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2章

114 それぞれの明日

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 カルヴィエ伯爵たちが退出した後も決めるべきことが数点残っている。
 その最たるものが侯爵領主の代行権を委譲する人物で、ジェーンはそこでロバートを指名した。
 話は通っていたようで、ロバートがその場で承諾する。
 商会のトップとしての仕事は組織内の信頼できる人物へ既に委任してきているという。
 ロバートがここ数日忙しくしていたのはこの為だったのだ。

 ロバートは優秀な人物ではあるがこれまで領地経営に携わったことが無い為、アダムが後見につくようにと指名を受けた。アダムは引き続きジェーンの後見もすることになっている。
 キャンベル侯爵領のロバートの元へ、ルトビア公爵家から領地経営に詳しい人物が派遣されることになった。
 ロバートなら実地で学びながら必要な知識をすぐに身に着けてしまうだろう。
 
 ロバートは侯爵領の再生を図りながらデミオンとアンジュの監視もすることになる。

 国王からロバートへ子爵位の叙爵があった。
 驚いたロバートは辞退しようとするが、国王は譲らない。

 ロバートはジェーンの従兄だがキャンベル侯爵家とは縁がない。
 代行権を委譲されているとはいえ、領地の者たちが突然現れた無縁の男の指示を素直に聞くとは思えない。反発する者もいるだろう。その男が無位無官なら猶更だ。
 だから国王は、仕事がしやすい様にと子爵位を与えることにした。

 だけどそれは建前でもある。

 ロバートの優秀さは学園に在籍していた時から有名である。
 貴族院の議員たちが手ぐすね引いて待っていたのだ。
 当時はロバートにその気がなかった為実現しなかったが、今度こそ取り込みたいという気持ちがある。
 同時に商会の仕事で外国にいることが多いロバートが、アナトリアを捨てて外国に定住してしまうことを恐れてもいた。
 爵位を授けてアナトリアの貴族とすることで、優秀な人物が他国へ流れてしまうのを防ぎたいのだ。

 叙爵というのは通常、功績を立てた者に対して行われる。
 今回はこれから立てられる功績を見越しての叙爵ということだ。
 当然面白くないと思う者もいるだろう。そんな者たちは引きずり降ろす為の失敗を待っている。少しの油断もできない。

 ロバートはそれらのことをすべて飲み込んだ上で最終的に爵位を受けた。

 ジェーンは先程の王命で正式に使節団への加入が決まった。
 研修には明日から参加することになる。
 このままキャンベル侯爵邸へは戻らず、研修が行われている離宮へ移ることになった。

 今身に着けている家宝の首飾りは離宮へ持っていくには高価すぎる。
 また、家主となったジェーンがいない侯爵邸に置いておくのも不適切であるとして、正式にルトビア公爵家で預かることになった。国王も認めた決定として書記官が記録した。

 以上のことを決めたところで国王が散会を告げた。
 後は各々で対応を詰めることになる。

 ロバートは今後1年を通してキャンベル侯爵領を飛び回ることになるので王都に出て来る余裕はないだろう。
 アリシアは当分会えないであろう従兄と抱き合って暫しの別れを惜しんだ。

 いつの間にか外はすっかり暗くなっているが、従兄妹たちはこれからまだ忙しい。
 アリシアはレイヴンと部屋へ戻ることにする。

 エスコートの為に差し出された腕に、アリシアはいつもとは違う気持ちで腕を掛けた。





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