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2章
81 慟哭①
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あの後必要な指示を済ませたレイヴンは、アリシアの部屋へ2人で戻ってきていた。
今日何度も泣いていたアリシアは顔が赤くなってしまっている。
その顔を他の者に見せたくないレイヴンは、アリシアをまた抱き上げて部屋までの道を歩いた。
その道すがらもレイヴンは何とも言えない視線を感じていた。
王太子宮にはジェーンがレイヴンの子を身籠ったという噂を知らない者はいないようだ。
それが事実であればレイヴンの第一子である。
男子であれば次の王太子となるかもしれない。
レイヴンや王家にとっては喜ばしいことである。
だけどジェーンは正妃であるアリシアの従姉だ。
また、アリシアがこれまで社交界で評判の悪いジェーンを庇っていたことを知っている者は多い。
アリシアは夫と従姉に裏切られたことになる。
レイヴンの為に喜ぶべきなのか、アリシアの為に怒るべきなのか。
アリシアにつくのか、ジェーンにつくのか。
彼らが考えているのはそんなことだろう。
レイヴンは気持ちが暗く沈んでいくのを止めることができなかった。
レイヴンはこれまでアリシアを大切にしてきたつもりだった。
アリシアへ気持ちを告げて本当の気持ちを隠さなくて済むようになってからはもちろん、それまでも儀礼的な態度ではあったが、できる限り丁重に接していた。
アリシアに対して無礼な態度を取るような者は許さなかった。
これまでも側妃の身分を望んですり寄ってきた女はいる。
そんな女は手引きをした者を含めて徹底的に排除した。
これまでアリシアの他に女の影など感じさせたことはないはずだ。
それなのに彼らは、レイヴンがジェーンと関係を持ち、アリシアを裏切ったと思っている。
レイヴンがアリシアを大切に思っていることなど、伝わっていなかったのだろう。
そしてそれはアリシアも同じなのだ。
部屋に戻ると、アリシアの目元を冷やすタオルを用意したエレノアが待ち構えていた。
レイヴンは今、アリシアを膝に乗せてそれをアリシアの顔に当てている。
エレノアは献身的な素振りを見せるレイヴンに何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたように出て行った。
エレノアのあの目は、かつてマリアンから向けられていた目によく似ている。
アリシアを大切にしないレイヴンを非難する目だ。
この王太子宮でアリシアの一番近くにいるエレノアさえレイヴンを信用していない。
レイヴンは無意識に溜息を吐いていた。
アリシアはレイヴンが何か思い詰めているような様子に気がついていた。
廊下ですれ違った侍女や侍従たちの視線にも当然気がついている。
ジェーンがレイヴンの子を身籠ったという噂は、アリシアにとってもジェーンにとっても不名誉なものだ。
だけどジェーンを王宮へ連れて来たのは、侯爵位を失くさずに済むようなんとかしようというレイヴンの好意であり、それ以外の意図がなかったことはわかっている。
学生時代の噂を考えれば不用意だったかもしれないが、3日後には皆真実を知ることになるのだ。
だからそんなに気にしないで欲しい、とアリシアは思っていた。
「レイヴン様…?」
呼び掛けるとレイヴンの体が揺れた。
「冷たかった?ごめんね、アリシア。もう少し我慢して」
そんな言葉と共に額へ優しく口づけられる。
だけどレイヴンの声には力がない。
酷く落ち込んでいるようだった。
今日何度も泣いていたアリシアは顔が赤くなってしまっている。
その顔を他の者に見せたくないレイヴンは、アリシアをまた抱き上げて部屋までの道を歩いた。
その道すがらもレイヴンは何とも言えない視線を感じていた。
王太子宮にはジェーンがレイヴンの子を身籠ったという噂を知らない者はいないようだ。
それが事実であればレイヴンの第一子である。
男子であれば次の王太子となるかもしれない。
レイヴンや王家にとっては喜ばしいことである。
だけどジェーンは正妃であるアリシアの従姉だ。
また、アリシアがこれまで社交界で評判の悪いジェーンを庇っていたことを知っている者は多い。
アリシアは夫と従姉に裏切られたことになる。
レイヴンの為に喜ぶべきなのか、アリシアの為に怒るべきなのか。
アリシアにつくのか、ジェーンにつくのか。
彼らが考えているのはそんなことだろう。
レイヴンは気持ちが暗く沈んでいくのを止めることができなかった。
レイヴンはこれまでアリシアを大切にしてきたつもりだった。
アリシアへ気持ちを告げて本当の気持ちを隠さなくて済むようになってからはもちろん、それまでも儀礼的な態度ではあったが、できる限り丁重に接していた。
アリシアに対して無礼な態度を取るような者は許さなかった。
これまでも側妃の身分を望んですり寄ってきた女はいる。
そんな女は手引きをした者を含めて徹底的に排除した。
これまでアリシアの他に女の影など感じさせたことはないはずだ。
それなのに彼らは、レイヴンがジェーンと関係を持ち、アリシアを裏切ったと思っている。
レイヴンがアリシアを大切に思っていることなど、伝わっていなかったのだろう。
そしてそれはアリシアも同じなのだ。
部屋に戻ると、アリシアの目元を冷やすタオルを用意したエレノアが待ち構えていた。
レイヴンは今、アリシアを膝に乗せてそれをアリシアの顔に当てている。
エレノアは献身的な素振りを見せるレイヴンに何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたように出て行った。
エレノアのあの目は、かつてマリアンから向けられていた目によく似ている。
アリシアを大切にしないレイヴンを非難する目だ。
この王太子宮でアリシアの一番近くにいるエレノアさえレイヴンを信用していない。
レイヴンは無意識に溜息を吐いていた。
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だけどジェーンを王宮へ連れて来たのは、侯爵位を失くさずに済むようなんとかしようというレイヴンの好意であり、それ以外の意図がなかったことはわかっている。
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だからそんなに気にしないで欲しい、とアリシアは思っていた。
「レイヴン様…?」
呼び掛けるとレイヴンの体が揺れた。
「冷たかった?ごめんね、アリシア。もう少し我慢して」
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だけどレイヴンの声には力がない。
酷く落ち込んでいるようだった。
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