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2章

52 『花の王国』③

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「『花の王国』とはそんなお話です」

「…詳しいな」

「この2人が好きで、良く読まされましたからね」

 レオナルドは肩をすくめるが、レオナルドもロバートも優しい顔をしている。
 幼いアリシアとジェーンに絵本を読み聞かせる少し年長のレオナルドとロバート。
 微笑ましい光景が目に浮かぶようだった。

「ねえ、ジェーン。使節団のこと、やっぱりお願いできないかしら?」

 アリシアが硬い表情で呼びかけた。
 アリシアからはこれまでの楽しい雰囲気が消えている。
 聞いてはいけない話だと即座に判断したハンナは、そっと立ち上がると席を外した。
 さすがにサンドラがいた頃からの者は、下働きであってもしっかり教育されているのだ。

「私たち『花の王国』に憧れていたわよね。あの頃私たちが憧れていたのは、お姫様かしら?ミアではなかったかしら?」

 幼い頃を思い出す。
 大好きだった物語。 

 あの頃2人で憧れていたのは、花々や妖精に囲まれたお姫様ではなかった。
 大人になり、自分の意志で知らない世界へ旅に出るミアだった。

「私たちもいろんなところへ行ってみたいわね」

 そう言って笑い合っていた2人は、成長していくうちに自身の身分や立場を理解してしまった。
 世界を旅するミアは夢となり、今は花の王国を模した庭園が拠り所となっている。

「私たち、知らない世界に憧れたわね。ミアのように色んな国へ旅をしたいと思っていたわ。私にはもう難しいけれど…、あなたにはチャンスがあるの。使節団に入ればアルスタへ行くことができるのよ。アルスタの暮らしや文化、歴史、芸術、技術や産業、そこに住む人々。新しいものにたくさん出会って、学べることがたくさんあるわ。もちろん使節団としての仕事が第一だけど、お休みの日には私の分もいろんなところへ行って、いろんなものを見てきて欲しいわ」

 ジェーンはアリシアの言葉を俯いてきいていた。
 それはこれまで一度も忘れたことがない夢だ。

 ただ、夢だった。

「それに私、学園でのあなたを知っているわ。3年間ずっとAクラスで、私たちと常にトップを争っていたわよね。あなたはアルスタ語も話せるし、歴史にも詳しいわ。でもなにより私はあなたと討論するのが楽しかった。あなたは自分の考えをしっかり言葉にして相手に伝えることができる。そして相手の考えを取り入れて、柔軟に自分の意見を変えることもできるわ。それは外交をする上で重要な能力だと思うの。秀でた能力を持っているのに使う場所がないなんて勿体ないことだわ」

 ジェーンは俯いたまましばらくじっとしていた。
 誰も、何も言うことができない。
 ただ黙って2人を見守っていた。



「アリシア様」

 しばらくしてジェーンが顔を上げた。
 覚悟を決めた顔をしている。
 答えが出たようだ。

「私、使節団加入のお話、お受けしたいと思います」

 アリシアの顔がパッと輝いた。
 それは同時にジョッシュとの婚約を解消するということでもある。

「使節団のお話は私にとって初めから魅力的なものでした。ですがその為にはジョッシュ殿との婚約を解消しなければいけません。…本当の目的はそちらなのですものね?」

 ジェーンが悪戯っぽく笑いかけると、アリシアは視線を逸らした。
 それを見てジェーンが笑う。
 明るい笑顔だった。
 



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