181 / 697
3章
36 母の愛情②
しおりを挟む
「…過ぎてしまったことは仕方がないわ。レイヴンはアリシアとの関係をやり直そうとしているのね?」
「…はい、母上」
「世間の噂を打ち消すのは難しいわ。人が噂を忘れるまで毅然とした姿を見せ続けるしかないの」
マルグリットの言葉には重みがある。
婚姻前、当時王太子だった国王がサンドラを想っていると専らの噂だった。
マルグリットは婚約者なのに愛されていないと陰で嗤われていた。
それでも毅然とした態度を貫き、国王の元へ嫁いだ。
国王もマルグリットを大切にしてくれた。少なくともマルグリットの体面を傷つけるようなことはしなかった。
そうしている内に噂は風化していった。
「あなたはアリシアを大切にしなさい。良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせるのよ。あなたにできるのはそれだけだわ。ジェーン嬢との噂は放っておきなさい。あなたが気にしなければならないのはジェーン嬢ではなくアリシアよ」
ここでマルグリットは、レイヴンの背後にいるノティスへ視線を向けた。
レイヴンはカナリーと話している時からずっと背中にノティスの視線を感じている。
マルグリットはレイヴンへ視線を戻すと、真剣な顔つきで口を開いた。
「一度だけ訊くわ。真実だけを仰いなさい」
「はい」
自然とレイヴンの背筋が伸びる。
「ジェーン嬢を愛しているの?」
「いいえ、ジェーン嬢を愛したことはありません」
「ジェーン嬢と関係を持ったことは?」
レイヴンの顔にカッと血が上る。
だけどそんな疑いをもたれるのも、自分がしてきたことのせいだ。
だからしっかりした声で答える。
「ありません」
「今後ジェーン嬢を身近に置くつもりは?」
「決してありません。ジェーン嬢はアリシアの従姉です。2人は本当に仲が良く、互いを大切に思っています。その関係を邪魔するつもりはありません。ですが、それだけです。僕とは関係がありません。僕の気持ちはアリシアにあります」
「…そう、わかったわ。私はもうアリシアを義娘だと思っているから、晩餐に連れてくるのもここへ来るのも構わないけれど、強引に誘っては駄目よ。あくまでアリシアの気持ちを優先させなさい」
「アリシアの気持ち…ですか?」
「先程の話を聞いていると、アリシアは私たちを家族だとは思っていないでしょう。私たちとの食事はアリシアにとって公務ではないかしら。執務を終えた後、寛げるはずの時間にまた公務を行うのは苦痛でしょう。…思えばずっとそんな態度だったわね」
「公務…ですか」
レイヴンは呆然と呟くが、以前のアリシアを思うとしっくりくる言葉だった。
アリシアはレイヴンとの関りも公務のひとつだと思っていたのだ。
マルグリットの表情が柔和なものに変わる。
「アリシアはあなたにもずっとそんな態度だったでしょう。それが最近は変わってきているのよね。それなら私たちともゆっくりと新しい関係を築いていけばいいわ。決して急いでは駄目よ。あなたはアリシアに、私的なところでは力を抜いて良いのだと伝え続けなさい。アリシアがそれでも見捨てられないのだと、心から信じられるまではね」
「はい、母上。ありがとうございます」
にっこり笑ったマルグリットに見送られて、レイヴンは応接間を後にした。
アリシアの元へ戻る。
ジェーンとの新たな噂を思うと足取りが重くなるけれど、今度こそマルグリットの忠告を守らなければならない。
アリシアと良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせる。
レイヴンが愛しているのはアリシアなのだから。
「…はい、母上」
「世間の噂を打ち消すのは難しいわ。人が噂を忘れるまで毅然とした姿を見せ続けるしかないの」
マルグリットの言葉には重みがある。
婚姻前、当時王太子だった国王がサンドラを想っていると専らの噂だった。
マルグリットは婚約者なのに愛されていないと陰で嗤われていた。
それでも毅然とした態度を貫き、国王の元へ嫁いだ。
国王もマルグリットを大切にしてくれた。少なくともマルグリットの体面を傷つけるようなことはしなかった。
そうしている内に噂は風化していった。
「あなたはアリシアを大切にしなさい。良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせるのよ。あなたにできるのはそれだけだわ。ジェーン嬢との噂は放っておきなさい。あなたが気にしなければならないのはジェーン嬢ではなくアリシアよ」
