152 / 697
3章
7 新たな約束①
しおりを挟む
「 桜桃?」
「お兄様が持ってきて下さいましたの」
レイヴンの顔が訝し気なものになり、アリシアは苦笑する。
ジャムはともかく、そのままの桜桃は通常手土産に持参するようなものではない。
レオナルドは「そろそろ違う果物が食べたいんじゃない?」と笑っていた。
処罰が行われた日から既に10日程経っているのに、まだ苺が続いていることをレオナルドは知っているのだ。
「レイヴン様、苺は運んでくるのにお金も時間も掛かります。もう充分いただきましたので、そろそろ違う果物をいただきましょう」
「…そうだね」
アリシアの言葉にレイヴンが目を伏せる。
いつまでも続く苺にアリシアは困惑していたが、レイヴンも止めどころがわからず困っていたのかもしれない。
アリシアとしてはレイヴンの反応を見るのが1番の目的だった我儘だが、初めてのことだけに言う方も叶える方も終わらせ方に苦慮していたということだ。
アリシアとレイヴンは顔を見合わせて苦笑した。
「お兄様に伺ったのですが、ジェーンの庭園を公爵家が買い取ったそうですわ」
「あの庭園を?」
「侯爵家は財政難ですから」
レイヴンは驚いた顔を見せるが、アリシアがそういうと納得したように頷いた。
「レイヴン様は公爵家の庭園を散歩したいと仰っていましたけれど、叶いましたわね」
「え?」
「あの庭園が公爵家のものになりましたもの」
アリシアがふふっと笑う。
アリシアが言いたいことを理解したレイヴンは顔を曇らせた。
アリシアもレイヴンが望んでいることとは違っているとわかっているが、既に嫁いだアリシアやレイヴンが公爵邸を訪れるのは難しい。
王太子夫妻が1つの家と懇意にしすぎれば痛くもない腹を探られることになる。
だからこそ、婚約者であった時にしか叶えられないことだったのだ。
今はこれで堪えてもらうしかない。
レイヴンもそれがわかっているので渋々頷いた。
「公爵邸には行けないけど、ここの庭園は一緒に散歩してくれる?」
最近は新しくなった庭園を一緒に散歩するのが日課になっている。
レイヴンに手を取られたアリシアは微笑んで頷いた。
王太子夫妻の居住区であり、アリシアやレイヴンの部屋に沿って作られたこの庭園に入ってくる者はほとんどいない。
人目のある所では通常のエスコートをされているが、この庭園では手を繋いで歩く。
キャンベル侯爵邸で初めて手を握られた時は驚いたが、レイヴンはこの指と指を絡ませる手の繋ぎ方が気に入っているようだ。
いつも他愛もない会話を交わしながら歩いている。
社交界で様々な憶測を呼んだレイヴンの寵愛だが、最近では本物だと認められてきている。
ジェーンの懐妊疑惑も、ジェーンの使節団加入が公示され、ジョッシュとの婚約解消、キャンベル侯爵夫妻への処罰などが知られるにつれて間違いだったと認識されているようだ。
ただあの時も馬車は王太子宮の居住区まで入ってきていたし、診察も居住区の中で行われている。
懐妊疑惑を知っていたのは王太子宮で働いている者たちだけのはずだった。
それなのに次の日には社交界で広まっていた。
この王太子宮での出来事を外に漏らしている者がいるということだ。
ただそれは予想していたことでもある。
王太子妃夫妻の仲や世継ぎについては最大の関心事だ。
貴族は様々なつてを使って王太子宮での出来事を探っているのだ。
「お兄様が持ってきて下さいましたの」
レイヴンの顔が訝し気なものになり、アリシアは苦笑する。
ジャムはともかく、そのままの桜桃は通常手土産に持参するようなものではない。
レオナルドは「そろそろ違う果物が食べたいんじゃない?」と笑っていた。
処罰が行われた日から既に10日程経っているのに、まだ苺が続いていることをレオナルドは知っているのだ。
「レイヴン様、苺は運んでくるのにお金も時間も掛かります。もう充分いただきましたので、そろそろ違う果物をいただきましょう」
「…そうだね」
アリシアの言葉にレイヴンが目を伏せる。
いつまでも続く苺にアリシアは困惑していたが、レイヴンも止めどころがわからず困っていたのかもしれない。
アリシアとしてはレイヴンの反応を見るのが1番の目的だった我儘だが、初めてのことだけに言う方も叶える方も終わらせ方に苦慮していたということだ。
アリシアとレイヴンは顔を見合わせて苦笑した。
「お兄様に伺ったのですが、ジェーンの庭園を公爵家が買い取ったそうですわ」
「あの庭園を?」
「侯爵家は財政難ですから」
レイヴンは驚いた顔を見せるが、アリシアがそういうと納得したように頷いた。
「レイヴン様は公爵家の庭園を散歩したいと仰っていましたけれど、叶いましたわね」
「え?」
「あの庭園が公爵家のものになりましたもの」
アリシアがふふっと笑う。
アリシアが言いたいことを理解したレイヴンは顔を曇らせた。
アリシアもレイヴンが望んでいることとは違っているとわかっているが、既に嫁いだアリシアやレイヴンが公爵邸を訪れるのは難しい。
王太子夫妻が1つの家と懇意にしすぎれば痛くもない腹を探られることになる。
だからこそ、婚約者であった時にしか叶えられないことだったのだ。
今はこれで堪えてもらうしかない。
レイヴンもそれがわかっているので渋々頷いた。
「公爵邸には行けないけど、ここの庭園は一緒に散歩してくれる?」
最近は新しくなった庭園を一緒に散歩するのが日課になっている。
レイヴンに手を取られたアリシアは微笑んで頷いた。
王太子夫妻の居住区であり、アリシアやレイヴンの部屋に沿って作られたこの庭園に入ってくる者はほとんどいない。
人目のある所では通常のエスコートをされているが、この庭園では手を繋いで歩く。
キャンベル侯爵邸で初めて手を握られた時は驚いたが、レイヴンはこの指と指を絡ませる手の繋ぎ方が気に入っているようだ。
いつも他愛もない会話を交わしながら歩いている。
社交界で様々な憶測を呼んだレイヴンの寵愛だが、最近では本物だと認められてきている。
ジェーンの懐妊疑惑も、ジェーンの使節団加入が公示され、ジョッシュとの婚約解消、キャンベル侯爵夫妻への処罰などが知られるにつれて間違いだったと認識されているようだ。
ただあの時も馬車は王太子宮の居住区まで入ってきていたし、診察も居住区の中で行われている。
懐妊疑惑を知っていたのは王太子宮で働いている者たちだけのはずだった。
それなのに次の日には社交界で広まっていた。
この王太子宮での出来事を外に漏らしている者がいるということだ。
ただそれは予想していたことでもある。
王太子妃夫妻の仲や世継ぎについては最大の関心事だ。
貴族は様々なつてを使って王太子宮での出来事を探っているのだ。
0
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる