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3章

52 方針の決定①

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 身なりを整えたアリシアが部屋へ戻ると、既に全員が揃っていた。
 レイヴンは部屋へ入ってきたアリシアを見て固まったように動きを止めていたが、気を取り直すと慌てて立ち上がり、駆け寄ってくる。

「とても美しいよ、アリシア」

 目を細めたレイヴンがアリシアをそっと抱き締めて頬へ口づける。
 そのまま背中へ手をまわし、アリシアを守るようにして部屋の中へと導いた。

「お兄様?」

 ソファに座るレオナルドを見つけたアリシアは驚いた。
 なぜかカナリーも一緒に席についている。

「レオナルドには今日の話を知っていてもらった方が良いと思ったから、僕が呼んだんだ」

 アリシアがいない内に話はついているようで、アリシア以外は既に2人を受け入れている。
 それならばアリシアが拒否することもない。

 レオナルドとジェーンはアリシアを良く知っている。
 来客があるとわかっていながらまだ身支度が済んでいないというアリシアに、何かがあったことは聞かなくてもわかる。
 初めはカナリーを警戒していた2人だが、「私もお義姉様と仲良くなりたいの!」というカナリーの一言で受け入れた。
 2人は結婚して2年経っても少しも婚家に馴染もうとしないアリシアを案じていたのだ。
 何かがあった時は全力でアリシアの味方になるつもりの2人だが、嫁ぎ先は王家である。臣下に過ぎない2人が手を出せない領域が多分にある。
 レイヴンの他にも婚家の中でアリシアの味方ができることを願っていた。


 レイヴンの隣に座るアリシアは、先程のことなどなかった様に笑顔を見せている。
 それはいつもの作られた笑顔だが、カナリーやノティスがいるのだから仕方がない。
 レイヴンもすぐに変わるとは思っていない。マルグリットが言う通り、徐々に心を開いてくれればいいと思う。

 レイヴンはアリシアがこちらの部屋へ戻った時に気まずい思いをするだろうと思っていた。
 だからすぐに傍へ行ってエスコートしようと思っていたのに、アリシアに見惚れてすぐに駆け寄ることができなかったのだ。

 身嗜みを整える為に席を外したアリシアだが、髪型や化粧を直すだけではなく、新しいドレスに着替えていた。
 発色を抑えた朱色のドレスを着ている。
 舞踏会でもない夜に着るには些か相応しくない色味だが、アリシアによく似合っていて美しい。

 そういえば昔、お茶会でジェーンが零した紅茶がアリシアのドレスにかかったことがあった。
 控室に戻り、予備のドレスに着替たアリシアは全く違う装いで戻って来た。
 あの時のドレスも赤色だ。
 赤色はアリシアが己を奮い立たせるための色なのかもしれない。


 集まった者たちは互いの様子を窺いつつ、本題に触れずに雑談に花を咲かせているので、ただのお茶会のようになっている。
 これはこれで良いのかもしれないと、レイヴンは思う。

 アリシアは気心の知れた者たちと一緒に会話をすることで、カナリーやノティスにも柔らかい表情を見せ始めている。
 ジェーンもこれまであまり社交界に出ていなかったが、これからは侯爵家の代表として人脈を広げていかなければならない。評判が悪いジェーンにとって第一王女と懇意というのはプラスに働くだろう。

 マルグリットの元に移ってからは正殿の中で限られた人物としか関わらずに生きて来たノティスも、学園に通う前に家族以外の者との交流を経験しておいた方が良い。
 それを考えてもアリシアとジェーンのお茶会にノティスが参加するのは有効なことなのだ。
 
 このまま5人でアリシアたち4人の様な関係になれたなら。
 カナリーの予定外の訪問の為に予期せぬ会合となってしまったけれど、レイヴンは新たな希望を感じていた。 



 


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