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2章
98 疑問と答え②
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「――私、ずっと疑問だったの。ジェーンとジョッシュ殿が結婚した後も白い結婚を続けるように仕向け、その間にあなたとの間に子どもを作って、その子どもを侯爵家の跡取りにする。そのことにはすぐに気がついたわ。だけどそんなことをしてどうするの?私は王太子妃なのよ?」
それをこのドレスは如実に表している。
アリシアが厳しい視線をデミオンへ向けた。
「知っているでしょう?私はジェーンを大切にしているの。ジェーンを苦しめるあなたやジョッシュ殿を、私は絶対に許さないわ。私が開くお茶会やサロンには、絶対にあなたを招かない。私が招くのは正妻であるジェーンだけよ。ジョッシュ殿があなたをパートナーにするのも許さないわ。侯爵家へ送る招待状には、必ず夫人を同伴するよう書いて送るもの。そうすれば、あなたが私に嫌われていることや、あなたを愛人にしているジョッシュ殿を不愉快に思っていることは、すぐに知れ渡るわ。王太子妃に嫌われたあなたやジョッシュ殿はどうなると思う?王太子妃を敵に回してまで、あなたたちと付き合いたいと思う貴族がいるかしら?」
それは祖母が使った手だ。
ルトビア前公爵夫人である祖母は、アンジュを社交界から締め出すよう誰かに指示をしたことはない。
だけど祖母はジェーンを大切にしていることを公に示し、アンジュがジェーンを不当に扱っていること、それを不愉快に思っていることを言外に匂わせていた。
祖母に取り入りたい貴族たちは、こぞってアンジュと縁を切った。
祖母が亡くなった今もその威力は続いている。
現公爵夫人のオレリアが、祖母の意志を引き継いでいると知っているからだ。
侯爵夫人でありながら、アンジュが高位貴族の集まりに招かれることはない。
アンジュがお茶会を開いても、参加するのは下位貴族の者だけだ。
それでさえ財力に余裕があり、他の高位貴族と有力な関係を築いている家の者からはそっぽを向かれている。
「あなたたちは社交界で孤立するわ。あなたたちの子どももね」
このことを考えたのは、一昨日の昼食の後だ。
あの日の午前中は、これまで考えたこともないようなことばかり思い浮かんで少しも仕事にならなかった。
これではいけないと思ったアリシアは、違うことを考えることにした。
――愛に関係がないことであれば、少しも仕事に影響することはなかった。
「それで気がついたのよ。デミオン殿は、あなたやあなたが生むはずの子どものことを少しも考えていないわ。それはあなたもあなたの子どもも、どうでもいいからよ」
「そんな…嘘よ…」
エミリーからはもう呟きしか出てこない。
「はっきり言うわね。あなたはジョッシュ殿と結婚をする。これはジョッシュ殿が言った通り王命だから、あなたたちに拒否することはできないわ。それがジェーンを裏切ったあなたたちへの罰よ。…だけど、あなたにはこれが一番良い道だとも思うわ。ジェーンがジョッシュ殿と結婚することはもう絶対にないから、あなたがジョッシュ殿の愛人となることもないけれど、このまま侯爵邸にいたら、これから選ばれるジェーンの新しい婚約者の愛人にされるわよ?あなたが貞節を失ったことは社交界で有名だから、他の貴族の正妻に望まれることもないわね。選ばれるとしたらうんと年上の相手の後妻か、酷く評判が悪くて他に選択肢がない相手だけね。それならば爵位が無くてもジョッシュ殿と結婚した方が良いんじゃないかしら?」
「だから登城差止めの解除なのか」
国王が納得したように呟いた。
「はい。今は爵位がありませんが、これからの働きによって叙爵されることはあり得ます。例えばジョッシュ殿が次の使節団に参加するのも良いでしょう。貴族の子弟であれば家を離れていても応募する権利は持っています。1年間使節団として職務を果たせば子爵位を賜ることができるのですから」
アリシアはこれまでエミリーが大嫌いだった。
だけどエミリーも、デミオンに踊らされていただけだ。
