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2章
68 王宮への帰還①
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王宮に到着した馬車は、王太子宮まで入っていく。
ジェーンは自分の作法が侯爵令嬢としての基準値まで達していないことを知っている為、あまり王宮に来ることはなかった。
それでも年に何度か行われる王家主催のパーティーやお茶会には顔を出すようにしていたけれど、王太子宮まで来るのは初めてだ。
馬車から降りるとレイヴンは先ほどと同じようにアリシアを横抱きにする。
ロバートもジェーンを抱き上げている。
「侍医は?!」
「こちらで準備しています!!」
レイヴンの呼びかけに侍従が答える。
レイヴンたちがそちらへ向かうのを侍女たちが固唾をのんで見守っていた。
「ひ、妃殿下?!」
レイヴンに抱きかかえられたアリシアに、待機していた侍医たちが駆け寄ってくる。
「アリシアじゃない!ジェーン嬢だ!!」
レイヴンの声に侍医たちは戸惑いの素振りを見せるが、ロバートは気にせずジェーンを部屋に運び込んだ。
訝しがりながら侍医たちも何も言わずに部屋へ入っていく。
少ししてロバートが部屋から出てきた。
レイヴンたちは医務室にされた部屋と向かい合っている部屋へ入るとソファに座った。
知らせを出しているのですぐに国王夫妻とルトビア公爵夫妻も来るだろう。
レイヴンは腕の中のアリシアに何度も「大丈夫だよ」と囁いていた。
深刻な様子のレイヴンたちを見て、侍女たちは浮かんでくる嫌な想像を必死で否定していた。
王宮に仕える侍女たちは、それなりの身分の令嬢たちである。
口に出すことは決して無いが、レイヴンが学生時代にあった噂を知っていた。
レイヴンが本当に想っているのはキャンベル侯爵令嬢ジェーンだ、という噂である。
そしてジェーンは王太子妃アリシアの従姉なのだ。
それが今、ジェーンが宮廷侍医の診察を受けていて、アリシアは泣き腫らした顔でレイヴンに宥められている。
侍女たちは最近言われていた噂を思い出す。
『王太子殿下が急に妃殿下を溺愛し始めたのは、浮気がばれて機嫌を取っているんだろう』
ジェーン嬢が先に王太子殿下の子を懐妊してしまったのではないかーー。
侍女たちは慌てて頭を振り、そのとんでもない想像を追い払った。
侍女たちがそんな想像をしているとは知りもしないアリシアは、ただただ怯えていた。
アリシアの気掛かりはジェーンの怪我の具合とマリアンのことだ。
デミオンのしたことを知っていながら隠匿したのはアリシアである。
その結果、またジェーンに怪我を負わせてしまった。
そのことでアリシアが罰を受けるのは良い。
既に王太子妃となったアリシアにアダムが罰を与えるのは難しいだろうが、それは国王陛下が考えてくれるだろう。
だけどマリアンのことは違う。
マリアンを巻き込むと決めたのはアリシアだ。
マリアンはただ従ってくれた。
マリアンが罰を受けたり放逐されるのは、何としても防がなければならない。
アリシアを抱き締めながら、レイヴンは後悔の念に囚われていた。
アリシアがそんな大怪我をしていたなんて知らなかった。
いや、ジェーンが学園を休んでいた頃、様子がおかしいのには気づいていたのだ。
学園で一緒に食事を摂る時や、パーティーで踊る時。
エスコートをして歩いている時にも、僅かに表情が変わることがあった。
いつもと違う仕草にも気がついていた。
今思えば痛む肩を庇っていたのだろう。
なぜあの時、どうしたのかと尋ねなかった?