ここでマルグリットは、レイヴンの背後にいるノティスへ視線を向けた。
レイヴンはカナリーと話している時からずっと背中にノティスの視線を感じている。
マルグリットはレイヴンへ視線を戻すと、真剣な顔つきで口を開いた。
「一度だけ訊くわ。真実だけを仰いなさい」
「はい」
自然とレイヴンの背筋が伸びる。
「ジェーン嬢を愛しているの?」
「いいえ、ジェーン嬢を愛したことはありません」
「ジェーン嬢と関係を持ったことは?」
レイヴンの顔にカッと血が上る。
だけどそんな疑いをもたれるのも、自分がしてきたことのせいだ。
だからしっかりした声で答える。
「ありません」
「今後ジェーン嬢を身近に置くつもりは?」
「決してありません。ジェーン嬢はアリシアの従姉です。2人は本当に仲が良く、互いを大切に思っています。その関係を邪魔するつもりはありません。ですが、それだけです。僕とは関係がありません。僕の気持ちはアリシアにあります」
「…そう、わかったわ。私はもうアリシアを義娘だと思っているから、晩餐に連れてくるのもここへ来るのも構わないけれど、強引に誘っては駄目よ。あくまでアリシアの気持ちを優先させなさい」
「アリシアの気持ち…ですか?」
「先程の話を聞いていると、アリシアは私たちを家族だとは思っていないでしょう。私たちとの食事はアリシアにとって公務ではないかしら。執務を終えた後、寛げるはずの時間にまた公務を行うのは苦痛でしょう。…思えばずっとそんな態度だったわね」
「公務…ですか」
レイヴンは呆然と呟くが、以前のアリシアを思うとしっくりくる言葉だった。
アリシアはレイヴンとの関りも公務のひとつだと思っていたのだ。
マルグリットの表情が柔和なものに変わる。
「アリシアはあなたにもずっとそんな態度だったでしょう。それが最近は変わってきているのよね。それなら私たちともゆっくりと新しい関係を築いていけばいいわ。決して急いでは駄目よ。あなたはアリシアに、私的なところでは力を抜いて良いのだと伝え続けなさい。アリシアがそれでも見捨てられないのだと、心から信じられるまではね」
「はい、母上。ありがとうございます」
にっこり笑ったマルグリットに見送られて、レイヴンは応接間を後にした。
アリシアの元へ戻る。
ジェーンとの新たな噂を思うと足取りが重くなるけれど、今度こそマルグリットの忠告を守らなければならない。
アリシアと良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせる。
レイヴンが愛しているのはアリシアなのだから。
0
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
げに美しきその心
コロンパン
恋愛
健気な令嬢のお話。
伯爵令嬢のシルヴィアは幼き日の約束により、侯爵家のレイフォードと結婚するため、レイフォードの屋敷へと向かう。
ずっと想い続けていたレイフォードに会える喜びで一杯だったが。
思ってもいない事態に。
相手方の男性がかなり不快な感じですが、変わっていくはずですので、長い目でご鑑賞下さい。
溺愛の話に持って行きたいのですが、中々話が進まずうだうだしています。
最後まで頑張りますのでよろしくお願いします。
大体二千から四千程度の文字を目安に書いています。
のんびりとしたペースで申し訳ないです。
沢山のお気に入り登録ありがとうございます。
これを励みに頑張ります!
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~
三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた!
しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様!
一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと!
団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー!
氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる