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2章

62 デミオンとの取引④/アリシアの秘密①

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 ジェーンはまだ12歳で結婚もしていない。

 デミオンが引退したら侯爵位は遠縁の者に移る。
 キャンベル侯爵家の一族としてジェーンは何度も顔を合わせているが、彼には既に息子がいる。彼が侯爵位を継いでしまえばその後継は彼の息子だ。

 ルトビア公爵家としても、他家の継承権について口出しをすることはできない。
 公爵家がジェーンに侯爵位を返すよう要求すれば、公爵家が己の血筋を使って侯爵家を乗っ取ろうとしていると非難されるだろう。
 公爵家の権力が強いだけに、反発する貴族が多く出てくるのは間違いなかった。

 爵位をジェーンが受け継ぐには、ジェーンが結婚するまでデミオンが侯爵でいるしかない。
 そこでアンジュを返す代わりに条件が提示された。

・2度とジェーンに暴力を振るわないこと。
・衣服や食事など、生活する為に必要なものをきちんと与えること。
・ジェーンの結婚と同時にその夫に爵位を譲ること。
・今後ジェーンの社交活動を妨害しないこと。

「これを守るならアンジュは解放し、資金援助もしてやる。破ったら即資金援助を打ち切るからな」

 アダムにそう言われてデミオンは一も二もなく頷いた。
 地下牢から憔悴して薄汚れたアンジュが引き出されてくると、その身を抱き寄せ、1度も振り返らずに帰っていった。
 傷つけられたジェーンへの気遣いや謝罪は結局1度もなかった。




「社交活動の妨害?」

「アンジュ殿は私を嫌っていましたが、初めから手を上げられていたわけではありません。それが始まったのは私がお茶会に招かれるようになってからです」

 ジェーンがお茶会に招かれるようになると、祖母の前公爵夫人が必要なドレスや装飾品を贈ってくれた。
 それは当然用意すべき侯爵夫妻が用意しないからだが、アンジュにそんなことは関係ない。
 ジェーンのものを欲しがるエミリーがそれを見逃すはずがないが、さすがのデミオンも自分の母親が贈ったものを横取りするとどうなるかわかっていたようで、最初の頃はエミリーを止めていた。
 だがそうするとアンジュがヒステリーを起こす。

「なぜあの女の子どもを庇うのよ!!エミリーよりあの女の子どもが可愛いんでしょう!!やっぱりあの女を愛してたのよ!!!」

 アンジュに惚れているデミオンは、ジェーンがお茶会に出掛ける度にそう言って泣き喚くアンジュが可哀想であり、他の女と子どもを作った罪悪感に苛まれてしまう。
 次第にエミリーを止めるのをやめ、好きにさせるようになった。

 そうするとドレスのないジェーンはお茶会に出られない。
 出席の返事をしているお茶会を直前で欠席することもあった。
 それは当然アリシアから祖母の耳に入る。

 だがここで祖母は直接デミオンを叱責しなかった。
 この頃ルトビア前公爵夫人と現公爵夫人は、それぞれ社交に精を出していた。
 2人を囲むのは公爵家と親交を持ちたい貴族の夫人たちだ。心配顔の夫人たちからジェーンの話題が出ることになる。

「〇〇侯爵夫人のお茶会を欠席されたようですが…」
「〇〇伯爵夫人のお茶会も直前で欠席されたと聞いています」

 そう言われると、彼女たちは憂い顔でこう話すのだ。

「性の悪い女がジェーンの社交を邪魔するのです。自分の生んだ娘が跡を継げないからといって、意地の悪いことですわ」

 それだけで貴婦人たちは正しく事情を察してくれた。




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