上 下
169 / 697
3章

24 リトマインのお部屋②

しおりを挟む
 アリシアを抱きかかえたレイヴンは、そのままソファへ座る。
 しばらくそうしているとアリシアの気持ちも落ち着いてきたようだ。

「――取り乱して申し訳ありませんでした」

 腕の中で謝るアリシアに、レイヴンは大きくかぶりを振る。

「誤解させるようなことをした僕が悪いんだ。アリシアは悪くないよ」

 アリシアはレイヴンの胸に頭を寄せ、無意識にレイヴンのシャツを握っている。
 アリシアのこんな縋るような仕草は珍しい。
 それだけ不安にさせてしまったのだと思うと、レイヴンの心が痛んだ。
 愛していると伝えたくて、何度も額や目尻に口づける。

 しばらくすると扉を叩く音がして、部屋の外からエレノアの声がした。
 エレノアはジェーンの訪れを告げている。
 アリシアは今日の休憩時間をジェーンと過ごすことになっているのだ。

「ここに来てもらう?」

 レイヴンが訊くと、アリシアが弾かれた様に体を起こして声を上げた。

「っいえ!あちらへ戻りますっ!!」

「…やっぱりこの部屋は気に入らない?」

 レイヴンの哀しそうな声に、アリシアがはっとしてレイヴンの顔を見る。
 そのまま逡巡するように顔を伏せ、何かを言い掛けて止めた。

「――申し訳ありません。あとでお話致します」

 アリシアは立ち上がり、座ったままのレイヴンを抱き寄せて旋毛に口づけを落とすとそのまま部屋を出て行った。




 その日の夕食はかつてなく気まずいものだった。
 レイヴンは何事もなかったかのように振る舞おうとしているが、落ち込んでいるのがわかる。
 気まずい雰囲気のまま食事を終えた2人は食堂を後にした。

 レイヴンにエスコートされて部屋へ戻りながら、アリシアはレイヴンの顔を窺う。
 最近は夕食の後も一緒に過ごしているが、今日はどうするのだろうか。

 だけどレイヴンに迷いは無いようで、アリシアの部屋の前まで来ると自然にいつもの部屋へと向かう。
 扉を開けようと伸ばされた手をアリシアが止めた。

「――今日はこちらに致しましょう?」

 レイヴンの手に手を重ねたアリシアが、向かいの部屋へ視線を向ける。

「――あの部屋は気に入らないんだろう?」

「そんなことはありません。気に入りました」

 アリシアは微笑んで答えるが、レイヴンの表情は変わらない。
 アリシアの言葉を信じていないようだ。

「あちらの部屋で、先程お話できなかったことを聞いていただきたいのです」
 
 アリシアは重ねた手に力を込める。
 レイヴンは暫くアリシアを見ていたが、やがて向かい側の部屋へと体を向けた。



「先程は申し訳ありませんでした。レイヴン様が私の為にして下さったこと、とても嬉しく思っています」

 それはアリシアの本心だ。
 正直なところリトマインの調度品が揃うことなど考えたこともなかった。
 それをアリシアが望んでいるからと叶えてくれたレイヴンの気持ちを嬉しく思っている。

「ジェーンをこの部屋へ招くことを拒んだのは、この部屋が気に入らないからではありません。そうではなくて…ジェーンには私の望みが叶ったことを知られたくないのです」

 アリシアの言葉にレイヴンの目が見開かれる。

「説明いたしますね」

 そう言ったアリシアは寂し気に微笑んだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

処理中です...