上 下
157 / 697
3章

12 お茶会①

しおりを挟む
 レイヴンの執務室を訪れると、中から従者が扉を開けてくれる。
 部屋に入ったレオナルドは机に向かうレイヴンを見て驚いた。

 レイヴンはレオナルドが入室しても顔を上げることなく一心にペンを走らせている。

 以前のレイヴンは執務時間という概念がないようだった。
 休憩を取ることもなく、朝から夜遅くまで執務室に籠っていることがよくあったのだ。

 それがアリシアと過ごすようになってからはすっかり変わっていた。昼食も休憩時間もきっちり取ってアリシアと一緒に過ごしている。
 以前と比べて仕事量が減ったわけではない。
 アリシアとの時間を1分でも減らしたくないレイヴンが、何が何でも時間通りに仕事を終えようと必死になってこなしているのだ。

 だから脇目もふらずにペンを走らせるレイヴンの姿は珍しいものではないのだが、今は休憩時間である。
 レオナルドは主が不在の部屋に書類だけを置いて戻るつもりだったのだ。

「この時間に殿下がいらっしゃるのは珍しいですね」

 レオナルドが声を掛けると、レイヴンはそこで初めて顔を上げた。
 不服そうな顔をしている。

「今日アリシアはお茶会なんだ」

 アリシアが月に1度、貴族の夫人たちと交流する為に開いているお茶会だ。
 1度だけレヴンも途中参加したことがある。
 突然現れたレイヴンに貴婦人たちは色めき立っていた。
 アリシアは驚いた顔をしていたが、駄目だとも迷惑だとも言わなかった。

 だが色めき立った夫人たちの注目はレイヴンに集まり、皆の視線がレイヴンに集中する。
 結局レイヴンがいる間、アリシアが想定していたような交流会にはならなかった。
 レイヴンが席を立った後も、レイヴンからの寵愛が噂になったばかりだったこともあり、アリシアに向けられたのは噂に関する質問ばかりだったという。

 アリシアの公務の邪魔になっている。
 そう自覚したレイヴンは、どんなにアリシアが恋しくてもお茶会には顔を出さないと決めていた。

 この言葉を聞くまでは。

「ああ、どおりで中央庭園が賑やかだと思いました。今日はご夫妻揃って招待される日ですね」

「――どういうことだ?」

 動きを止めたレイヴンにレオナルドが不思議そうな顔をする。

「年に3度、規模の大きなお茶会を開いているでしょう。毎月の夫人方だけで行われるお茶会とは違って今日は当主や子息も招かれている……はずですよ」

 レオナルドの言葉を最後まで聞くことなく、レイヴンは執務室を飛び出していた。
 中央庭園へ向かって走る。
 普段レイヴンが王宮内を走ることなどない。
 すれ違う者たちが何事かと驚いた顔でレイヴンの後姿を見送った。



「アリシア!!」

 中央庭園へ駆け込んだレイヴンは、アリシアを見つけて大声を出していた。
 アリシアが驚いて振り返る。
 居合わせた者たちが一斉に立ち上がって礼を取るのを無視したレイヴンは、アリシアの傍へ駆け寄り無言で抱き締めた。

「レイヴン様…?」

 アリシアが戸惑ったように名を呼ぶが、レイヴンは応えることができない。

 先程アリシアは同じテーブルに座る男性と楽し気に話していた。
 正しくは楽し気に見える・・・・・・・笑顔で話していた。
 そして男性の隣には夫人が座っている。

 わかっているのにレイヴンは湧き上がる嫉妬心を押さえることができなかった。

 

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)何か勘違いをしてる婚約者の幼馴染から、婚約解消を言い渡されました

泉花ゆき
恋愛
侯爵令嬢のリオンはいずれ爵位を継ぐために、両親から屋敷を一棟譲り受けて勉強と仕事をしている。 その屋敷には、婿になるはずの婚約者、最低限の使用人……そしてなぜか、婚約者の幼馴染であるドルシーという女性も一緒に住んでいる。 病弱な幼馴染を一人にしておけない……というのが、その理由らしい。 婚約者のリュートは何だかんだ言い訳して仕事をせず、いつも幼馴染といちゃついてばかり。 その日もリオンは山積みの仕事を片付けていたが、いきなりドルシーが部屋に入ってきて…… 婚約解消の果てに、出ていけ? 「ああ……リュート様は何も、あなたに言ってなかったんですね」 ここは私の屋敷ですよ。当主になるのも、この私。 そんなに嫌なら、解消じゃなくて……こっちから、婚約破棄させてもらいます。 ※ゆるゆる設定です 小説・恋愛・HOTランキングで1位ありがとうございます Σ(・ω・ノ)ノ 確認が滞るため感想欄一旦〆ます (っ'-')╮=͟͟͞͞ 一言感想も面白ツッコミもありがとうございました( *´艸`)

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

浮気されたからお仕置きするね

ヘロディア
恋愛
フレンドリーな美少女にようやく告白し、成功させた主人公。 しかし、彼女を別の男が…

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...