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2章
72 侍医長からの報告②
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「…はい。このひと月ほど、アンジュ殿から暴力を受けていました」
アダムは胸の中にドスンっと重石を乗せられたのを感じた。
レオナルドが言う通り、アダムもこの取り決めが守られていると今まで信じていたのだ。
「…ところが、それだけではないのです」
そう言うとレオナルドはちらっとアリシアの顔を見た。アリシアは俯き加減でレオナルドを見ていない。
これ以上なにがあるというのか。
「診断書にある裂傷の痕についてですが、ジェーンが数年前にデミオン殿から暴力を受けているのをアリシア様が見ています」
「何?!」
「何ですって?!」
アダムとオレリアは反射的に立ち上がっていた。
レオナルドはそんな両親に向き直り、重苦しい気持ちのまま告げる。
「デミオン殿がジェーンを鞭で打っていたそうです。それだけでなく…、ジェーンを庇ったアリシア様も鞭で打たれ、怪我をしたそうです」
「な、にを…」
今度こそアダムは言葉を失った。
オレリアと2人、愕然と目を見開いている。
「お父様、お母様。申し訳ありません」
アリシアの声に2人は反射的に振り返り、目を見開いた。
アリシアが頭を下げているのだ。
「頭をお上げください、アリシア様!そのようなことをしてはいけません!!」
アリシアは2人の娘であるが、既に王太子妃になっている。
2人は公爵とその夫人であり、親であっても今は臣下の立場だ。
「アリシア。何があったのか、あなたが知っていることを話してちょうだい」
動揺するアダムに代わり、話を促したのはマルグリットだった。
「あなたがなぜ謝らなければならないのか、私たちに教えてちょうだい」
アリシアは頷くと、先ほどと同じ話をもう1度話して聞かせた。
「私があの時デミオン殿を信じたせいで、またこんなことになってしまいました。あの時私がお父様にお伝えしていれば…」
「それは違います、アリシア様」
話している内にまた込み上げてきた罪悪感でアリシアの声が震えている。
震えるアリシアの言葉を、ジェーンが労わるように遮った。
「先程も申し上げましたが、アリシア様は私の望みを叶えてくださっただけですわ。あの条件はお祖母様と公爵様、そして私が話し合って決めました。その取り決めが破られたのですもの、本当は私が公爵様へお伝えしなければならなかったのです。ですが私はそれを怠りました。それは、お伝えすれば資金援助が打ち切られてしまうからです。私には侯爵家や侯爵家の領地の為に資金援助が必要でした。だから私が、私の意志で隠蔽致しました。アリシア様が気に病むことなど何もないのです。公爵様、罰を受けるのは私です。侯爵家は受け取る資格のない資金を受け取っておりました」
「っ!それは私利私欲のためではないわ!少なくともあなたは…」
「もういい、2人とも。…いや、失礼致しました、アリシア様」
言い合う2人を止めたアダムは、アリシアに頭を下げてからジェーンへ向き直った。
「済まなかった、ジェーン。あの時あんな取り決めをするのではなかった。あの時はあれしか方法がないと思ったのだ。だがあの女を野放しにしたのが間違いだった。あの女をこちらで拘束しておいて人質にでもしていれば…」
「公爵様!!あの時の取り決めは私も一緒に考えました。公爵様もお祖母様も、私の身の安全と爵位の両方を守れるようにと一緒に考えてくださったではないですか。あの時はあれが最善だったのです」
アダムは胸の中にドスンっと重石を乗せられたのを感じた。
レオナルドが言う通り、アダムもこの取り決めが守られていると今まで信じていたのだ。
「…ところが、それだけではないのです」
そう言うとレオナルドはちらっとアリシアの顔を見た。アリシアは俯き加減でレオナルドを見ていない。
これ以上なにがあるというのか。
「診断書にある裂傷の痕についてですが、ジェーンが数年前にデミオン殿から暴力を受けているのをアリシア様が見ています」
「何?!」
「何ですって?!」
アダムとオレリアは反射的に立ち上がっていた。
レオナルドはそんな両親に向き直り、重苦しい気持ちのまま告げる。
「デミオン殿がジェーンを鞭で打っていたそうです。それだけでなく…、ジェーンを庇ったアリシア様も鞭で打たれ、怪我をしたそうです」
「な、にを…」
今度こそアダムは言葉を失った。
オレリアと2人、愕然と目を見開いている。
「お父様、お母様。申し訳ありません」
アリシアの声に2人は反射的に振り返り、目を見開いた。
アリシアが頭を下げているのだ。
「頭をお上げください、アリシア様!そのようなことをしてはいけません!!」
アリシアは2人の娘であるが、既に王太子妃になっている。
2人は公爵とその夫人であり、親であっても今は臣下の立場だ。
「アリシア。何があったのか、あなたが知っていることを話してちょうだい」
動揺するアダムに代わり、話を促したのはマルグリットだった。
「あなたがなぜ謝らなければならないのか、私たちに教えてちょうだい」
アリシアは頷くと、先ほどと同じ話をもう1度話して聞かせた。
「私があの時デミオン殿を信じたせいで、またこんなことになってしまいました。あの時私がお父様にお伝えしていれば…」
「それは違います、アリシア様」
話している内にまた込み上げてきた罪悪感でアリシアの声が震えている。
震えるアリシアの言葉を、ジェーンが労わるように遮った。
「先程も申し上げましたが、アリシア様は私の望みを叶えてくださっただけですわ。あの条件はお祖母様と公爵様、そして私が話し合って決めました。その取り決めが破られたのですもの、本当は私が公爵様へお伝えしなければならなかったのです。ですが私はそれを怠りました。それは、お伝えすれば資金援助が打ち切られてしまうからです。私には侯爵家や侯爵家の領地の為に資金援助が必要でした。だから私が、私の意志で隠蔽致しました。アリシア様が気に病むことなど何もないのです。公爵様、罰を受けるのは私です。侯爵家は受け取る資格のない資金を受け取っておりました」
「っ!それは私利私欲のためではないわ!少なくともあなたは…」
「もういい、2人とも。…いや、失礼致しました、アリシア様」
言い合う2人を止めたアダムは、アリシアに頭を下げてからジェーンへ向き直った。
「済まなかった、ジェーン。あの時あんな取り決めをするのではなかった。あの時はあれしか方法がないと思ったのだ。だがあの女を野放しにしたのが間違いだった。あの女をこちらで拘束しておいて人質にでもしていれば…」
「公爵様!!あの時の取り決めは私も一緒に考えました。公爵様もお祖母様も、私の身の安全と爵位の両方を守れるようにと一緒に考えてくださったではないですか。あの時はあれが最善だったのです」
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