。
「殿下へは話したことですが、わたしは最近の噂はレイヴン殿下とアリシアの仲を引き裂く目的で流されていると考えています」
「私もそう思うわ。噂の内容に一貫性がないのだもの。レイヴン様とジェーンの仲を騒ぎ立てて、私を怒らせたいのでしょうね」
レイヴンが隣に座るアリシアへ不安そうな顔を向ける。
アリシアはそんなレイヴンにふふっと笑うと、「怒っておりませんわ」と言った。
深く頷いたレオナルドがアリシアへ問いかける。
「それで、アリシアはどうするつもりでいる?」
「私は何もせずに普段通り過ごすつもりよ。それだけでこの噂を流した者たちの目論見を外すことができるもの」
レオナルドはにっこり笑うと満足そうに頷いた。
「全く同意見だよ。誰も何もせずに普段通り過ごすだけでいい。レイヴン殿下はこれまで通りアリシアを寵愛し、アリシアとジェーンはこれまで通り仲の良い従姉妹として過ごす。今度こそ『王太子に寵愛される正妃』と『正妃と仲の良い従姉』になれば良いんだ」
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