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3章
22 アンジュの様子②
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「随分と迷惑を掛けているのでしょうね」
ダンテの話を聞いたアリシアが溜息をついた。
処罰を受けてもデミオンは変わらないらしい。
「まあ、証言したことで侯爵に恨まれているのはわかっていたことですから。妃殿下が気になさることではありませんよ。ただ侯爵夫人の状態が思いの外…」
「ダンテ殿!それ以上は…っ!!」
ダンテの話をレイヴンが慌てて遮る。
レイヴンには処罰の詳細をアリシアに聞かせるつもりがない。
ダンテもすぐにそのことに気づいたようだ。素直に頭を下げる。
「妃殿下にお話しするようなことではありませんでした。申し訳ありません」
「…あの時のジェーンを見ていますから、アンジュの状態がどんなものかは私にも大体わかりますわ」
アリシアはそう言うが、アンジュの今の状態はかつてのジェーンと随分違っている。
だからこそアリシアには知らせたくないというレイヴンの気持ちがダンテにはわかるのだ。
牢で何があったのか、アンジュは心的外傷を負っているようで人の足音に酷く敏感になっていた。
ダンテが処方する鎮痛剤が効いている内は眠っているが、薬の効果が切れてくると人の足音で飛び起きる。
アンジュが邸に戻った当初は、それまでと同じように主寝室を使っていた。
その部屋の並びにはエミリーやジェーンの部屋もあり、人が部屋の近くを何度も行き来する。
階段を上りきった足音が、廊下を進んでくるとそれだけで震え出す。
その足音が部屋より手前で引き返した時はまだ良いのだが、足音が近づき、部屋の前を通り過ぎる度に悲鳴を上げていた。
そして足音が部屋の前で止まり、扉が開いた時は絶叫して震えながら失禁をする。
ダンテが訪れる度にアンジュは失禁し、慌ててデミオンが着替えさせる。
母親を心配したエミリーが部屋へ様子を見に来た時も、侍女が食事を持ってきたり洗濯物を取りに来た時も、人が訪れる度にアンジュは絶叫して失禁をした。
エミリーは震えながら失禁する母親に呆然としているところをデミオンに怒鳴りつけられている。
数日後、ダンテが侯爵邸を訪れると、侯爵夫妻は使用人棟へ移っていた。
使用人棟の中でも1番端にある日当たりの悪い部屋が夫妻の新しい部屋である。
確かにこの部屋であれば、扉の前まで来るのはここに用事がある者だけになり、アンジュも精神的にずいぶん楽になるだろう。
ベッドサイドに座るデミオンは数日前とは比べ物にならない程疲れた顔をしていた。
アンジュが汚した衣服やシーツを日に何度も洗濯させられるメイドが反発したらしい。
それ以来、アンジュが汚したものの洗濯はデミオンの仕事になった。だけどデミオンは、これまでそんなことをしたことがない。
夜着や下着はともかく、シーツを何度も洗濯するのが堪えたようだ。
それを思えば、主寝室にあるベッドよりこの部屋の簡素なベッドの方がシーツを替えるのも洗うのも楽な訳で、この部屋替えはアンジュにもデミオンにも利点があったということだ。
そんな訳で、デミオンとアンジュは今その使用人部屋で暮らしている。
デミオンとアンジュの境遇を思い出したダンテだが、やはりアリシアは知らなくていいことだと納得した。
「殿下、妃殿下。病院内をご覧になりませんか?」
「ええ、是非見せていただきたいわ」
ダンテの申し出にアリシアが笑顔で頷く。
「ではご一緒にお越しください」
案内に立ったダンテに続いて、レイヴンとアリシアが院長室を出た。
病室では入院している患者たちが王太子妃夫妻の訪問を目を輝かせて喜んでくれる。
病院の慰問は有意義なものとなった。
ダンテの話を聞いたアリシアが溜息をついた。
処罰を受けてもデミオンは変わらないらしい。
「まあ、証言したことで侯爵に恨まれているのはわかっていたことですから。妃殿下が気になさることではありませんよ。ただ侯爵夫人の状態が思いの外…」
「ダンテ殿!それ以上は…っ!!」
ダンテの話をレイヴンが慌てて遮る。
レイヴンには処罰の詳細をアリシアに聞かせるつもりがない。
ダンテもすぐにそのことに気づいたようだ。素直に頭を下げる。
「妃殿下にお話しするようなことではありませんでした。申し訳ありません」
「…あの時のジェーンを見ていますから、アンジュの状態がどんなものかは私にも大体わかりますわ」
アリシアはそう言うが、アンジュの今の状態はかつてのジェーンと随分違っている。
だからこそアリシアには知らせたくないというレイヴンの気持ちがダンテにはわかるのだ。
牢で何があったのか、アンジュは心的外傷を負っているようで人の足音に酷く敏感になっていた。
ダンテが処方する鎮痛剤が効いている内は眠っているが、薬の効果が切れてくると人の足音で飛び起きる。
アンジュが邸に戻った当初は、それまでと同じように主寝室を使っていた。
その部屋の並びにはエミリーやジェーンの部屋もあり、人が部屋の近くを何度も行き来する。
階段を上りきった足音が、廊下を進んでくるとそれだけで震え出す。
その足音が部屋より手前で引き返した時はまだ良いのだが、足音が近づき、部屋の前を通り過ぎる度に悲鳴を上げていた。
そして足音が部屋の前で止まり、扉が開いた時は絶叫して震えながら失禁をする。
ダンテが訪れる度にアンジュは失禁し、慌ててデミオンが着替えさせる。
母親を心配したエミリーが部屋へ様子を見に来た時も、侍女が食事を持ってきたり洗濯物を取りに来た時も、人が訪れる度にアンジュは絶叫して失禁をした。
エミリーは震えながら失禁する母親に呆然としているところをデミオンに怒鳴りつけられている。
数日後、ダンテが侯爵邸を訪れると、侯爵夫妻は使用人棟へ移っていた。
使用人棟の中でも1番端にある日当たりの悪い部屋が夫妻の新しい部屋である。
確かにこの部屋であれば、扉の前まで来るのはここに用事がある者だけになり、アンジュも精神的にずいぶん楽になるだろう。
ベッドサイドに座るデミオンは数日前とは比べ物にならない程疲れた顔をしていた。
アンジュが汚した衣服やシーツを日に何度も洗濯させられるメイドが反発したらしい。
それ以来、アンジュが汚したものの洗濯はデミオンの仕事になった。だけどデミオンは、これまでそんなことをしたことがない。
夜着や下着はともかく、シーツを何度も洗濯するのが堪えたようだ。
それを思えば、主寝室にあるベッドよりこの部屋の簡素なベッドの方がシーツを替えるのも洗うのも楽な訳で、この部屋替えはアンジュにもデミオンにも利点があったということだ。
そんな訳で、デミオンとアンジュは今その使用人部屋で暮らしている。
デミオンとアンジュの境遇を思い出したダンテだが、やはりアリシアは知らなくていいことだと納得した。
「殿下、妃殿下。病院内をご覧になりませんか?」
「ええ、是非見せていただきたいわ」
ダンテの申し出にアリシアが笑顔で頷く。
「ではご一緒にお越しください」
案内に立ったダンテに続いて、レイヴンとアリシアが院長室を出た。
病室では入院している患者たちが王太子妃夫妻の訪問を目を輝かせて喜んでくれる。
病院の慰問は有意義なものとなった。
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