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2章

41 木戸の向こう①

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 レオナルドにエスコートされたジェーンを先頭に、侯爵家の前庭を通り過ぎていく。
 その後ろを5人の護衛が遠巻きについて歩く。

 アリシアをエスコートしているレイヴンは、なぜだか暗い顔をしていた。
 こんなに覇気のないレイヴンは初めてで、アリシアは戸惑ってしまう。
 横顔を窺っていると視線に気づいたレイヴンが、暗い顔のまま微笑んだ。

 アリシアが心配そうにこちらを見ている。
 それがわかっていても表情を取り繕うだけの余裕がレイヴンにはなかった。
 それにアリシアが気に掛けてくれていることに、喜びも感じてしまうのだ。

 レイヴンは正直なところ、学生時代の噂なんて半分忘れていた。
 卒業以来ジェーンとは顔を合わせることもなく、結婚したばかりの王太子夫妻にそんな話題を持ち出すような者もいない。最近ではレイヴンがアリシアを寵愛していると専ら評判なので尚更だ。

 だけどアリシアはあの噂を覚えている。
 そしてそれが真実だと思っているのだ。
 
 アリシアに側妃を選ぶよう言われた時、レイヴンは初めてアリシアに気持ちを伝えた。
 それまでずっと伝えられなかった気持ちを言葉にできたレイヴンは、やっと一歩を踏み出せたのだと満足していた。
 だけどアリシアがあの噂を信じているのなら、レイヴンが告げた「これまでもずっと愛していたんだ」なんて言葉は、空々しく聞こえていただろう。
 腕の中でアリシアは、「2年前はジェーンを愛していたくせに」と思っていたのかもしれない。
 
 本当はレオナルドに言われた通り学生時代のあの時に、プライドなどかなぐり捨てて噂を否定しなければならなかったのだ。
 そうしていればアリシアとの関係ももっと早く変わっていた。

 後悔に襲われるレイヴンは、気持ちが暗くなるのを抑えることができなかった。


 レイヴンが後悔に苛まれている間にも、アリシアたちは庭をどんどんと歩いていく。
 アリシアたちに気付いた庭師が、仕事の手を止めて頭を下げる。
 アリシアたちは軽く頷き返してその前を通り過ぎた。

 随分と歩き、気がつくと塀の前まで来ていた。
 敷地の端まで来てしまったのだとレイヴンは思ったが、アリシアたちの目的地はここだったようだ。
 軽く辺りを見渡して人気がないことを確認したジェーンが、塀を覆う蔦をひょいと捲る。
 そこには質素な木戸が隠れていた。

 木戸は狭い為、1人ずつしか通ることができない。アリシアがレイヴンの腕から手を離そうとする。
 レイヴンはその手を逃がさずに握りしめた。
 アリシアは驚いた顔をしたが嫌がることはなく、手を繋いだまま1人ずつ木戸をくぐった。

 木戸の先には、通り過ぎてきた庭園とは違った趣の庭が広がっていた。
 アリシアはまたレイヴンにエスコートされているが、ジェーンたちはそれぞれ1人で歩いている。
 とても自然な姿だ。
 きっとこれまではアリシアも1人で歩いていたのだろう。

「なんだか…凄いね」

 レイヴンは思わず呟いた。
 庭園にはレイヴンがこれまで見たことのない花がたくさん咲いている。
 何とも言い表せない様な幻想的な光景に、レイヴンは俗世から切り離されたような不思議な気分になっていた。
  

 



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