119 / 697
2章
89 新しい始まり③
しおりを挟む
体中に痣があるジェーンはコルセットをつけられない。
コルセットは侍女が後ろからきつく締め上げてつけるものだ。そうするとコルセットが押し付けられた部分の鬱血が酷くなってしまう。
今回は暴力を受けていた期間が約ひと月と前回に比べて短かったことと、挙式準備を理由に邸に引き籠っていたのでほとんどコルセットをつけずに過ごすことが出来ていた。
だから前回ほど胸や背中、腹部の鬱血は酷くない。
ジョッシュとの初夜の為に、少しでもマシになるようにと努めた結果とも言える。
マルグリットは、王宮で過ごす間も怪我が治るまではコルセットをつける必要はないと思っていた。きちんとした理由があることなのだから、咎めるつもりはない。
だけど使節団の研修には礼儀作法やダンスの時間があるのだ。
礼儀作法やダンスの授業を楽なワンピースで受けても意味がない。
また、使節団のほとんどは男性だ。
成人した女性が家族でもない男性の中でラフな姿を続けるのも問題である。
野卑な目で見る者もいれば、身嗜みが悪いと嫌悪感を示す者もいるだろう。
「はい。研修にはきちんとした服装で参加致します。以前はそうしてお茶会にも参加していました」
ジェーンはそれが必要なことである以上、コルセットを付けることを厭わない。
結果として怪我の治りが遅くなっても仕方のないことだと思っている。
だけどマルグリットは絶対に駄目だと言った。
「怪我を治すのが何より大切なことよ。それに怪我をした状態で礼儀作法やダンスを習っても意味がないでしょう」
以前のジェーンが粗相の多い令嬢だと言われていたのは、怪我をしていたからだ。
アリシアたちは何も説明していないのに、時期などを考えて思い当ったのだろう。
物を落とすのは、腕が痛くて力を入れられないから。
何もないところで躓くのは、足が痛くて足をあまり上げられないから。
重心がおかしいのも、姿勢が悪いのも、痛む箇所を無意識に庇っていたせいだ。
そんな状態でレッスンを受けても正しいものは身につかない。
マルグリットの中にはジェーンの境遇への同情や、助けたいという気持ちがある。
だけど使節団の一員となる以上、国の代表として恥ずかしくない所作を身につけてもらわなければならないのだ。
「あなたには酷なことかもしれないけれど、研修を行っている講師たちにあなたの診断書を見せようと思っているの。講師たちには怪我の状態を正確に知ってもらう為よ。そして礼儀作法やダンスの授業は怪我が治ってから集中的に受けられるよう別メニューを組んでもらうわ。それまでは他の人たちが礼儀作法やダンスの授業を受けている間に語学や歴史などの座学を進めるようにしましょう」
「…そんなことが可能なのですか。可能なのであればとても有難いことですわ」
「…あなたは辛い思いをするかもしれないわ。講師や団員たちは、研修の進行を妨げていたあなたの義妹に嫌悪感を持っているし、1人だけ途中からの参加よ。更には別メニューを組んでの特別な扱いになるわ。他の団員たちから悪い感情を向けられる可能性が高いと思うの」
「私なら平気ですわ」
ジェーンを思い、暗い表情を見せるマルグリットに、ジェーンは微笑んだ。
「私はずっと理不尽に向けられる悪意の中で暮らしていました。それに比べれば、悪意を向けられても納得ができる理由です。理由がわかっていれば認めて頂けるよう頑張れますわ。皆様に受け入れて頂けるよう懸命に努めます」
ジェーンの答えにマルグリットの表情が満足そうなものに変わった。
境遇への同情やサンドラへの思いだけではなく、ジェーン自身を気に入ったようだ。
コルセットは侍女が後ろからきつく締め上げてつけるものだ。そうするとコルセットが押し付けられた部分の鬱血が酷くなってしまう。
今回は暴力を受けていた期間が約ひと月と前回に比べて短かったことと、挙式準備を理由に邸に引き籠っていたのでほとんどコルセットをつけずに過ごすことが出来ていた。
だから前回ほど胸や背中、腹部の鬱血は酷くない。
ジョッシュとの初夜の為に、少しでもマシになるようにと努めた結果とも言える。
マルグリットは、王宮で過ごす間も怪我が治るまではコルセットをつける必要はないと思っていた。きちんとした理由があることなのだから、咎めるつもりはない。
だけど使節団の研修には礼儀作法やダンスの時間があるのだ。
礼儀作法やダンスの授業を楽なワンピースで受けても意味がない。
また、使節団のほとんどは男性だ。
成人した女性が家族でもない男性の中でラフな姿を続けるのも問題である。
野卑な目で見る者もいれば、身嗜みが悪いと嫌悪感を示す者もいるだろう。
「はい。研修にはきちんとした服装で参加致します。以前はそうしてお茶会にも参加していました」
ジェーンはそれが必要なことである以上、コルセットを付けることを厭わない。
結果として怪我の治りが遅くなっても仕方のないことだと思っている。
だけどマルグリットは絶対に駄目だと言った。
「怪我を治すのが何より大切なことよ。それに怪我をした状態で礼儀作法やダンスを習っても意味がないでしょう」
以前のジェーンが粗相の多い令嬢だと言われていたのは、怪我をしていたからだ。
アリシアたちは何も説明していないのに、時期などを考えて思い当ったのだろう。
物を落とすのは、腕が痛くて力を入れられないから。
何もないところで躓くのは、足が痛くて足をあまり上げられないから。
重心がおかしいのも、姿勢が悪いのも、痛む箇所を無意識に庇っていたせいだ。
そんな状態でレッスンを受けても正しいものは身につかない。
マルグリットの中にはジェーンの境遇への同情や、助けたいという気持ちがある。
だけど使節団の一員となる以上、国の代表として恥ずかしくない所作を身につけてもらわなければならないのだ。
「あなたには酷なことかもしれないけれど、研修を行っている講師たちにあなたの診断書を見せようと思っているの。講師たちには怪我の状態を正確に知ってもらう為よ。そして礼儀作法やダンスの授業は怪我が治ってから集中的に受けられるよう別メニューを組んでもらうわ。それまでは他の人たちが礼儀作法やダンスの授業を受けている間に語学や歴史などの座学を進めるようにしましょう」
「…そんなことが可能なのですか。可能なのであればとても有難いことですわ」
「…あなたは辛い思いをするかもしれないわ。講師や団員たちは、研修の進行を妨げていたあなたの義妹に嫌悪感を持っているし、1人だけ途中からの参加よ。更には別メニューを組んでの特別な扱いになるわ。他の団員たちから悪い感情を向けられる可能性が高いと思うの」
「私なら平気ですわ」
ジェーンを思い、暗い表情を見せるマルグリットに、ジェーンは微笑んだ。
「私はずっと理不尽に向けられる悪意の中で暮らしていました。それに比べれば、悪意を向けられても納得ができる理由です。理由がわかっていれば認めて頂けるよう頑張れますわ。皆様に受け入れて頂けるよう懸命に努めます」
ジェーンの答えにマルグリットの表情が満足そうなものに変わった。
境遇への同情やサンドラへの思いだけではなく、ジェーン自身を気に入ったようだ。
0
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる