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2章

105 思い描いた未来①

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「デミオン殿はあなたたちが望むことを何でも許してきたわね。あなたたちはやりたいことをすべてやって、やりたくないことは何もしなくて良かった。だからあなたたちはサンドラ殿が遺したものをすべて捨てて、ジェーンの持ち物を欲しいだけ奪い、ジェーンを殴ってジェーンの婚約者を寝取ったのよ。だけどその結果、あなたたちはどうなったかしら?」

 アリシアは答えを待つが、2人は何も答えない。

「エミリーはジョッシュ殿と結ばれるのだもの。きっと望み通りね。だけどこの結婚を祝福する人は少数でしょう。皆から後ろ指をさされるような、後ろめたい暮らしが望みだったのかしら。社交界では既にあなたは義姉の婚約者を寝取ったふしだらな女だと評判になっているのよ。貴族社会では貞節が重んじられるの。あなたは義姉の婚約者と関係を結ぶような女だと社交界の笑い者よ。だけどデミオン殿はそうなる前にあなたを止められたはずよね?」

「…え?」

 エミリーの口から小さな呟きが漏れた。

「そしてアンジュ殿。アンジュ殿が好き勝手してきた結果は言わなくてもわかってるわね。社交界で爪弾きにされている現状に気がついているでしょう。それにあなたがジェーンに暴力を振るっていたことは既に公爵家に知られているのよ。それを見逃す為の条件を知らないのかしら。『ジェーンに二度と暴力を振るわないこと』。デミオン殿は知っているのに、なぜあなたを止めなかったの?私たちに知られたらどうなるのかわかりきっているのに。その結果あなたは鞭打ち刑と生涯幽閉よ。これがあなたの望んだ未来だったのかしら?」

 アンジュはぎりぎりと歯を噛みしめていた。

 アンジュが思い描いていた未来は違う。
 アンジュはただデミオンと一緒にいたかった。
 好きな人と結ばれて幸せになりたかっただけだ。
 そこに余計な女が――サンドラが現れたのだ。

「恐れながら妃殿下!確かに2人は罪を犯しました。妃殿下がお怒りになるのもわかります。ですがそれが、わたしが2人を愛していないせいだというのはあんまりです!」

 デミオンが憤慨した様子で抗議するのを、アリシアは冷淡に見下ろした。

「ではあなたは何故サンドラ殿と結婚したのです?」

「そ、それは…。アンジュを、幸せにする為です」

「なんですって?」

 マルグリットが剣呑な声で呟くが、ここは気づかないふりをさせていただく。

「つまりはアンジュ殿と裕福な暮らしをする為に、サンドラ殿と結婚したということね」

 デミオンがサンドラと結婚したのは、アンジュに贅沢な暮らしをさせる為だった。
 その為にキャンベル侯爵の地位と財産が必要だった。
 わかっていたことだが最悪だ。
 サンドラのことなど一欠けらも考えていない。

 だけど今はそれよりも。

「つまりあなたからのアンジュ殿への愛は、他の女と結婚し、他の女を抱いて子どもを作ることだったのね」

「違う!!」

 デミオンが弾かれたように叫ぶ。

「何が違うのよ?入り婿に課せられた最大の責務は跡取りを作ることよ。ジョッシュ殿、そうよね?」

 アリシアが呼び掛けるとジョッシュは小さいながらもはっきりした声で「はい」と答えた。
 ジョッシュでさえジェーンと子どもを作るつもりはあったのだ。

「あなたは実際そうしてるじゃない」

 デミオンはサンドラと結婚し、ジェーンが生まれている。

「アンジュ殿、あなたが望んだ愛はこんなものだったの?デミオン殿が他の女の入り婿になり、その家の財産で贅沢な暮らしをするのが望みだったのかしら」

「いいえ、違うわ!!」

 アンジュは髪を振り乱し、大きな声を上げた。




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