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2章

103 アリシアの我儘①

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「アリシア、大丈夫?」

 国王が2人への処罰を告げた後、レイヴンが心配そうにアリシアの顔を窺っていた。
 これを終えると、アリシアがデミオンから受けた暴行は生涯見逃されることになる。

「陛下、少し彼らと話をしてもよろしいでしょうか」

 アリシアの願いに国王が頷く。
 生涯幽閉される2人とアリシアが今後会うことは二度とない。
 アリシアへの暴行は見逃されたが、これからする話が2人にとって最も重い罰になるだろうとアリシアは考えていた。

「アンジュ殿、そしてエミリーに聞いていただきたいことがあるのです。それは私がここ最近考えていたこと…。私は先ほどデミオン殿がエミリーを愛していないのだと言いましたが、デミオン殿はアンジュ殿のことも愛していないと思うのです」

「何?」

 アリシアの言葉に、流石の国王も目を丸くしている。
 突拍子もない考えだとアリシアも思う。
 だけどそう考えるとすべてがしっくりくるのだ。

「ねえ、アンジュ殿。私最近、あなたやエミリーの真似をして、レイヴン様に我儘を言ってみましたの」

 怪訝な顔をする人たちを気にすることなく、アリシアはにっこり笑ってアンジュに話し掛ける。

「レイヴン様は何でも言うことを聞いて下さったわ」

 今日のこの場に相応しいドレスが欲しいと言ってみた。
 そうしたら紫色のドレスが用意されていた。
 王族だけが身につけることを許された色。
 アリシアが着るのはこれが初めてだ。
 そして国王や王妃にも根回しをしてくれていた。

 旬の季節が少し過ぎた苺が食べたいと言ってみた。
 王都ではもう質の良いものは手に入らない。だから王宮で苺が使われることはない。
 だけど南へ行けば今が旬の地域もある。
 アリシアが「苺が食べたい」と口にしたのは一昨日の夕方だった。
 昨日のお茶の時間には、苺を使ったケーキが出された。
 夕食時のデザートは苺のムースで、夕食後にレイヴンとお茶を飲む時は生の苺が一緒だった。
 今日も朝食後に苺を食べた。
 一体どれだけ取り寄せたのかと思うと恐ろしい。

 部屋のバルコニーから見える庭園に、もっと違う色味が欲しいと言ってみた。
 今、庭師たちが必死に花の移し替えをしている。
 庭園の半面の花を入れ替えるつもりのようで大掛かりな作業になっていた。
 更にはこの作業を明日の朝食の時間までに終えるよう言われているのだろう。
 バルコニーから庭園を眺めながら朝食を摂るのが最近の習慣だ。
 ……必死で作業をする庭師たちを見ていると、申し訳なくなってしまった。

「でもね、使節団の研修に参加するのは駄目なのですって」

 アリシアがうふっと笑う。

「ジェーンが1人で研修に参加するなんて可哀想でしょう。1人だけ遅れて参加するなんて、きっと疎外感を味わうわ。それに他の団員たちは、我儘ばかりで真面目に研修を受けないエミリーに怒っているわ。それなのにエミリーの義姉が参加するなんて、初めから反感を持たれるに決まっているもの」

 だからアリシアが付き添いたいと言ったのだ。
 アリシアが傍にいれば、ジェーンを悪く言う者なんて現れない。
 これまでと同じようにアリシアがジェーンを守るのだ。

「でもね、それは駄目だと仰るの」
 
 一度駄目だと言われた後も、アリシアは何度も言ってみた。
「ジェーンが可哀想ですわ。私、ジェーンをそんな目に合わせたくありません」
 だけどレイヴンは、困ったようにこう言うのだ。
「それは駄目だよ、アリシア。部外者が参加することはできないんだ。それが規則だから、変えられないんだよ」

 結局何度お願いしてみても、レイヴンはアリシアを抱き締めて「ごめんね」と繰り返すばかりで了承してもらえなかった。

「これがどういうことかわかるかしら?これは私がとても愛されているということよ」
 
 そう言うとアリシアはまた、にっこりと笑った。




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