尋ねたとしてもアリシアは、「なんでもありません」と答えただろう。
それでも、何度でも尋ねれば良かったのだ。
答えてくれるまで何度でも尋ねれば良かったのに、レイヴンは一度も尋ねることなく、ただ見ていた。
見ているだけだった。
「大丈夫だよ」
レイヴンは腕の中で震えるアリシアにまた囁いた。
アリシアが今一番案じているのはマリアンのことだろう。
公爵邸を訪ねた時、いつもアリシアの後ろに控えていたマリアン。
マリアンがレイヴンを見る目はただただ冷たかった。
アリシアを粗雑に扱うレイヴンを嫌悪していたのだろう。
だけどいくらマリアンがアリシアを主人と思い定めていたとしても、雇い主はアダムである。
雇用主の娘が他人に危害を加えられたのなら、アリシアがなんと言ってもアダムに報告するのが義務なのだ。
マリアンは義務を怠った。
それは罰を受けても仕方がないことだ。
それがわかっているから、アリシアは恐れている。
「大丈夫だよ、アリシア」
レイヴンはアリシアの額へ口づける。
大怪我をしていたのに気遣うこともできなかった。
大変な決断をして重圧に耐えていたのに寄り添いもしなかった。
アリシアに寄り添っていたただ一人。
それがアリシアの望みなら。
絶対に罰を受けさせたりしない。
ジェーンは自分の作法が侯爵令嬢としての基準値まで達していないことを知っている為、あまり王宮に来ることはなかった。
それでも年に何度か行われる王家主催のパーティーやお茶会には顔を出すようにしていたけれど、王太子宮まで来るのは初めてだ。
馬車から降りるとレイヴンは先ほどと同じようにアリシアを横抱きにする。
ロバートもジェーンを抱き上げている。
「侍医は?!」
「こちらで準備しています!!」
レイヴンの呼びかけに侍従が答える。
レイヴンたちがそちらへ向かうのを侍女たちが固唾をのんで見守っていた。
「ひ、妃殿下?!」
レイヴンに抱きかかえられたアリシアに、待機していた侍医たちが駆け寄ってくる。
「アリシアじゃない!ジェーン嬢だ!!」
レイヴンの声に侍医たちは戸惑いの素振りを見せるが、ロバートは気にせずジェーンを部屋に運び込んだ。
訝しがりながら侍医たちも何も言わずに部屋へ入っていく。
少ししてロバートが部屋から出てきた。
レイヴンたちは医務室にされた部屋と向かい合っている部屋へ入るとソファに座った。
知らせを出しているのですぐに国王夫妻とルトビア公爵夫妻も来るだろう。
レイヴンは腕の中のアリシアに何度も「大丈夫だよ」と囁いていた。
深刻な様子のレイヴンたちを見て、侍女たちは浮かんでくる嫌な想像を必死で否定していた。
王宮に仕える侍女たちは、それなりの身分の令嬢たちである。
口に出すことは決して無いが、レイヴンが学生時代にあった噂を知っていた。
レイヴンが本当に想っているのはキャンベル侯爵令嬢ジェーンだ、という噂である。
そしてジェーンは王太子妃アリシアの従姉なのだ。
それが今、ジェーンが宮廷侍医の診察を受けていて、アリシアは泣き腫らした顔でレイヴンに宥められている。
侍女たちは最近言われていた噂を思い出す。
『王太子殿下が急に妃殿下を溺愛し始めたのは、浮気がばれて機嫌を取っているんだろう』
ジェーン嬢が先に王太子殿下の子を懐妊してしまったのではないかーー。
侍女たちは慌てて頭を振り、そのとんでもない想像を追い払った。
侍女たちがそんな想像をしているとは知りもしないアリシアは、ただただ怯えていた。
アリシアの気掛かりはジェーンの怪我の具合とマリアンのことだ。
デミオンのしたことを知っていながら隠匿したのはアリシアである。
その結果、またジェーンに怪我を負わせてしまった。
そのことでアリシアが罰を受けるのは良い。
既に王太子妃となったアリシアにアダムが罰を与えるのは難しいだろうが、それは国王陛下が考えてくれるだろう。
だけどマリアンのことは違う。
マリアンを巻き込むと決めたのはアリシアだ。
マリアンはただ従ってくれた。
マリアンが罰を受けたり放逐されるのは、何としても防がなければならない。
アリシアを抱き締めながら、レイヴンは後悔の念に囚われていた。
アリシアがそんな大怪我をしていたなんて知らなかった。
いや、ジェーンが学園を休んでいた頃、様子がおかしいのには気づいていたのだ。
学園で一緒に食事を摂る時や、パーティーで踊る時。
エスコートをして歩いている時にも、僅かに表情が変わることがあった。
いつもと違う仕草にも気がついていた。
今思えば痛む肩を庇っていたのだろう。
なぜあの時、どうしたのかと尋ねなかった?
尋ねたとしてもアリシアは、「なんでもありません」と答えただろう。
それでも、何度でも尋ねれば良かったのだ。
答えてくれるまで何度でも尋ねれば良かったのに、レイヴンは一度も尋ねることなく、ただ見ていた。
見ているだけだった。
「大丈夫だよ」
レイヴンは腕の中で震えるアリシアにまた囁いた。
アリシアが今一番案じているのはマリアンのことだろう。
公爵邸を訪ねた時、いつもアリシアの後ろに控えていたマリアン。
マリアンがレイヴンを見る目はただただ冷たかった。
アリシアを粗雑に扱うレイヴンを嫌悪していたのだろう。
だけどいくらマリアンがアリシアを主人と思い定めていたとしても、雇い主はアダムである。
雇用主の娘が他人に危害を加えられたのなら、アリシアがなんと言ってもアダムに報告するのが義務なのだ。
マリアンは義務を怠った。
それは罰を受けても仕方がないことだ。
それがわかっているから、アリシアは恐れている。
「大丈夫だよ、アリシア」
レイヴンはアリシアの額へ口づける。
大怪我をしていたのに気遣うこともできなかった。
大変な決断をして重圧に耐えていたのに寄り添いもしなかった。
アリシアに寄り添っていたただ一人。
それがアリシアの望みなら。
絶対に罰を受けさせたりしない。
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