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2章
42 木戸の向こう②
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「ここは、どういうところなんだ?」
呆然として呟くレイヴンに、アリシアは嬉しそうに笑う。
この庭園はアリシアにとっても自慢なのだ。
「ここはジェーンの花園ですわ」
「ジェーンの花園?」
「この庭園の花は、ジェーンが世話をしているのです」
前を歩くジェーンに視線を向ける。
ジェーンも話が聞こえていたのだろう。後ろを振り返り頷いた。
「だけどここは敷地外では?」
「あら、ここは侯爵家の敷地ですわ」
「えっ?」
驚いた様子のレイヴンに、アリシアがふふっと笑う。
レオナルドやロバートも意味ありげな笑みを浮かべている。
「侯爵邸の外周を馬車でまわってみてくださいませ。本当の広さがわかりますわ」
「あの塀があるので、侯爵邸のことを詳しく知らない人は敷地があそこまでだと思うのですが、本当はもっと奥まで続いているのですよ」
「ですからお父様やアンジュ殿は、ここのことを知りません」
「…なんだって?」
わざわざ塀を巡らせて敷地を区切っているのだ。あの塀を作った者には、このエリアを人目から隠したい理由があったのだろう。
だけどそれを当代の当主が知らないなんてことがあるだろうか。
「もちろんここのことは邸の見取り図に載っていますし、管理費や維持費などの経費も毎月掛かっています。少しでもこの邸に関心があればわかることなのですが」
ジェーンは哀しそうに目を伏せた。
当主であるはずのデミオンは邸の見取り図すら見たことがなく、アンジュも女主人の仕事である邸の管理を一切していないということだ。
彼らにとって侯爵家とは、贅沢をする為の供給源でしかないのだろう。
その資金も、今ではほとんどルトビア公爵家から援助されているものだ。
今、邸の管理は家令のクレールが行っている。
クレールはサンドラが生きていた時からの家令で、デミオンやアンジュの側についたように振る舞いながら、ジェーンに便宜を図ってくれている。本当はジェーン側の人間だ。
「私たちには幸運だったわ。もしあの2人に知られていたら、この花園は潰されていたと思うもの」
「…そうでしょうね」
表にある庭園は、デミオンとアンジュが移ってきた後すぐに作り変れられた。
それまで植えられていたサンドラが好んだ花々は全て処分され、アンジュが好むものへと変えられたのだ。
だから表の庭園を見ても、4人は何も感じない。
だけどここは違う。
サンドラが生きていた時から、ジェーンが手を掛けて世話をしている庭園だ。
「それにしても随分新しい花が増えたのね」
「ロイ兄様が、外国からこの国にはない花の種を色々送ってくださるのですわ」
「まあ。それはロイ兄様が外国に行かれて良かったことね」
アリシアとジェーンが笑い合っている。
レイヴンが初めて見る花は外国のものなのだろう。
アリシアは王宮にいる時と違って屈託なく笑っている。
アリシアがレイヴンの前でこんな風に笑うのは、婚約者に選ばれたあの日、2人で庭園を歩いた時以来だ。
楽しそうに笑うアリシアを見て、レイヴンは嬉しくなるのと同時に、アリシアとの距離を感じて哀しくなった。
最近は本音で話すことができるようになっていた。
アリシアも本当の気持ちを見せてくれていると思っていた。
だけどレイヴンといてもこんな笑顔を見せてくれることはない。
もう一度きちんと話をしよう、とレイヴンは心に誓った。
呆然として呟くレイヴンに、アリシアは嬉しそうに笑う。
この庭園はアリシアにとっても自慢なのだ。
「ここはジェーンの花園ですわ」
「ジェーンの花園?」
「この庭園の花は、ジェーンが世話をしているのです」
前を歩くジェーンに視線を向ける。
ジェーンも話が聞こえていたのだろう。後ろを振り返り頷いた。
「だけどここは敷地外では?」
「あら、ここは侯爵家の敷地ですわ」
「えっ?」
驚いた様子のレイヴンに、アリシアがふふっと笑う。
レオナルドやロバートも意味ありげな笑みを浮かべている。
「侯爵邸の外周を馬車でまわってみてくださいませ。本当の広さがわかりますわ」
「あの塀があるので、侯爵邸のことを詳しく知らない人は敷地があそこまでだと思うのですが、本当はもっと奥まで続いているのですよ」
「ですからお父様やアンジュ殿は、ここのことを知りません」
「…なんだって?」
わざわざ塀を巡らせて敷地を区切っているのだ。あの塀を作った者には、このエリアを人目から隠したい理由があったのだろう。
だけどそれを当代の当主が知らないなんてことがあるだろうか。
「もちろんここのことは邸の見取り図に載っていますし、管理費や維持費などの経費も毎月掛かっています。少しでもこの邸に関心があればわかることなのですが」
ジェーンは哀しそうに目を伏せた。
当主であるはずのデミオンは邸の見取り図すら見たことがなく、アンジュも女主人の仕事である邸の管理を一切していないということだ。
彼らにとって侯爵家とは、贅沢をする為の供給源でしかないのだろう。
その資金も、今ではほとんどルトビア公爵家から援助されているものだ。
今、邸の管理は家令のクレールが行っている。
クレールはサンドラが生きていた時からの家令で、デミオンやアンジュの側についたように振る舞いながら、ジェーンに便宜を図ってくれている。本当はジェーン側の人間だ。
「私たちには幸運だったわ。もしあの2人に知られていたら、この花園は潰されていたと思うもの」
「…そうでしょうね」
表にある庭園は、デミオンとアンジュが移ってきた後すぐに作り変れられた。
それまで植えられていたサンドラが好んだ花々は全て処分され、アンジュが好むものへと変えられたのだ。
だから表の庭園を見ても、4人は何も感じない。
だけどここは違う。
サンドラが生きていた時から、ジェーンが手を掛けて世話をしている庭園だ。
「それにしても随分新しい花が増えたのね」
「ロイ兄様が、外国からこの国にはない花の種を色々送ってくださるのですわ」
「まあ。それはロイ兄様が外国に行かれて良かったことね」
アリシアとジェーンが笑い合っている。
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アリシアがレイヴンの前でこんな風に笑うのは、婚約者に選ばれたあの日、2人で庭園を歩いた時以来だ。
楽しそうに笑うアリシアを見て、レイヴンは嬉しくなるのと同時に、アリシアとの距離を感じて哀しくなった。
最近は本音で話すことができるようになっていた。
アリシアも本当の気持ちを見せてくれていると思っていた。
だけどレイヴンといてもこんな笑顔を見せてくれることはない。
もう一度きちんと話をしよう、とレイヴンは心に誓った。
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