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2章

96 婚約の解消と新たな婚約③

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 アリシアは視線をジョッシュへ向ける、

「夫君となるのだから、あなたが教えてあげたら?」

「はい。妃殿下」

 青褪めてはいるものの、ジョッシュはしっかりとした視線でアリシアに答える。
 先日侯爵邸で会った時とは別人のようだ。
 覚悟が決まったということなのか。

 ジョッシュがエミリーの方へ視線を向けた。
 今日ジョッシュの視線がエミリーへ向けられたのはこれが初めてだ。

「僕はカルヴィエ伯爵家の三男だ。伯爵家は長兄が跡を継ぐ。これはわかるね?」

 エミリーが頷いた。
 見届けて、ジョッシュが話を続ける。

「エミリーはキャンベル侯爵家の次女だ。この国では爵位を持つ家に娘しかいない場合、長女が婿を取り、その婿が爵位を継ぐことと法律で決まっている。キャンベル侯爵家でいえば、ジェーン嬢の夫が次のキャンベル侯爵となる。次女である君が結婚しても継承権に関わることはない。これもわかるかな?」

 ジョッシュは噛んで含めるように説明しているが、この国では子どもでも知っていることだ。
 物心がついた頃に教えられ、自分の立場を自覚する。

「えっと、それじゃあ…」

「僕はジェーン嬢と結婚するから次期キャンベル侯爵だった。君と結婚するなら侯爵家を継ぐことはできない。つまり僕にも君にも継げる爵位がない。爵位がない僕たちは結婚をしたら家を出て平民と同じ扱いになる」

「ええ?!」

「お父上が反対した理由が理解できたかな?但し、これは王命だから僕たちに拒否することはできない」

 きっぱりと言い切ったジョッシュをアリシアは少し見直した。
 反対にエミリーは納得できないようでぶるぶると震えている。

「そんなの嘘よ!!だってお父様は、いつもジョッシュ様にはお義姉様より私の方が相応しいと仰っていたわ!!結婚して爵位がなくなるなら、そんなこと言うわけないじゃない!!」

「それはあなたをジョッシュ殿の愛人にする為よ。結婚をするのはあくまでジェーンとジョッシュ殿。あなたに望んだのは愛人になることよ」

「そんなわけないじゃないっ!!!」

 サンドラが死ぬまで愛人の子として育ったエミリーは、「愛人」という言葉に抵抗があるようだ、
 アリシアへ向かって全身に力を込めて叫んでいる。
 思わずアリシアを背に庇おうとするレイヴンを、アリシアは手で止めた。

「あなたの両親はね。あなたをジョッシュ殿の愛人にしようとしていたの。2人はジェーンとジョッシュ殿が結婚しても、2人が白い結婚を続けるように仕向ける。その間にあなたがジョッシュ殿の子どもを生む。ジェーンとジョッシュ殿の間に子は生まれないから、あなたの生んだ子が跡取りとなる。2人が狙っていたのはそれよ」

「申し訳ありません、父上、母上。僕は知らぬ間にとんでもないことに加担させられるところでした」

 ジョッシュがカルヴィエ伯爵夫妻に向かって頭を下げた。
 訳も分からず成り行きを見守っていた伯爵夫妻は、アリシアの言葉に顔を青褪めさせている。
 エミリーがキャンベル侯爵家の血筋ではないことは誰でも知っている事実だ。

 夫婦の間に子どもが生まれず、やむを得ず養子をとることはある。
 愛人の生んだ子を跡取りとすることもある。
 だけどそれを初めから狙っているというのは、貴族として血筋を重んじる教育を受けてきた伯爵夫妻にとって、到底受け入れられないことだった。




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