元々エミリーとジョッシュは犯罪を犯したわけではない。不道徳ではあるものの、不貞は犯罪ではない。
侯爵家簒奪の企みも2人は知らなかった。
これが従姉として示せる最大限の温情だろう。
それをこのドレスは如実に表している。
アリシアが厳しい視線をデミオンへ向けた。
「知っているでしょう?私はジェーンを大切にしているの。ジェーンを苦しめるあなたやジョッシュ殿を、私は絶対に許さないわ。私が開くお茶会やサロンには、絶対にあなたを招かない。私が招くのは正妻であるジェーンだけよ。ジョッシュ殿があなたをパートナーにするのも許さないわ。侯爵家へ送る招待状には、必ず夫人を同伴するよう書いて送るもの。そうすれば、あなたが私に嫌われていることや、あなたを愛人にしているジョッシュ殿を不愉快に思っていることは、すぐに知れ渡るわ。王太子妃に嫌われたあなたやジョッシュ殿はどうなると思う?王太子妃を敵に回してまで、あなたたちと付き合いたいと思う貴族がいるかしら?」
それは祖母が使った手だ。
ルトビア前公爵夫人である祖母は、アンジュを社交界から締め出すよう誰かに指示をしたことはない。
だけど祖母はジェーンを大切にしていることを公に示し、アンジュがジェーンを不当に扱っていること、それを不愉快に思っていることを言外に匂わせていた。
祖母に取り入りたい貴族たちは、こぞってアンジュと縁を切った。
祖母が亡くなった今もその威力は続いている。
現公爵夫人のオレリアが、祖母の意志を引き継いでいると知っているからだ。
侯爵夫人でありながら、アンジュが高位貴族の集まりに招かれることはない。
アンジュがお茶会を開いても、参加するのは下位貴族の者だけだ。
それでさえ財力に余裕があり、他の高位貴族と有力な関係を築いている家の者からはそっぽを向かれている。
「あなたたちは社交界で孤立するわ。あなたたちの子どももね」
このことを考えたのは、一昨日の昼食の後だ。
あの日の午前中は、これまで考えたこともないようなことばかり思い浮かんで少しも仕事にならなかった。
これではいけないと思ったアリシアは、違うことを考えることにした。
――愛に関係がないことであれば、少しも仕事に影響することはなかった。
「それで気がついたのよ。デミオン殿は、あなたやあなたが生むはずの子どものことを少しも考えていないわ。それはあなたもあなたの子どもも、どうでもいいからよ」
「そんな…嘘よ…」
エミリーからはもう呟きしか出てこない。
「はっきり言うわね。あなたはジョッシュ殿と結婚をする。これはジョッシュ殿が言った通り王命だから、あなたたちに拒否することはできないわ。それがジェーンを裏切ったあなたたちへの罰よ。…だけど、あなたにはこれが一番良い道だとも思うわ。ジェーンがジョッシュ殿と結婚することはもう絶対にないから、あなたがジョッシュ殿の愛人となることもないけれど、このまま侯爵邸にいたら、これから選ばれるジェーンの新しい婚約者の愛人にされるわよ?あなたが貞節を失ったことは社交界で有名だから、他の貴族の正妻に望まれることもないわね。選ばれるとしたらうんと年上の相手の後妻か、酷く評判が悪くて他に選択肢がない相手だけね。それならば爵位が無くてもジョッシュ殿と結婚した方が良いんじゃないかしら?」
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国王が納得したように呟いた。
「はい。今は爵位がありませんが、これからの働きによって叙爵されることはあり得ます。例えばジョッシュ殿が次の使節団に参加するのも良いでしょう。貴族の子弟であれば家を離れていても応募する権利は持っています。1年間使節団として職務を果たせば子爵位を賜ることができるのですから」
アリシアはこれまでエミリーが大嫌いだった。
だけどエミリーも、デミオンに踊らされていただけだ。
元々エミリーとジョッシュは犯罪を犯したわけではない。不道徳ではあるものの、不貞は犯罪ではない。
侯爵家簒奪の企みも2人は知らなかった。
これが従姉として示せる最大限の温情だろう。
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